は大人たちに連れられ、駅の近くに停めてあった車へと乗り込んだ。後部座席にとルーピンに挟まれ、座った。車が走り出すと、ルーピンもも、周りを警戒するように、車の外を眺めていた。コートの下で、二人とも何かを握っているようだ。はすぐに杖だとわかった。
誰も一言も口をきかぬまま、見慣れた風景になってきた。家に着いたのだ。車は、去年まで確かにここに家が建っていたであろう場所の前で停まった。ルーピンを先頭に車から降りるとは違和感に気づいた。"グリモールド・プレイス13番地"と書いてあり、隣を見ると"11番地"となっている。
「」
に名前を呼ばれ、は振り向いた。
「これを」
から紙を渡され、それを見ると「不死鳥の騎士団の本部は、ロンドン グリモールド・プレイス 十二番地に存在する」と書かれている。
「不死鳥の騎士団・・・・・?」
「」
ルーピンに鋭く名前を呼ばれ、は口を閉ざした。
「紙に書いてあったことを頭で考えるんだ」
ルーピンの言う通り、は頭の中で自分の家の住所と不死鳥の騎士団という言葉を復唱した。すると、グリモールド通り11番地と13番地の間から、自分の家が現れた。
「さあ、早く中へ」
に急かされ、は自分の家のドアをあけた。の脇から黒い犬がスルリと家の中へ入り、玄関の奥で人の姿に変わった。
「、おいで」
シリウスに言われ、は家の中へ足を踏み入れた。玄関を見回したが、一年前がホグワーツに行ったときと何ら変わりないように思う。
「もうしゃべっていい?」
がシリウスに聞いた。
「しゃべってもいいが、まだ質問には答えられないぞ」
シリウスにキッパリとそう言われ、は不貞腐れた。
「なんで?」
は頬を膨らませ、シリウスを睨んだ。
「なんで私だけ、家に帰るの?どうしてハリーはダメなの!」
「!ちゃんと後で教えてあげるから、静かにしなさい」
に怒られ、は黙った。
「納得がいかないのは分かるけど、当たり散らしても仕方ないでしょ」
「どうして教えてくれないの?あのとき、私、あそこにいたんだよ!何が起こってるのか教えてよ!」
はヒステリックにそう叫んだ。
「後で教えてあげますと言ったでしょう」
が冷静にそう答えた。
「後でっていつ?どうせ約束なんて守ってくれないじゃない!誰も助けてくれなかった!セドリックは助かったかもしれないのに!」
は涙を堪えながら、階段を駆け上がり、自分の部屋に閉じこもった。ベッドにダイブすると布団を頭からかぶり、その中で丸くなった。
しばらくして、部屋のドアがノックされた。しかし、は返事をせず、じっとしていた。
軽いため息が聞こえ、ドアが開く音がした。
「」ジェームズだった。
ベッドが沈み、布団の上からポンポンと頭を撫でられた。
「約束、守れなくてごめんね」
いつになく沈んだ声でジェームズが言った。は黙っていた。
「わたしを信じてくれていたのに、ごめん」
「もう嫌だ。信じらんないよ」
は涙声でそう言った。
「大丈夫とか、守るとか、みんな口ばっかりじゃない。私との約束なんてどうでもいいんでしょ!みんな嘘つきよ!」
そのとたん、ジェームズに布団をはがされ、は頬を叩かれた。一瞬のことで、は最初、何が起こったのかわからなかった。しかし、じわじわと頬の痛みを感じ、叩かれたのだと理解した。
「、言い過ぎだ」
はジェームズの怒った顔を久しぶりに見た。
「言葉の勢いだとしても、言ってはいけないだろ」
ジェームズのオーラに押されながらも、はジェームズを睨んだ。しかし、返す言葉が見つからない。
「。本当に悪かったと思ってるよ。でも、君を助けたかったのは本当だ。わたしも、シリウスもリーマスも、リリーも、そしてもだ」
「後からなんて何とでも言えるじゃない!」
はぼろぼろと泣いた。
「セドリックは死んじゃったのよ!私が何にもできなかったから!わかってるよ!ジェームズたちが助けてくれようとしてたことくらい!でも、セドリックは死んじゃった!」
はわめき散らした。ジェームズはそれを聞き、優しくを引き寄せた。
「そうだね。君はそういう子だったね。叩いてごめんね――気持ちがついてこなくて悩んでたんだね」
ジェームズはが泣き止むまで、優しく抱き締めてくれた。その間、耳元で、のせいじゃない、じゃなくても止められなかった、と優しく囁いてくれていた。
「落ち着いた?」
が頷くと、ジェームズは腕の力をゆるめ、を真正面から見た。
「目が真っ赤だ。あと頬っぺたも――私のせいだってシリウスが知ったら怒るだろうなあ」
ジェームズが本気で心配しているようなので、は思わず笑ってしまった。
「酷いこと言ってごめんなさい」
が謝るとジェームズはにっこり笑っての頭を撫でた。
「夕食、食べに行こうか。食べ終わったら話してあげるよ、。ちゃんとの許可もとったしね」
は頷くと、ジェームズに手を引かれ、厨房へと向かった。
夕食は静かだった。誰も必要以上のことは話さないし、黙って食べるだけだった。も夕食を食べたが、たちが作ってくれたものも今日ばかりは何の味もしなかった。
「、もういいの?」
がフォークを置いたのを見て、が聞いた。
「早く話を聞かせて」
は質問には答えず、にそう言った。そのとたん、は険しい顔になって、に言った。
「みんなが食べ終わってからです――リーマスを急かすんじゃありません!」
がまだ半分以上、食器に残っているリーマスをちらっと見たのを、は目ざとく見ていたらしい。はムスッとすると、を睨んだが、何も言わなかった。の機嫌を損ねて、話すこと自体が無くなっても困る。
「、わたしのことなら気にしなくて良いから、に話してあげて」
「でも、リーマス――」
が抗議しようとしたのを遮り、リーマスが続けた。
「も大分我慢したと思うよ。頭ごなしにこうしなさい、と言われてちゃんとそれを守ってきたんだ。これ以上、変な先入観を作らない内に話した方がいい」
はリーマスにそう言われ、ため息をついた。
「ジェームズといい、リーマスといい、ホントにみんなに甘いんだから」
「そんなに甘くないよー」
ジェームズがふざけながらそう言うと、はジロッとジェームズを睨み付けた。
「にばっかりそんなに甘くて、ハリーに嫌われても知らないからね!」
「大丈夫さ!ハリーもには充分甘いから」
そうジェームズが言ったとたん、ジェームズの椅子がひっくり返り、ジェームズは後ろに倒れた。しかし、事を予想していたようで、ジェームズは上手く受け身をとり、けろっとした顔をしている。
「ホント、お前は一言余計だな、相棒」
シリウスが笑った。
「犬の君ほど単純じゃないけどね」
ジェームズにそう言われ、シリウスはムッとした様子で何かを言い返そうとしていたが、リリーが一言、どっちもどっちよ、と言うと話は終った。
それを横目で見ながら、は軽くため息をつき、に言った。
「良いでしょう。それじゃあ、。何が知りたいの?」
「不死鳥の騎士団って?」
は間髪容れず、そう聞いた。
「秘密同盟よ。ダンブルドアが率いてる『ヴォルデモート』と戦うためのメンバーの集まりよ」が言った。
「ママたちも?」
は大人たちの顔を見回した。
「そうだ。他にもメンバーはいるけどね――」
「じゃあ、私も入り――」
リーマスの話をさえぎり、が入りたいと言う前に、ジェームズがダメだと、にべもなく言い切った。
「これは遊びじゃない、。残念ながら、君はまだ若すぎる。騎士団は学校を卒業した成人の魔法使いたちだけで組織されている」
が不満そうにジェームズを見ると、ジェームズは続けた。
「危険が伴う。、君には考えも及ばないような危険があるんだ」
「でも、私だって危険な目に合ってきた!別に私が望んだことじゃないのに、向こうから"危険"がきて巻き込まれるのよ!」
「それとこれとは話が違う」シリウスがきっぱりと言った。
「どう違うの」
がくってかかると、大人たちは一瞬ちらっとお互いを見て、を見た。
「自ら棺桶に片足を突っ込むような真似はするな、。確かに、お前は危険に巻き込まれる確率が非常に高い。それは知っている。けれど、危険に巻き込まれる、慣れているからと言って、今、不死鳥の騎士団に加入したところで何ができる?」
はシリウスにそう言われ、は胃袋に大きな重たい岩が乗っかったような、そんな気分だった。
「シリウス、そんな言い方・・・・・」
が流石に言い過ぎだと思ったのか、シリウスを咎めた。
「、でも、言い方はどうあれ、シリウスが正しい。、君は若すぎる」
リーマスもシリウスの肩を持ち始め、は涙が出そうになった。騎士団に入れてもらえる見込みがないのは分かっていたが、そんな言い方をしなくてもいいではないか。
「私だって、何かできるなんてわかんないけど、でも、目の前で人が一人殺されたの!ヴォルデモートに!もう見てるだけなのは嫌なの!私だって、なにかしたい!」
久々の我が家なのに険悪な雰囲気。