8月最後の週、とハリーはホグワーツに行く準備のため、忙しかった。
また、その手伝いのため、リリーもも忙しく、暇な男どもが食事係となった。
彼らの食事は案外、美味しいと好評だった。
「パパー」
9月1日の二日前、は両親の寝室をノックした。
「どうした、」
本を読んでいた、シリウスは顔を上げ、を招き入れた。
「パパはホグワーツでいじめられなかった?」
「は?」
突拍子もない、の質問にシリウスは間抜けな声を出した。
「どうして、そんな質問が出てくるんだ?」
シリウスはに何があったのか、聞きたがった。
「別に・・・わかんない。明後日のこと考えると、不安なの。パパだってママだっていないし。それに私の家はあの人と同じ考えの人が多いんでしょう?みんな怖がって一緒になんか話してくれないわ」
が必死に訴える姿にシリウスは心を痛めた。
「、ホグワーツは――」
「シリウス、ちょっと聞きたいんだけど――取り込み中だったか」
シリウスが言いかけた途端、ドアを開けてジェームズが入ってきた。
ジェームズは罰が悪そうな顔をすると、部屋を出て行こうと、ドアノブに手をかけた。
しかし、それをシリウスが止めた。
「待てよ。ジェームズ、いいところに来た。お前からも証言してやってくれよ」
「何をだよ」
ジェームズは当惑した表情でとシリウスを見比べた。
「が心配なんだって、ホグワーツに行くことが」
ジェームズはちょっとおかしそうに微笑を浮かべると、を抱きしめた。
「大丈夫。ホグワーツはたくさんの友人達がいる。すぐにどんな人でも友達になれるさ。実際、シリウスとは汽車の中で意気投合して、そのままずっと一緒だ。リリーみたいな正義感の強い人もいるから、安心していいよ。それに、何かあったら、ハリーに言えばいい。力になれる。にいつだって手紙を出せるんだ。寂しくなんかないだろう?」
ジェームズは未だ不安そうな顔のを見つめた。
「何か反論はあるかな?」
が言った。
「ブラック家の末裔・・・・・」
がそうぼそりというと、ジェームズはギクリとした表情になり、すぐにいつもの表情に戻っていった。
「、大丈夫だよ。もし、世界中が君の敵になったとしても僕は君の味方だ」
それでも不安そうな顔をしているが、先程より大分柔らかな表情になっていた。
「それに、は可愛いんだからそこらへんの男どもが放って置くわけがない。一人にはならないけど、狼には気をつけるんだよ」
ジェームズの砕けた表情と茶化したような言い方はを心から安心させた。
「うん、気をつける!」
そんな二人の漫才のような姿を見ていたシリウスは盛大にため息をついた。
そして、思わず、本当に自分の娘なのかと疑ってしまった。
「さあ、、準備をしてきなさい。終っていないだろう?」
シリウスは気を取り直し、を寝室から追い払った。
そして、ドアを閉め、邪魔除けをかた。
それがわかったは自室へもどることにした。
すると、その途中、廊下でばったりとハリーに出会った。
「あ、ハリー」
「なに?」
特に話すこともないが、は引き止めてしまった責任もあり、ホグワーツのことを聞いてみた。
「もちろん、楽しみさ。きちんと魔法が使えるんだから。今までは自分勝手な魔術で自分で自由に使うことが出来なかったんだ、嬉しいことだと思うけど?」
それがハリーの答えだった。
「は楽しみじゃないの?」
はハリーに聞かれてなんて答えようか、とても迷ってしまった。
「えっと・・・・・楽しみよ。だけど、友達とか作れないかもしれないし、それにもし、下手な魔女だったら・・・・・行く意味がないかもしれないし・・・・・」
その答えを聞くとハリーはとても驚いたように言った。
「どうして?僕たち、友達じゃないか。大丈夫だよ。もし作れなくたって、一人じゃないんだし。それに、は――これを出すのは君が嫌がると思うけど――僕のママの傷を癒してくれたじゃないか。そんな魔女が行く意味がないわけ、ないだろう?」
はハリーの勢いが余りにすごかったので、笑ってしまった。
「そうだね、ハリーの言うとおりだ。――楽しみだね、ホグワーツ」
二人はお互いににっこり笑うと、それぞれの場所へ向かった。
その日の夕食時、もハリーも不安が胸にありながらも、表情は明るかった。
また、彼らはホグワーツのことを根掘り葉掘り聞こうとした。
しかし、両親たちが答えたのはホンの一部だけであった。
次の日、最後の休日を二人は両親と一緒に楽しんでいた。
暖炉の前に六人はそれぞれの寛げる格好をして、床に直接座っていた。
途中、ジェームズとシリウスはを自分の近くに呼んで三人、仲良く会話を楽しんだり、ハリーはリリーとと一緒に料理の手伝いをしたり、就寝時がいつもより長かったり、親たちも二人に最後の休日を楽しませようとしているようだった。
しかし、時の流れは止められず、とうとう朝を迎えた。
4人の親は事前に予定を立てていたのか、スムーズにキングズクロスに着くことが出来た。
「さぁ9番線と10番線の柵に向かって走るんだ」
シリウスがの耳元でささやいた。
「パパたちは?ハリーも一緒でしょう?」
は一人で走るのは不安だ、という顔をしていた。
「仕方がないヤツだ。ハリー、悪いけど、と一緒に柵に向かって走ってくれないか。私達はその後をすぐ追うから。マグルに気づかれないようにね」
シリウスがテキパキと指示をだし、二人は恐ろしさと、不安と期待に満ちた顔で柵をくぐり抜けた。
すると、目の前にはプラットフォーム9と4分の3とかかれた看板が見え、その路線にはすでに紅色の蒸気機関車が止まっていた。
その脇には学校の生徒と思われる人々が家族と話しをしていた。
「わお」
の目がきらきらと輝いた。
「こら、何処へ行くんだ、」
夢遊病者のようにゆらゆらと汽車のほうへ行こうとしたの襟をシリウスが掴んだ。
「パパ、パパ、すごいよ、早く行こうよ!」
のあまりの興奮にシリウスはちょっと驚いたような顔をしたが、すぐにを見て、わが子の姿に微笑んだ。
「とうとうともお別れか。一年間、ちゃんと立派なレディになる努力をするんだよ」
ジェームズが愛おしそうにを見つめた。
しかし、そのジェームズの耳をリリーが引っ張り、とジェームズの見つめあいは終った。
「に手を出さないでって、何度言ったら分かるの!!」
「だしてないよ、リリー。そんなに怒らないで」
その傍ら、ハリーは自分の両親を呆れて眺めた。
「ハリー、気をつけてね。一生懸命、勉強するのよ」
すると、そのハリーにが母親のように言い聞かせた。
「わかってる」
ハリーも本当の息子のように素直に頷いた。
「寂しくなったらすぐに手紙を送りなさい。出来るだけすぐに返事を書くようにするから――仕事より、の手紙を優先させるしね」
ジェームズは本気かどうか分からないような口調でに話しかけた。
「もし、クリスマスに帰ってきたくなったら、帰ってきなさい」
シリウスもを気遣ってか、優しい微笑みでを見つめた。
「うん!」
二人には元気な笑顔を見せた。
ジェームズもシリウスも可愛い子供には優しいです。