The Stunning Spell 失神術
やっと終業のベルが鳴ると、四人は廊下に飛び出し、「闇の魔術」の教室に急いだ。ムーディは教室から出るところだった。ムーディも、四人と同じように疲れた様子だった。普通の目の瞼が垂れ下がり、いつにも増してひん曲がった顔に見えた。
「ムーディ先生?」
生徒たちを掻き分けてムーディに近づきながら、ハリーが呼びかけた。
「おお、ポッター」
ムーディが唸った。「魔法の目」が、通りすぎていくニ、三人の一年生を追っていた。一年生はビクビクしながら足を速めて通り過ぎた。「魔法の目」が背後を見るように引っくり返り、一年生が角を曲がるのを見届け、それからムーディが口を開いた。
「こっちへ来い」
ムーディは少し後ろに下がって、空になった教室に四人を招じ入れ、そのあとで自分も入ってドアを閉めた。
「見つけたのですか?」
ハリーは前置きなしに聞いた。
「クラウチさんを?」
「いや」
そういうと、ムーディは自分の机まで行って腰かけ、小さく呻きながら義足を伸ばし、携帯用酒瓶を引っ張り出した。
「あの地図を使いましたか?」ハリーが聞いた。
「もちろんだ」
ムーディは酒瓶を口にしてグイと飲んだ。
「お前のまねをしてな、ポッター。『呼び寄せ呪文』でわしの部屋から禁じられた森まで、地図を呼び出した。クラウチは地図のどこにもいなかった」
「それじゃ、やっぱり『姿くらまし』術?」ロンが言った。
「ロン!学校の敷地内では、『姿くらまし』はできないの!」ハーマイオニーが言った。
「消えるには、何かの方法があるんですね?先生?」
ムーディの「魔法の目」が、ハーマイオニーを見据えて、笑うように震えた。
「おまえもプロの『闇祓い』になることを考えてもよい一人だな」
ムーディが言った。
「グレンジャー。考えることが筋道だっていおる」
ハーマイオニーがうれしそうに頬を赤らめた。
「うーん、クラウチは透明ではなかったし」
ハリーが言った。
「あの地図は透明でも現われます。それじゃ、きっと、学校の敷地から出てしまったのでしょう」
「だけど、自分ひとりの力で?」
ハーマイオニーの声に熱がこもった。
「それとも、だれかがそうさせたのかしら?」
「そうだ。だれかがやったかも――箒に乗せて、一緒に飛んでいった。違うかな?」
ロンは急いでそういうと、期待のこもった目でムーディを見た。自分も「闇祓い」の素質があると言ってもらいたそうな顔だった。
「攫われた可能性が皆無ではない」ムーディが唸った。
「じゃ」ロンが続けた。「クラウチはホグズミードのどこかにいると?」
「どこにいてもおかしくはないが」
ムーディが頭を振った。
「確実なのは、ここにはいないということだ」
ムーディは大きな欠伸をした。傷痕が引っ張られて伸びた。ひん曲がった口の中で、歯が数本駆けているのが見えた。そして、両方の目でを見据え、言った。
「お前はどう思う、ブラック」
は少し考えたのち、わかりませんとだけ答えた。
「ふむ。流石のブラックもお手上げといったところか」
ムーディはニヤリと笑った。
「さーて、ダンブルドアが言っておったが、おまえたち四人は探偵ごっこをしておるようだな。クラウチはおまえたちの手には負えん。魔法省が捜索に乗り出すだろう。ダンブルドアが知らせたのでな。ポッター、おまえは第三の課題に集中することだ」
「え?」ハリーはふいを突かれた。「ああ、ええ・・・・・」
ハリーの様子からして、第三の課題のことを忘れていたようだ。
「お手の物だろう、これは」
ムーディは傷だらけの無精髭の生えた顎をさすりながら、ハリーを見上げた。
「ダンブルドアの話では、おまえはこの手のものは何度もやって退けたらしいな。一年生のとき、賢者の石を守る障害の数々を破ったとか。そうだろうが?」
「僕たちが手伝ったんだ」ロンが急いで言った。「僕とハーマイオニーとが手伝った」
ムーディがニヤリと笑った。
「ふむ。今度も練習を手伝うがよい。今度はポッターが勝って当然だ。当面は・・・・・ポッター、警戒を怠るな。油断大敵だ」
ムーディは携帯用酒瓶からまたグイーッと大きくひと飲みし、「魔法の目」を窓のほうにクルリと回した。ダームストラング船の一番上の帆が窓から見えていた。
「おまえたち三人は――」
ムーディの普通の目がロン、、ハーマイオニ−を見ていた。
「ポッターから離れるでないぞ。いいか?わしも目を光らせているが、それにしてもだ・・・・・警戒の目は多すぎて困るということはない」

翌朝には、ジェームズが同じふくろうで返事をよこした。ハリーのそばにそのふくろうが舞い降りると同時に、モリフクロウが一羽、嘴に「日刊予言者新聞」をくわえて、ハーマイオニーの前に降りてきた。新聞の最初のニ、三面を斜め読みしたハーマイオニーが「フン!あの女、クラウチのことはまだ嗅ぎつけてないわ!」と言った。それから、、ロン、ハリーと一緒に、ジェームズが一昨日の夜の不可思議な事件について、なんと言ってきたのかを読んだ。

ハリー――いったい何を考えているんだ?ビクトール・クラムと一緒に禁じられた森に入るなんて。だれかと夜で歩くなんて、二度としないと返事のふくろう便で約束してくれ。ホグワーツには、だれかきわめて危険な人物がいる。クラウチがダンブルドアに会うのを、ソイツが止めようとしたのは明らかだ。そいつは、暗闇の中で、君のすぐ近くにいたはずだ。殺されていたかもしれないのだぞ。
君の名前が「炎のゴブレット」に入っていたのも、偶然ではない。だれかが君を襲おうとしているなら、これからが最後のチャンスだ。たちから離れるな。夜にグリフィンドール塔から出るな。そして、第三の課題のために準備するのだ。「失神の呪文」「武装解除呪文」を練習すること。呪いをいくつか覚えておいてもそんはない。クラウチに関しては、君の出る幕ではない。おとなしくして、自分のことだけを考えるのだ。もう変なところへ出て行かないと、約束の手紙を送ってくれ。待っている。

                                  ジェームズより  

「変なところに行くなって、僕に説教する資格がある?」
ハリーは少し腹を立てながら父親からの手紙を折りたたんでローブにしまった。
「学校時代に自分がやったことを棚に上げて!」
「まあ確かにね。でも、ジェームズも心配なのよ」
がなだめるようにそう言った。
「でも、この一年、だれも僕を襲おうとしてないよ」ハリーが言った。
「だれも、なーんにもしやしない――」
「あなたの名前を『炎のゴブレット』に入れた以外はね」
ハーマイオニーが言った。
「それに、ちゃんと理由が遭ってそうしたに違いないのよ、ハリー。彼らが正しいわ。きっとやつは時を待ってるんだわ。たぶん、今度の課題であなたに手を下すつもりよ」
「いいかい」
ハリーはイライラと言った。
「スナッフルが正しいとするよ。だれかがクラムに『失神の呪文』をかけて、クラウチを攫ったとするよ。なら、そいつらは僕らの近くの木陰にいたはずだ。そうだろう?だけど、僕がいなくなるまで何もしなかった。そうじゃないか?だったら、僕が狙いってわけじゃないでしょ?」
「禁じられた森であなたを殺したら、事故に見せかけることができないじゃない!」
ハーマイオニーが言った。
「だけど、あなたがさっき言ったとおり、課題の最中に死んだら――」
「クラムのことは平気で襲ったじゃない」
ハリーが言い返した。
「僕のことも一緒に消しちゃえばよかったんだよ。クラムと僕が決闘かなんかしたように見せかけることもできたのに」
「ハリー、私にもわからないのよ。なんとか言ってよ、
ハーマイオニーが弱り果てたように言い、に助けを求めた。
「おかしなことがたくさん起こっていることだけはわかってる。私、それは気に入らないわ・・・・・今まであなたが襲われなかった理由――もしも私の思っていることが正しいのなら――」
は遠くを見て、こっそりと心の中で思った――まだあなたの存在に必要性があるから。そして、視線をハリーに戻し、きっぱりと言った。
「ムーディは正しい――ジェームズもスナッフルも正しい――あなたはすぐにでも第三の課題のトレーニングを始めるべきだわ。すぐにジェームズに返事を書いて、二度と一人で抜け出したりしないと約束しなきゃ。じゃなきゃ、ジェームズはあなたに呪いをかけるかもしれないわ」

城の中にこもっていなければならないとなると、ホグワーツの校庭はますます強く誘いかけてくるようだった。ニ、三日はハリーも、、ハーマイオニーやロンと一緒に図書館に行って呪いを探したり、空っぽの教室に四人で忍び込んで練習したりして自由時間を過ごした。ハリーはこれまで使ったことのない「失神の呪文」に集中していた。困ったことには、練習をすると、ロンかかハーマイオニーがある程度犠牲になるのだった。
「ミセス・ノリスを攫ってこれないか?」
月曜の昼食時に、「呪文学」の教室に大の字になって倒れたまま、ロンが提案した。五回連続で「失神の呪文」にかけられ、ハリーに目を醒まさせられた直後のことだった。
「ちょっとあいつに『失神術』をかけてやろうよ。じゃなきゃ、ハリー、ドビーを使えばいい。君のためなら何でもすると思うよ。僕、文句を言ってるわけじゃないけどさ」
ロンは尻をさすりながらソロソロと立ち上がった。
「だけど、あっちこっち痛くって・・・・・」
「だって、あなた、クッションのところに倒れないんだもの!」
ハーマイオニーがもどかしそうに言いながら、クッションの山を並べなおした。「追い払い呪文」の練習に使ったクッションを、フリットウィック先生が戸棚に入れたままにしておいたのだ。
「後ろにばったり倒れなさいよ!」
「『失神』させられたら、ハーマイオニー、狙い定めて倒れられるかよ!」
ロンが怒った。
「今度は君がやれば?」
「いずれにしても、ハリーはもうコツをつかんだと思うわ」
ハーマイオニーが慌てて言った。
「とりあえず『武装解除』のほうは心配なさそうね。ハリーはずいぶん前からこれを使ってるし。今夜は別のに取り掛かりましょう」
は、図書館で、四人で作ったリストを眺めた。
「次は『妨害の呪い』かな。あなたを襲う物のスピードを遅くします。ハリー、この呪いから始めましょう」
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確かに失神したら狙いを定めて倒れられないですね、ロン。