New happiness 新しい命
また夏がやってきた。ただいつもと違うのは木陰で休む二人の姿がない。家の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「今何ヶ月だっけ、
「もうすぐ九ヶ月よ」
すっかり大きくなったお腹を優しく撫でながら、はリーマスに微笑んだ。
「もうすぐだね。男の子かい?」
「わからないわ。あまり気にしていないから聞いていないの。ハリーもその方が良いって言うし」
そのとき、台所からテディがリリーと一緒にカップとクッキーを持ってきた。
「お待たせ。棚にあるお菓子ってこれのことで良かったのかしら?」
「うん。ありがとう、リリー」
は立ち上がり、お盆を受け取ろうとしたが、リリーがそれをさえぎった。
「もう九ヶ月になるんだからダメよ。何かあったら大変だわ」
そう言っているうちにテディはテーブルにカップを並べ終わっていた。
「そういうところ、ハリーと似てる」
はクスクスと笑った。
「それは逆じゃないかな、ハリーがリリーに似てるんだと思うよ」
リーマスが律儀に訂正した。
「まあ細かいところは気にしない――ところで、パパとジェームズはどうしたの?」
ああ、それなら――とリーマスが答えようとした途端、玄関から聞きなれた、懐かしい声が聞こえた。
「はーい!」
はそう言って客を出迎えようとしたが、我先にとリリーがすでに玄関に向かっていた。
「みんなして私を病人みたいにー」
恨めしそうにリーマスを見ると、リーマスが苦笑しながらに言った。
「みんな君が好きなんだよ。だから心配なんだ。それに、君も妊娠した直後とか、つわりが酷かっただろう?仕事に行けなかった日もあったくらいだし――」
「どうしてそれを――」
が絶句すると、リーマスがニコッと笑って答えた。
「キングズリーからシリウスに、シリウスからジェームズに、ジェームズからわたしに、の連絡網が回ってきたんでね――だから、少しでも君が楽に過ごせるようにと思ってるんだよ」
そのとき、シリウスとジェームズが手に買い物袋を持って入ってきた。
「やあ、遅かったね」リーマスが言った。
「若い人手がなかったからな」
シリウスがちょっと嫌味風にテディを見ると、テディは素知らぬ顔でシリウスに言い返した。
「へえ。もう若くないんだね。シリウスおじさん
「くぁーッ、お前の若い頃にそっくりだ」
シリウスはリーマスにそう言うと、に一言、台所使うぞと言って奥に引っ込んだ。
「ま、確かにパパももうおじさんだもんね」
シリウスたちが声の届かないところに行ったのを確認してが笑った。
「まあね。同い年としては認めたくない事実だけどね」
「あら、大丈夫よリーマスは。こんなに若い息子がいるんだから。ねぇテディ?」
がそうテディに問いかけるとテディはしばし考えた後、まあそうかなとだけ言った。
「それで、ハリーはいつ帰ってくるんだい?」
リーマスはさっそくお菓子に手を伸ばしながら、に聞いた。
「んー多分、今日は遅いと思うわ。リリーたちをこの家に呼びつけたくらいですもの」
もそう言いながらお菓子を食べた。
「普段は父さんとシリウスさんしかいないもんね」
テディもリーマスとが食べたのを見て、それに倣った。
「そうね。それに時々セブルスが来るわ。今日は研究のために部屋に引き込もってるのかしら?」
「いや、多分、ジェームズがいるからだと思うよ」
リーマスがチラッと台所に目をやった。
「またなんかあったの?私の実家、壊さないでよね――家出したときにそこに隠れるんだから」
頬を膨らまし、がリーマスを見ると彼は曖昧に笑った。
「いくらなんでもそこまではしないと思うよ――多分」
もう、とが仕方なさそうに笑った。
「私も育児中くらいは実家に帰ろうかしら」
「そうしなよ、
突然、背後からグワッと抱きつかれ、それがジェームズとわかったのは、シリウスの怒鳴り声が聞こえてきたからだ。
「人の娘だ!」
シリウスかジェームズを力任せにはがそうとすると、ジェームズが不敵な笑みを浮かべてシリウスを見た。
「残念だね、シリウス。はもう君だけの娘じゃないんだよ――僕の娘でもある」
しかしシリウスはそんな理論なんてお構いなしにジェームズをはがし終えていた。
「まったく、君は。に万が一のことがあったらどうするんだい?」
ジェームズが恨めしそうに見た。
「君がに抱きつかなければいいと思うんだけど」
リーマスがあきれた声でそう言いうと、テディも横で頷いた。
「それはダメだ、リーマス。僕とのスキンシップは必須項目さ!」
はいはい、とが聞き流すと、ジェームズが懲りずにの隣に座り、彼女に向き直った。
「それで真面目な話、体調はどうなんだい?」
「元気よ。やっぱりあの人の子らしく足蹴すごいわよ。よく動くし」
嬉しそうに笑うの表情は、もう母親の表情をしていた。
「君の体調も聞いてるんだよ、
ジェームズはの鼻を軽く摘まみながら言った。
「ちゃんと食べてる?」
「大丈夫よ。大体、朝ハリーが出掛けるのと同時くらいに家のベルを鳴らしてパパとリーマスとテディが来るのよ?最近はセブルスも途中から来るし――それでハリーが帰ってくるまで居座るんだから、体調崩すわけないじゃない。崩す暇もないわよ」
がふくれると、リーマスが苦笑いしながら、仕方ないさと言った。
「馬鹿犬が24時間も経たないうちに――15時間かな――に会いたいって喚き出すからさ」
「バッ――お前も一緒だろうが!」
シリウスが慌てたように付け足すと、リーマスはものすごい笑顔でシリウスを見た。
「わたしが?確かにわたしもに会いたいけど、君みたいに喚いたことはないし、週に七日会えればわたしはそれで十分だけど?」
しばし考えたシリウスが、リーマスの発言の意味に気付いたころには、もう話が反れていた。
「僕もリーマスと一緒に来ようかなー」
そうジェームズまでもが言い出すものだから、は呆れ顔でジェームズを見つめた。
私たちの家をなんだと思ってるのよ」
そのとき、ふと気付いたようにテディがボソッと呟いた。
「でもさ、っていつもそうだよね」
リーマスが不思議そうな顔をして息子を見た。
「あ、いや、深い意味はないんだけど――」
悪いことをしたように慌てるテディに、シリウスが言ってみろよと促した。
「あのさ、いつも複数だよね」
そう言われても誰もなんのことだかわかっていないようだった。
「どういうこと?テディ」
リリーが代表して尋ねた。
「あの、んと・・・・・だから――」
テディ本人もどうやって説明したらよいのかわからないようで困った顔をして自分の父親を見つめた。
「僕わかったかも」
真剣に考え込んでいるかと思えば、ころっと変わって今にも踊り出しそうな勢いでジェームズが言った。相変わらず彼は人の気持ちを察するのがうまいと、は心の中で思った。
「複数っていうより複数形、だろ?」
テディがわかってくれて嬉しそうに頷いた。
「ああ、それならわかる」
リーマスもリリーも頷いた。
ただそれでもわからないのはシリウスとだけだ。
「やっぱシリウスはそういうところ、鈍いよな」
ジェームズがニヤリッと笑った。
は当事者だから無意識でわからないだろうけど」
ジェームズがそう言うのではちょっと怖い顔をしてみせ、言った。
「今すぐ教えないとこの家から追い出すわよ」
「そんな怖い顔をしないで、。せっかく可愛いのに」
ジェームズがを抱き締めようとすると、横から腕が二本伸びてきてジェームズをから遠ざけた――シリウスとリリーだった。
「少しは学習しなさい!」
リリーに怒られているが、ジェームズには反省の色は見られない。
「で、なんなのよ、複数形って!」
がしびれを切らしたように言うと、リーマスが笑いながら教えてくれた。
「だからね、。こういうことさ――」
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続きます。
<update:2009.07.19>