汽車が発車すると、二人は空いているコンパートメントを見つけた。
「わーふかふか」
は椅子に早速すわると、子供のようにはしゃいだ。
「、駄目だよ、大人しくして」
ハリーは自分も幼く見えると感じたのか、をたしなめた。
「あ、ごめん」
も悪かったと感じたのかすまなそうに謝った。
そのとき、コンパートメントの扉が遠慮深げに開いた。
ハリーもも一緒になって扉を見た。
「あの、ここいいかな。他はどこもいっぱいなんだ」
赤毛の背の高い男の子だった。
「いいよ、もちろん。、こっちにおいでよ」ハリーが言った。
ハリーは急いで彼のために席を開けるため、を自分の隣に呼んだ。
「どうぞ。ごめんね、ちょっとイスが暖かいかも」
は照れ臭そうに笑った。
それにつられて、彼も笑った。
「私の名前は・ブラック。あなたは?」
「僕はロン、ロン・ウィーズリーさ」
ロンはと握手した。
「僕はハリー・ポッター」
ハリーもロンに手を出すと、握手を交した。
すると、ロンが言った。
「君たち、本当にあのハリー・ポッターと・ブラックなのかい?」
ロンは尊敬と恐れの入れ混じった視線で彼らを見た。
「そうよ。でも、私たちは自分たちが何をしたのかも分からないし、何が起こったかだってわからない」
はロンに向かってふてくされたように言った。
「ごめん、気分を悪くしちゃって」
ロンはの不機嫌さを感じとり、素直に謝った。
はそんなことを言われるとは思っていなく、とても驚いた。
そのとき、ガラッとドアがあき、赤毛の二人が立っていた。
二人とも同じような顔をしていた。
「ロン、俺たち、リーのところへ行くけど、大丈夫そうだな」
その二人はロンを見ると、ハリーとを見比べた。
「君たち、もしかしてあの・・・僕の名前はジョージ・ウィーズリー」
「僕はフレッド・ウィーズリー。見ての通り、双子さ」
そして、それぞれ自己紹介をすると、そのままドアを閉めて出ていってしまった。
「僕の兄さ。全部で5人いる。そのうち、一番上のビルは首席で卒業してアフリカで何かグリンゴッツの仕事してるし、チャーリーはクィディッチのキャプテンをしたあとルーマニアでドラゴンの研究、パーシーは今年、監督生だし、さっきのフレッドとジョージは悪戯ばっかりやってるけど成績はいいんだ。それに五人も上がいるもんだから、何も新しい物が貰えないんだ。制服はビルのだし、杖はチャーリーのだし、ペットだってパーシーのお下がりのネズミをもらったんだよ」
ロンは上着のポケットに手を突っ込んで太ったネズミを引っ張り出した。
ネズミはグッスリ眠っている。
「スキャバーズって名前だけど、役立たずなんだ。寝てばっかりだし。パーシーは監督生になったから、パパにふくろうを買ってもらった。だけど、僕んちはそれ以上の余裕が・・・だから、僕にはお下がりのスキャバーズさ」
ロンは耳元を赤らめた。喋りすぎたと思ったらしく、窓の外に目を移した。
「今度、私の家においでよ。ハリーだって一緒だから楽しいし、パパやママも貴方のこと、歓迎するわよ」
はしょげたロンを元気づけた。
「うん、ありがとう」
十二時半ごろ、通路でガチャガチャと大きな音がして、えくぼのおばさんがニコニコ顔で戸を開けた。
「車内販売よ。何かいりませんか?」
ハリーとは親から渡されたお金があったので、それぞれ好きなものを買った。しかし、ロンはサンドイッチを持ってきたからと、出てこなかった。
そして、とハリーが席に座り、食べ始めると、ロンは周りの目を気にするように、デコボコの包みを取り出して、開いた。
サンドイッチが四切れ入っていた。
一切れつまみ上げ、パンをめくってロンが言った。
「ママったら僕がコンビーフは嫌いだって言っているのに、いっつも忘れちゃうんだ」
「じゃあ、これ少し食べて。私、こんなに食べられないから」
はかぼちゃパイをちぎってロンに渡した。
「でも、悪いよ」
「いいから、食べて」
は強引にロンにパイを食べさせた。
お昼時が過ぎたころ、コンパートメントをノックして、丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。
「ごめんね、僕のヒキガエルを見かけなかった?」
三人が首を横にふると、男の子はメソメソ泣き出した。
「いなくなっちゃった。僕から逃げてばっかりいるんだ!」
「きっと出てくるよ」
ハリーが言った。
「うん。もし見かけたら・・・・・」
男の子はしょげかえってそう言うと出ていった。
「どうしてそんなこと気にするのかなあ。僕がヒキガエルなんか持ってたら、なるべく早くなくしちゃいたいけどな。もっとも、僕だってスキャバーズを持ってきたんだから人のことは言えないけどね」
ねずみはロンの膝の上でグーグー眠り続けている。
「死んでたって見分けがつかないよ」
ロンはうんざりした口調だ。
「そのねずみ、指が一本ないんだね」
がぼそりと言った。
二人はたいして気にする様子もなく、話を進めた。
「きのう、少しは面白くしてやろうと思って、黄色に変えようとしたんだ。でも呪文が効かなかった。やって見せようか――見てて・・・・・」
ロンはトランクをガサゴソ引っ掻き回して、くたびれたような杖を取り出した。
あちこちボロボロと欠けていて、端から何やら白いキラキラするものがのぞいている。
「一角獣のたてがみがはみ出しているけど。まあ、いいか・・・」
杖を振り上げたとたん、またコンパートメントの戸が開いた。
カエルに逃げられた子が今度は女の子を連れて現れた。
女の子はもう新調のホグワーツ・ローブに着替えている。
「誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」
なんとなく威張った話し方をする女の子だ。
栗色の髪がフサフサして、前歯がちょっと大きかった。
「見なかったって、さっきそう言ったよ」
ロンが答えたが、女の子は聞いてもいない。
むしろ杖に気を取られていた。
「あら、魔法をかけるの?それじゃあ見せてもらうわ」
女の子は座り込み、ロンがたじろいだ。
「あー・・・・・いいよ」
「お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ」
ロンは杖を振った。
しかし、何も起こらない。
スキャバーズは相変わらずねずみ色でグッスリ眠っていた。
「その呪文、間違ってないの?」
女の子が言った。
「まあ、あんまりうまくいかなかったわね。私も練習のつもりで簡単な呪文を試してみたことがあるけど、みんなうまくいったわ。私の家族に魔法族は誰もいないの。だから、手紙をもらった時、驚いたわ。でももちろん嬉しかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いているもの・・・・・教科書はもちろん、全部暗記したわ。それだけで足りるといいんだけど・・・・・私、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」
女の子は一気にこれだけを言ってのけた。
ハリーもロンも顔を見あわせた。
彼らは教科書を暗記していないらしい。
「僕、ロン・ウィーズリー」
ロンはモゴモゴ言った。
「ハリー・ポッター。彼女は・ブラック」
「ほんとに?私、もちろんあなたたちのこと全部知ってるわ。――参考書を二、三冊読んだの。あなたたちのこと、『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに出てるわ」
「ふーん」
はたいして興味なさそうに言った。
「三人ともどの寮に入るかわかってる?私、いろんな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね・・・・・とにかく、もう行くわ。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。三人とも着替えた方がいいわ。もうすぐつくはずだから」
ヒキガエル探しの子を連れて、女の子は出ていった。
みんなまだまだ子供ですね。(^^)v