大広間のすべての目がいっせいにハリーに向けられたが、ハリーはただ座っていた。だれも拍手しない。怒った鉢の群れのように、わんわんという音が大広間に広がりはじめた。凍りついたように座ったままのハリーを、立ち上がってよく見ようとする生徒もいる。
上座のテーブルでは、マクゴナガル先生が立ち上がり、ルード・バグマンとカルカロフ校長の後ろをさっと通り、切羽詰ったように何事かダンブルドアに囁いた。ダンブルドアは微かに眉を寄せ、マクゴナガル先生のほうに体を傾け、耳を寄せていた。
は放心したハリーと目が合った。
「僕、名前を入れてない」ハリーが言った。
「僕が入れてないこと、知ってるだろう」
しかし、は口の中がカラカラで声を発することが出来なかった。
上座のテーブルでダンブルドア校長がマクゴナガル先生に向かって頷き、体を起こした。
「ハリー・ポッター!」
ダンブルドアがまた名前を呼んだ。
「ハリー!ここへ、来なさい!」
「行くのよ」
ハーマイオニーが、ハリーを少し押すようにして囁いた。
ハリーがまるで夢遊病者のように歩くのをはただじっと見つめていた。何かが、自分たちの知らないところで動いているのをは感じた。恐い、という感情がこれほどまで強い感情だとは知らなかった。は頭の中でトム・リドルの声を聞いた気がした――
僕は君が気に入った・・・・・。
は目の端でハリーが隣の部屋に入るのを見届けて、そこで記憶がなくなった。
「、大丈夫?」
ハーマイオニーの顔が見えた。とても心配そうだ。
「う、ん?」
はゆっくり上半身を起こすと、ここがどこか分かった。グリフィンドール寮の寝室だ。自分のベッドの上で寝ている。
「私、どうしたの?」
「倒れたの。ハリーがダンブルドアに名前を呼ばれて、隣の部屋に入ったとたん――ハグリッドが医務室に連れて行ったのだけど、ダンブルドアがあなたはグリフィンドール寮の寝室で寝た方が安全だからって、マダム・ポンフリーから薬を渡されてここに連れて来たのよ」
はあのとき何故、倒れたのか思い出した。たしか、トム・リドルの声が――。
「」
の思考をハーマイオニーの呼びかけがさえぎった。
「スネイプが、何も考えずに、って」
はなんだかカチン、ときた。こっちの気も知らずに、何も考えるな、とは。
「何よ、それ。何も考えなければ、悪夢を見ないとでも?」
が怒ってそう吐き捨てると、ハーマイオニーも怒って言った。
「やっぱり、まだ悪夢を見てたのね!それなのにダンブルドアに言わないなんて」
は口が滑ったと後悔したが、もう遅かった。ハーマイオニーはに言った。
「ダンブルドアが明日、ジェームズたちを呼ぶって言ってたわ。ハリーの件でね。でも、あなたも行くべきよ。悪夢のこと、ダンブルドアに言うようにシリウスが言っていたじゃない」
は夏休みの最後に見たシリウスの顔を思い出した。心配そうな顔をしていたかもしれない。だが――。
「ダンブルドアに言うような悪夢じゃないわ。私、パパから返事が返ってきてから、悪夢なんて一度も見てない」
「なら、どうしてさっき倒れたのよ」
ハーマイオニーは追求の手を緩めなかった。は観念してハーマイオニーに打ち明けることにした。
「トム・リドルの声を聞いた気がしたのよ」
ハーマイオニーはまた心配そうな、不安げな顔になった。
「でも聞いた気がしただけ。実際に聞いてないわ。ただあのときは、どうしてか本当に怖かった。怖がってたら、いつの間にか倒れたのよ」
ハーマイオニーは今度は優しい眼差しをに向けて、ゴブレットを差し出した。
「あなたはもう寝た方がいいわ」
はハーマイオニーからゴブレットを受け取り、一口飲んだ。
「うわ、苦い。何、これ」
が顔を歪めると、ハーマイオニーの目が鋭くなった。
「つべこべ言わずに全部、飲む!」
はどうにかゴブレットを空にすると、ハーマイオニーに言った。
「ハリーはあのあとどうなったの?」
「わからないわ」ハーマイオニーが答えた。
「ハリーが隣の部屋に入ったあと、すぐにダンブルドアは宴会を終わらせたし、私はロンとハグリッドと一緒に医務室に行って、医務室にダンブルドアが現れてあなたをグリフィンドール寮に連れて行くように言われたから連れて行ったの。もう帰ってきて、談話室のパーティに交じってるんじゃないかしら」
「パーティ?」
は耳を疑った。危険が迫っているのに、談話室で暢気にパーティだなんて。
「もちろん、無理矢理よ。フレッドとジョージが騒いでいたの。ハリーが暢気にパーティするはずないでしょ」
顔に出ていたのだろう。ハーマイオニーがそう付け足した。
「さあ、もう本当にあなたは寝なきゃ。また倒れたりしたら困るわ」
ハーマイオニーが無理矢理を横にしようとしたが、はそれに逆らってハーマイオニーにまた聞いた。
「ハーマイオニーもロンもハリーが自分で立候補したんじゃないってわかってるよね?」
しかし、ハーマイオニーは一瞬から目をそらした。
「信じて、ないの?」が聞いた。
「いいえ、信じてるわ、もちろん。ただ――」
ハーマイオニーは言いにくそうにを見つめた。
「ただ、ロンが・・・・・」
「ロンが?」
が復唱した。
「ロンはね、ハリーがゴブレットに自分の名前を入れたんじゃないって頭の中ではわかっているようなんだけど、認めようとしないの。ハリーに嫉妬してるのよ」
「ハリーに嫉妬?ロンは自分が代表選手になりたいってまだ思ってるの?」が呆れたようにそう言うと、ハーマイオニーは首を横に振った。
「そうじゃなくて、ただロンはいつもハリーの添え物扱いだった。でも、ずっとそんなことは口にしないで堪えてきたわ。でも、今度という今度は限界だったのよ」
はロンの気持ちがわかるような気がした。
「あの二人、大丈夫かしらね」
がそっと呟いた。
「わからない」
ハーマイオニーもそっと答えた。そして、打って変わって有無を言わせぬ口調でに言った。
「さあ、、もう寝て!」
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