「お帰りなさい、ハリー、」
もリリーもにこやかに二人を向かえた。
「ただいま、母さん」
「ただいま、ママ」
いつになく、ジェームズは静かで、二人の母親と子供たちが抱き合うのを微笑んで見ていた。
「さあ、そろそろ帰ろう。やきもきしてあいつらが待ってる」
多分、ジェームズが何も言わなければ、あと十分ほど、四人は抱き合ったままだっただろう。
「あいつらって?」
「内緒」
がジェームズを見つめると、ジェームズは悪戯っぽい笑みを浮かべて、そう言った。とリリーに聞いても、ただ笑うだけで、答えてくれなかった。
「今日は車なんだよ。魔法省から借りられたんだ」
「父さん、運転できるの?」
ハリーがからかうようにそういうと、ジェームズは軽くハリーの頭を小突いた。
「箒も車もお手のもんさ――行こう」
ジェームズはそう言って、さりげなくのカートを押しながら駐車場に向かった。
「待ってよ、ジェームズ!」
は急いでその後を追った。リリーともクスクス笑いながら後ろをついて来たし、ハリーはその二人の隣でワケが分からない、というような顔をして歩いていた。
「さあ、着いた」
五人はスモークガラスの赤い車の横に立った。
「ハリー、、荷物を貸して。ヘドウィグと一緒に先に車の中に入ってなさい」
ジェームズにそう言われ、ハリーとは顔を見合わせた。なんだか、おかしい。リリーとを見ると、何がおかしいのか、ずっと笑っている。
「まあ・・・・・とにかく入ってみる価値はありそうだけど・・・・・」
ハリーはそう言って、車の扉に近づいた。
「早く開けちゃいましょう。多分・・・・・大丈夫よ」
は車の後部座席の扉の取っ手に手をかけた。
「開けるわよ?」
「ああ」
が意を決して扉を開くと、いきなり車の中に引っ張り込まれた。誰かに抱きしめられている。シリウスのようでも、ジェームズのようでもない。一体誰だろうと、が考えていると、ハリーの驚いたような声が聞こえた。
「ル、ルーピン先生!」
「やあ、ハリー、お帰り」
「えー!」
は顔を上げた。すると、懐かしいルーピンの悪戯っぽい笑顔に出会った。
「ど、どうして?」
「どうして?君にしては愚問だね、」クスリとルーピンが笑った。
「君がわたしに頼んだんだろう?一緒に住んでほしいって」
「でも、でも、パパは?」
「シリウスなら、ここだよ、!」
ハリーの声と犬が鳴く声が聞こえた。ハリーが黒い犬と戯れている。すべてが元通りになったとは言えなかったが、それでもは幸せな気分になれた。
「本当にいろいろ・・・・・ありがとう、先生」
が自ら抱きつくと、運転席に座ったジェームズが振り向いてうらやましそうな顔をした。
「リーマス、もう少し奥につめられる?」リリーが言った。はいつの間にか、助手席に座っている。
そんなこんなで、後部座席にはルーピン、、ハリー、犬の姿のシリウス、リリーが並んだが、魔法で広げてある座席はゆったりとしていた。車はジェームズの運転で走り出し、高速道路に乗って家に向かった。
「学校は、楽しかった?」
が助手席から楽しそうに聞いた。絶対に怒られると思っていた二人は、不思議そうに顔を見合わせた。
「怒ったりしないわよ。今回、巻き込んだのはジェームズたちの責任なんだから」
リリーがそう言うと、ジェームズが苦笑した。
「楽しかったよ、学校」ハリーが出し抜けに言った。「クィディッチ優勝したんだ」
「それはよかったわね、おめでとう、ハリー」がにこやかに言って、振り返った。「それで、は?」
「私?」
はいきなり話しかけられてびっくりした。
「別になにも――」はちょっと考え込んで、あることを思い出した。きっと、は喜んでくれるだろう。
「――今年、学年トップだったの」
「何が?」
何故か、とても気味悪い沈黙の後、リリーがやっと口を開いた。
「えっと・・・・・成績が」
はなんだか、言わなきゃよかったと後悔した。成績が悪いと悪いで怒られるし、良いと良いでこれまた気味悪がられるのだろうか。
「リーマス、本当?」が助手席から問いかけた。
「本当だよ、。先生たちはみんな騒いでたよ、ブラック家が勝った、ってね」
ルーピンだけは楽しげな様子でに微笑みかけ、ジェームズがへえ、と感心したような、してないような曖昧な声を出した。
「ああ、、すごいわ!」やっと信じられたのか、リリーがにっこりと笑ってを見た。
「やれば出来るじゃない!」
「え、あ、うん・・・・・たまたまよ」はこんなに喜んでもらえるとは思っていなくて、ちょっと照れくさくなった。
「僕のは可愛いし、頭も良いし、良い子だし、本当に素晴らしいね」ジェームズが誇らしげに言うと、犬が吠えた。まるで、違う、とでも言っているようだ。
「なんだい、シリウス。反論でもあるのかい?」
ワン、と一声また鳴いた。ジェームズはそんなシリウスをクスクスと笑った。
「僕のに何か問題でも?」
「お前のじゃねえ!」
シリウスがいきなり人の姿に戻って、すぐに犬の姿になった。
「シリウス、約束破っちゃ駄目だよ。外にいる間はずっと犬でいるはずだろう?」
シリウスは唸って、ふて腐れたように眠る体制に入った。ハリーがシリウスの背中を撫でている。
突然、ルーピンは肩に心地よい重さを感じて目をやった。
「おや?」ルーピンは思わず微笑んだ。
「どうしたの?」リリーがそう聞くと、ルーピンが口に指を一本添えて、シーッと言った。
「見て」
リリーとがルーピンの指差す方を見ると、がルーピンに寄り掛かって寝ていた。
「疲れてるのかな」
「でも、汽車ではシリウスから手紙をもらって興奮してたよ」ハリーがルーピンに反論した。
「安心したんじゃないかな」バックミラーからを見て、ジェームズが言った。
「いろいろ辛いことがあっただろうしね」
シリウスが哀しそうな声を上げた。
「シリウス、ダメよ。を起こしたら承知しないからね」
が助手席からシリウスをにらむと、シリウスが首をいきおいよく振った。
「ハリーも寝てたら?着くまでにまだ結構あるわ」
リリーがシリウス越しにハリーの頭を撫でると、ハリーは大人しく「そうするよ」と言って目を閉じた。
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