ハリーとロンとの最後の試験は「占い学」、ハーマイオニーのは「マグル学」だった。大理石の階段を四人で一緒に上り、二階の廊下でハーマイオニーが去り、三人は八階まで上がった。トレローニー先生の教室に上る螺旋階段にはクラスのほかの生徒が大勢腰掛け、最後の詰め込みをしていた。
三人が座ると、「一人、一人試験するんだって」と隣のネビルが教えた。ネビルの膝には「未来の霧を晴らす」の教科書が置かれ、水晶玉のページが開かれていた。
「君たち、水晶玉の中に、なんでもいいから、何か見えたことある?」ネビルは惨めそうに聞いた。
「ないさ」ロンが気のない返事をした。しょっちゅう時計を気にしている。多分、控訴裁判まであとどれくらいか気にしているのだろう。
教室の外で待つ列は、なかなか短くならなかった。銀色のはしごを一人ひとり降りてくるたびに、待っている生徒が小声で聞いた。
「先生になんて聞かれた?たいしたことなかった?」
全員が答えを拒否した。
「もしそれを君たちにしゃべったら、僕、酷い事故に遭うって、トレローニー先生が水晶玉にそう出てるって言うんだ!」ネビルがはしごを下り、順番が進んで踊り場のところまで来ていたハリーとロンとのほうにやってきて、甲高い声でそう言った。
「勝手なもんだよな」ロンがフンと鼻を鳴らした。
「まったくだ」ハリーが答えた。
「もう二時よ。急いでくれないかしら・・・・・」がやれやれと撥ね戸に向かってため息をついた。
その後、パーバティが出てくると、ロンの名前が呼ばれた。ロンは二人に向かってしかめっ面をして見せ、それから銀のはしごを上って姿が見えなくなった。
二十分もたったころ、やっとロンが出てきた。
「どう?」がニヤリと笑って聞いた。
「あほくさ。なんにも見えなかったからでっち上げたよ。先生が納得したとは思わないけどさ・・・・・」
トレローニー先生の声が「・ブラック!」と呼んだ。
「じゃあ行ってくるね」はそう言ってはしごを上っていった。
塔のてっぺんの部屋はいつもより一層暑かった。カーテンは閉めきられ、火は燃え盛り、いつものムッとするような香りで咽せこんだ。大きな水晶玉の前でトレローニー先生は待っていた。
「こんにちは。いい子ね」先生は静かに言った。「この玉をじっと見てくださらないこと・・・・・ゆっくりでいいのよ・・・・・それから、中に何が見えるか、教えてくださいましな――」
の感覚では二十分ほどで試験は終わった。でっちあげ上等、とは良い根性と度胸で乗り切った。はしごを下りて、ハリーとバトンタッチした。
ロンは先に談話室に戻ったようで、もハリーを置いて戻ろうとしたが、やっぱり待っていることにした。
ハリーもほどなくして戻ってきたが、なんだか様子がおかしい。
「どうしたの?試験が出来なかったの?」
ハリーと一緒に螺旋階段を下りながら聞いた。
「そんなんじゃないんだ」ハリーはなんだか怖い顔をしている。
「トレローニー先生がいましがた僕に言ったんだ」
ハリーは声をひそめた。
「今夜、真夜中になる前、その召使いは自由の身となり、ご主人様のもとに馳せ参ずるであろう。闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう」
「冗談にもほどがあるわ」が怒った。そんなことは冗談でも言ってはいけない。
「冗談じゃないんだ。先生は声が太くなって、目が白目になって、おまけに言い終わったら、自分が言ったことを何も覚えていないんだ」
はちょっと考え込んだ。確かに冗談とは思えなかった。
「とにかく二人にも言った方がいいんじゃないかしら?」
「うん、そうするよ」ハリーが談話室まで急ぎながらそう言った。
ハリーとが談話室に入ると、ロンとハーマイオニーの方が隅の方で固まっていた。なんだか、回りは試験が終わり、嬉しそうなのに、あそこだけ、とても暗かくて、浮いている。二人はゆっくりと近づいた。
「バックビークが負けた」ロンがハリーとに弱々しく言った。「ハグリッドがいまこれを送ってよこした」
ロンから紙を受け取り、ハリーと一緒に読み始めた。ハグリッドの手紙は今度は涙が滲んで濡れてはいなかったが、書きながら激しく手が震えたらしく、ほとんど字が判読出来なかった。
控訴に敗れた。日没に処刑だ。おまえさんたちにできるこたぁなんにもねえんだから、来るなよ。おまえさんたちに見せたくねえ。
「行かなきゃ」ハリーが即座に言った。「ハグリッドが一人で死刑執行人を待つなんて、そんなことさせられないよ」
「でも、日没だ」死んだような目つきで窓の外を見つめながら、ロンが言った。
「絶対許可してもらえないだろうし・・・・・ハリー、、とくに君たちは・・・・・」
「『透明マント』さえあればなあ・・・・・」ハリーが頭を抱えて考え込んだ。
「ハリー」がにっこりと微笑んだ。
「私が取りに行ってあげる」の言葉にハリーがまじまじとの顔を見つめた。
「ハリーは取りに行けないの?」ハーマイオニーが不思議そうにハリーとを見比べた。
「またスネイプに見つかったら大変なことになるのよね」がクスリと笑った。
「私が取りに行く間、ハーマイオニーに説明してあげたら?魔女像の背中のコブはどうやって開いたらいい?」
「杖で叩いて『ディセンディウム――降下』だ。、ありがとう!」
ハリーは談話室から出ていこうとするの背中に向かって叫んだ。
は走って隻眼の魔女像の下にある抜け道に向かったが、やはり十分は裕に使ってしまった。「透明マント」をローブの下に入れて隠し、もと来た道を出来るだけ急いで帰った。
「、スネイプは大丈夫だった?」帰ってくると、ロンが心配そうに聞いた。
「大丈夫よ、誰にも会ってない――はい、ハリー、『透明マント』よ」
は綺麗にたたんだ銀色の「透明マント」をローブの下から取り出した。これで必要な道具はすべてそろった。あとは実行するだけだ。
さて、ハグリッドを訪ねに行きましょうか。