ハリーとハーマイオニーが戻ってきたのは組分けが終わったころだった。ハリーは目立たないように歩いているようだったが、生徒たちはチラチラとハリーを見ていた。ロンとの両脇にハリーとハーマイオニーがそれぞれ座った。
「何があったの――」がハーマイオニーに聞こうとしたとき、ちょうどダンブルドアが立ち上がり、生徒たちの話声はピタリと止まった。
「おめでとう!」
ダンブルドアの顎髭がろうそくの光でキラキラ輝いた。
「新学期おめでとう!皆にいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、皆がご馳走でボーッとなる前に片付けてしまう方がよかろうの・・・・・」
ダンブルドアは咳払いしてから言葉を続けた。
「ホグワーツ特急での捜査があったから、皆も知っての通り、わが校には、ただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりディメンターたちを受け入れておる。魔法省のご用でここに来ておるのじゃ」
ダンブルドアは言葉を切った。
「吸魂鬼たちは学校への入口という入口を固めておる。あの者たちがここにいるかぎり、はっきり言うておくが、誰も許可なしで学校を離れてはならんぞ。ディメンターはいたずらや変装に引っ掛かるようなシロモノではない――『透明マント』でさえムダじゃ」
は夏休み中、初めて吸魂鬼のそばを通ったときのことを思い出して、身震いした。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしても、ディメンターには生来できない相談じゃ。それじゃから、一人一人に注意しておく。あの者たちが皆に危害を加えるような口実を与えるではないぞ。監督生よ、男子、女子それぞれの新任の首席よ、頼みましたぞ。誰一人としてディメンターといざこざを起こすことのないよう気をつけるのじゃぞ」
ダンブルドアはまた言葉を切り、深刻そのものの顔つきで大広間をぐるっと見渡した。誰一人身動きもせず、声を出す者もいなかった。
「楽しい話に移ろうかの」
ダンブルドアが言葉を続けた。
「今学期から、うれしいことに、新任の先生を二人、お迎えすることになった」
「まず、ルーピン先生。ありがたいことに、空席になっている『闇の魔術に対する防衛術』の担当をお引き受けくださった」
パラパラとあまり気のない拍手が起こった。ハリー、ロン、、ハーマイオニーだけが、大きな拍手をした。ルーピンは、一張羅を着込んだ先生方の間で、一層みすぼらしく見えた。
「スネイプを見てみろよ」ロンが声をかけた。
魔法薬学のスネイプ先生が教職員テーブルのむこう側からルーピン先生の方を睨んでいた。スネイプが「闇の魔術に対する防衛術」の席を狙っているのは周知の事実だった。それでも、頬のこけた土気色の顔を歪めているスネイプのいまの表情には、怒りを通り越して、憎しみの表情があった。
なんとなく、には「闇の魔術に対する防衛術」の席を狙っている以外にも原因があるように思えた。なんていったって、ルーピンがシリウスを知っていて、グリフィンドール生だったのだから。がスネイプからルーピンに視線を移すと、の視線に気づいたのか、ルーピンが微笑んだ。
「もう一人の新任の先生は」
ルーピン先生へのパッとしない拍手がやむのを待って、ダンブルドアが続けた。
「ケルトバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っているうちに余生を楽しまれたいとのことじゃ。それで後任じゃが、うれしいことに、ほかならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭をとってくださることになった」
四人は驚いて顔を見合わせた。そしてみんなと一緒に拍手した。特に、グリフィンドールからの拍手は割れんばかりだった。
「そうだったのか!」ロンがテーブルを叩きながら叫んだ。
「噛みつく本を教科書指定するなんて、ハグリッド以外にいないよな?」
四人は一番最後まで拍手し続けた。
「さて、これで大切な話はみな終わった」ダンブルドアが宣言した。「さあ、宴じゃ!」
目の前の金の皿、金の杯に突然食べ物が、飲み物が現れた。すばらしいご馳走だった。大広間には話し声、笑い声、ナイフやフォークの触れ合う音がにぎやかに響きわたった。それでも、四人は宴会が終わってハグリッドと話をするのが待ち遠しかった。先生になるということがハグリッドにとってどんなにうれしいことなのか、四人にはよくわかっていた。ハグリッドは一人前の魔法使いではなかった。三年生のとき、無実の罪でホグワーツから退校処分を受けたのだ。ハリー、ロン、、ハーマイオニーの四人が、一年前ハグリッドの名誉を回復した。
いよいよ最後に、かぼちゃタルトが金の皿から溶けるようになくなり、ダンブルドアがみんな寝る時間だと宣言し、やっと話すチャンスがやってきた。
「おめでとう、ハグリッド」
教職員テーブルに駆け寄りながら、四人は口々に言った。
「みんな、あんたたち四人のおかげだ」
テカテカに光った顔をナプキンで拭い、ハグリッドは四人を見上げた。
「信じらんねぇ・・・・・偉いお方だ、ダンブルドアは・・・・・。ケルトバーン先生がもうたくさんだって言いなすってから、まーっすぐ俺の小屋に来なさった・・・・・こいつは俺がやりたくてたまんなかったことなんだ・・・・・」
感極まって、ハグリッドはナプキンに顔を埋めた。マクゴナガル先生が四人にあっちに行きなさいと合図した。
が大広間の出口に向かおうとすると、後ろから肩をたたかれた。フレッドとジョージとリーだった。
「、あのあと大丈夫だった?アンジェリーナが大泣きしてる君を見たって言ってて」
ジョージのその言葉にハリーが横目でを見た。の話だと、大泣きという言葉には当てはまりそうもなかった。
「うん、もう大丈夫。もう吸魂鬼もいないし、元気よ。助けてくれてありがとう」
は三人ににっこり笑った。三人は安心したのか、「それじゃあ」と言って先にグリフィンドール塔に戻り始めた。
「、あなたが大泣きしたなんて聞いてないわよ」ハーマイオニーがを見た。
「だって、泣いたのは吸魂鬼が原因じゃないから、いいかなって・・・・・」がもごもごと言うと、ハリーが問いつめた。
「じゃ、どうして?」
は勝ち目がない、と諦めたのか少し顔を赤らめて三人を見た。
「絶対、笑わない?」
は三人が頷いたのを見て、覚悟を決めた。
「ルーピンの慰め方がパパと似てて、パパに会いたくなったの」が周りに聞こえないように小声で言った。しばらく、三人は何も言わなかった。
「会えるよ。がシリウスは犯罪者じゃないって信じてるんだから」ハリーが静かに言った。
「信じてるよ、もちろん。パパもハリーもロンもハーマイオニーも!」
がにっこり笑ってそう言うと、ハリーとロンの顔が赤くなり、ハーマイオニーがに抱きついた。
「みんな、あなたのことを信じてるわ」
幸か不幸か、ハーマイオニーによって視界をさえぎられたには赤面したハリーとロンの顔は見えなかった。
「そこの四人、寮に戻りなさい!」
教職員テーブルからマクゴナガル先生が怒鳴った。はたから見れば、今の四人は不可解だったかもしれない。もう大広間には四人以外生徒はいなかった。
やっと一日が終わりました。