ある日突然、自分が誰だか分からなくなったらどうしますか。
「!」
呪文学の授業中、ハリーが突然叫んだ。彼の目は青い閃光に当たったを捕えていた。
いまや、彼女は冷たい床の上に倒れていた。青い閃光を出した張本人のネビルは蒼白だった。
「!」
その教室にいたすべての人々が彼女の名前を叫んだ。それぞれに不安そうな表情を浮かべている。
「・ブラック」
フリットウィック先生も心配そうにの様子を見ている。
そのとき、授業の終了を告げるベルが聞こえた。
「さあ、ベルは鳴りました。次の授業に遅れないように行きなさい。彼女のことは心配ありません」
しかし、相変わらず教室中はざわついていた。
「さあ、行きなさい!遅刻したって知りませんよ!」フリットウィック先生はキンキン声でそう言った。
多くの生徒たちは立ち上がって、おとなしく教室から出ていったが、ハリーは動かなかった。ロンとハーマイオニーは「行こう」とハリーに声をかけたが、ハリーの返事はなかった。
「ほら、そこの三人――」
「先生、は一体どうしたんですか?」
ハリーは先生をさえぎった。
「命に別状はありません」
「でも、ちゃんと見てみないとわかりません」
ハリーはテコでも動かない。ハーマイオニーがソワソワと先生とハリーを見比べた。
「ポッター、次の授業に遅刻しますよ」
「ハリー、行こう」
ロンがハリーの腕を引っ張った。
「ハリー」
ハーマイオニーが懇願するようにハリーを見た。
ハリーはもう一度、に視線を移すと、二人に引っ張られながら教室を出ていった。
「マクゴナガル先生」
フリットウィック先生は誰もいないのを確かめて、暖炉に何か粉を入れた。すると、暖炉からマクゴナガル先生が現れた。
「何でしょうか」マクゴナガル先生が聞いた。
「・ブラックが重傷です。生徒の誤った呪文が命中しました」
マクゴナガル先生は急いでフリットウィック先生の脇を通り抜け、の様子をうかがった。
「意識がありません」
マクゴナガル先生は心配そうな声をあげた。フリットウィック先生ものそばにかがみこんだ。
「医務室に運ばなければ」
「授業開始のベルがなってからで良いと。ブラックのこのような姿を他の生徒にも見せればパニックになります」
マクゴナガル先生はため息をついた。
「このクラスにいた生徒たちがこの話を話題にするまでは・・・・・」
「ダンブルドアに報告しなければ」
「そうですね」
二人はお互いにため息をついた。このあと、にどのような症状がでるのか、不安で仕方なかった。
「うむ。ポピー、の様子はどうかね」
昼食時、ダンブルドアは四人の寮監に医務室に集まるように指示を出した。
「何事ですか、校長」
スネイプは医務室のドアを閉めた。
「・ブラックが重傷じゃ。意識が戻らん」
「一体、どうしたんですか?」スプラウト先生は心配そうに聞いた。
「生徒の誤った呪文がブラックに命中しました」フリットウィック先生が答えた。
「校長先生、ブラックの容態は意識が戻らないと何とも言えません」
マダム・ポンフリーがのベッドのカーテンを閉めながら言った。隙間から、ピクリともしないの指が見えた。
「両親を呼ぶべきじゃな」
ダンブルドアが考えながら呟いた。
「ポッター家とルーピンも?」マクゴナガル先生が聞いた。
「そういうことになるじゃろう。あそこは切っても切れぬ繋がりじゃ。マクゴナガル先生、手紙を出してきてはくれぬかね。フリットウィック先生、スプラウト先生、変な噂がたつ前に、生徒たちに話をかいつまんで話してくださらぬか。間違ったまま、外部に漏れてしまっては困るのでな。スネイプ先生、少し残ってくだされ」
ダンブルドアが的確に指示を出していく中、は身動き一つしなかった。かろうじて生きていると分かるのは、胸が上下しているせいであった。
「セブルス、折り入って話がある。の症状がなんであれ、無事に意識が戻る可能は0だ。そのときに必要とあらば、君に頼み事をしても構わぬかね?」
スネイプはゆっくり頷いた。ダンブルドアはスネイプが承諾してくれたことに感謝した。そしてが寝ているベッドのカーテンを少し開け、の顔をスネイプに見せた。
「ヴォルデモートが目覚めた今、この子がこのような状態であれば易々と向こうの手に渡ってしまう」
ダンブルドアがそう呟いたとき、医務室の扉を叩く音がした。マダム・ポンフリーが出迎えに行った。
「着いたようじゃな」
ダンブルドアがそう言ったのと同時に、シリウスとルーピンとが入ってきた。
「先生、娘は?は?」
は蒼白な顔で祈るようにダンブルドアに聞いた。
「はっきり言おう。――重傷じゃ」
の息を飲む音が聞こえた。そして、目には段々と潤いが増してきた。
「そんな・・・・・どうして・・・・・」
「生徒の誤った呪文が命中した。意識が戻れば、彼女の体にどんな症状が表れたのか、確認できる」スネイプが静かに言った。
「故意的には起こせないのか?」シリウスがの背中を撫でながら聞いた。
「それは危険なこと、この上ない。自然に目覚めるのを待つばかりじゃ」
ダンブルドアは三人にを見せるため、その場を移動した。を見たの頬に涙が伝った。
「意識が戻らないということはないのですか?」ルーピンがダンブルドアを見た。
「それはない。少なくとも、三日後には目覚めるはずじゃ――」
ダンブルドアがそう言ったとき、またもや医務室のドアが開いた。ジェームズが飛込んできた。
「一体、どうしたんですか?」
後ろからリリーも現れた。
「が重傷って・・・・・」
ダンブルドアが二人に説明しようと口を開いたとき、もぞもぞと、今までピクリともしなかったの手が動いた。
「?」
が不安な声を出しながらも、の手をしっかり握った。その瞬間、ゆっくりとの瞼が開いた。
「」
期待に満ちた声でが話しかけた。誰一人動かない。
「って誰?」
その瞬間、その場の空気が凍った。誰も何も言わなかった。は不安そうな表情で口を開いた。
「あなたたちは誰?」
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