11時半、は談話室に行った。
暖炉にはまだわずかに残り火が燃え、ひじかけ椅子が弓なりの黒い陰に見えた。
そのとき、後ろからハリーとロンが現れた。
「時間もピッタリだ」
二人のどちらかが言った。
「さあ行かなきゃ」
そして、三人が出口の肖像画の穴に入ろうとしたとき、一番近くの椅子から声がした。
「、まさかあなたがこんなことをするとは思わなかったわ」
ランプがポッと現れた。
ハーマイオニーだ。
ピンクのガウンを着てしかめ面をしている。
「また君か!ベッドに戻れよ!」
ロンがカンカンになって言った。
「本当はあんたのお兄さんに言おうかと思ったのよ。パーシーに。監督生だから、絶対に止めさせるわ」
ハーマイオニーは容赦なく言った。
ハリーもロンも怒りを通り越して呆れているようだった。
「ロン、、行くぞ」
ハリーは「太った婦人の肖像画」を押し開け、その穴を乗り越えた。
そんなことであきらめるハーマイオニーではない。
ロンに続いて肖像画の穴を乗り越え、三人に向かって怒ったアヒルのように、ガーガー言い続けた。
「グリフィンドールがどうなるか気にならないの?自分のことばっかり気にして。スリザリンが寮杯を取るなんて私はいやよ。せっかくが稼いだ点数を、あなたたちがご破算にするんだわ」
「あっちへ行けよ」
「いいわ。ちゃんと忠告しましたからね。明日家に帰る汽車の中で私の言ったことを思い出すでしょうよ。あなたたちは本当に・・・・・」
本当に何なのか、そのあとは聞けずじまいだった。
ハーマイオニーが中に戻ろうと後ろを向くと、肖像画がなかった。
太った婦人は夜のお出かけで、ハーマイオニーはグリフィンドール塔から締め出されてしまったのだ。
「さあ、どうしてくれるの?」
ハーマイオニーはけたたましい声で問いつめた。
「知ったことか」
ロンが言った。
「僕たちはもう行かなきゃ。遅れちゃうよ」
廊下の入口にさえたどり着かないうちに、ハーマイオニーが追い付いた。
「一緒に行くわ」
「ダメ。来るなよ」
「ここに突っ立ってフィルチに捕まるのを待っていろっていうの?四人とも見付かったら、私、フィルチに本当のことを言うわ。私はあなたたちを止めようとしたって。あなたたち、私の証人になるのよ」
「君、相当の神経してるぜ・・・・・」
ロンが大声を出した。
「シッ。二人とも静かに。なんか聞こえるよ」
ハリーが二人の会話を遮った。
また、さっきからずっと三人の言い争いばかり聞いていたはだんだん飽々していた――どうして仲良く出来ないのかしら。
四人がその音に近付くと、暗闇の中で何かが動いた。
「ああよかった!見付けてくれて。もう何時間もここにいるんだよ。ベッドに行こうとしたら新しい合言葉を忘れちゃったんだ」
「ネビル、今は小さな声で話さないと彼らがまた言い争うから・・・・・」
がネビルの肩に手を置いてそう言うと、ハリーが肩に乗せた手を掴み、暗闇での顔を見て言った。
「それ、本気で言ってないよね?」
長年一緒にいただが、こんな心底恐ろしいハリーの笑顔を見たのは初めてだった。
「ハリー、僕たち、立ち話している場合じゃないよ」
ロンは腕時計に目をやり、それからものすごい顔でネビルとハーマイオニーを睨んだ。
「もし君たちのせいで、僕たちが捕まるようなことになったら、クィレルが言ってた『悪霊の呪い』を覚えて君たちにかけるまでは、僕、絶対に許さない」
ハーマイオニーは口を開きかけた。
しかし、ハリーの注意によって、何を言おうとしたのかわからず仕舞いだった。
五人は大急ぎで四階への階段を上がり、抜き足差し足でトロフィー室に向かった。
マルフォイもクラッブもまだ来ていなかった。
トロフィー棚のガラスがところどころ月の光を受けてキラキラと輝き、カップ、盾、賞杯、像などが、暗がりの中で時々瞬くように金銀にきらめいた。
五人は部屋の両端にあるドアから目を離さないようにしながら、壁を伝って歩いた。
マルフォイが飛込んできて不意打ちを食らわすかもしれないと、ハリーはロンとに合図し、杖を取り出した。
「遅いな、多分怖じ気付いたんだよ」
ロンが囁いた。
その時、隣の部屋で物音がして、五人は飛び上がった。
「いい子だ。しっかりかぐんだぞ。隅の方に潜んでいるかもしれないからな」
フィルチがミセス・ノリスに話しかけている。
の心臓が早鐘のように打った。
そのとき、足がすくんだの手をハリーは掴み、他の三人を手招きし、急いで自分についてくるように合図した。
五人は音を立てずにフィルチの声とは反対側のドアへと急いだ。
ネビルの服が曲がり角からヒョイと消えたとたん、間一髪、フィルチがトロフィー室に入ってくるのが聞こえた。
「どこかこのへんにいるぞ。隠れているに違いない」
フィルチがブツブツ言う声がする。
「こっちだ!」
ハリーはにそう言った。
はコクリと頷いて、後ろの三人を手招きした。
鎧がたくさん飾ってある長い回廊を、五人は石のようにこわばってはい進んだ。
フィルチがどんどん近づいて来るのがわかる。
ネビルが恐怖のあまり突然悲鳴を上げ、やみくもに走り出した――つまずいてロンの腰に抱きつき、二人揃ってまともに鎧にぶつかって倒れこんだ。
鎧は激しい音を立てて崩れた。
「逃げろ!」
五人は回廊を疾走した。
フィルチが追い掛けてくるかどうか振り向きもせず――全速力でドアを通り、次から次へと廊下を駆け抜け、今どこなのか、どこへ向かっているのか、にはまったく分からなかった――タペストリーの裂け目から隠れた抜け道を見つけ、矢のようにそこを抜け、出てきたところが「妖精の魔法」の教室の近くだった。
そこはトロフィー室からだいぶ離れていた。
「フィルチを巻けたと思う?」
は冷たい壁に寄りかかり、息を整えながら聞いた。
「うん、巻けたと思うよ」
ハリーが答えた。
「だから――そう――言ったじゃない」
ハーマイオニーは胸を押さえて、あえぎあえぎ言った。
には何が「そう」なのか分からない。
「グリフィンドール塔に戻らなくちゃ、出来るだけ早く」
ロンが言った。
「そうだね」
は眠い目を擦りながら、ハリーとロンの後に従った。
フィルチに追いかけられて危機一髪!