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Sweet and Painful 甘く切なく
マクゴナガル先生もいなくなり、三人は不安げにダンブルドア先生を見つめた。
「わしの記憶では、君たちがこれ以上校則を破ったら、二人を退校処分にせざるをえないと言いましたな。は別じゃが」ダンブルドアが付け加えた。 ロンは恐怖で口がパクリと開いた。
「どうやら誰にでも誤ちはあるものじゃな。わしも前言撤回じゃ」
ダンブルドアは微笑んでいる。
「三人には『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それに――そうじゃな――ウム、一人につき二〇〇点ずつグリフィンドールに与えよう」
ロンの顔が、まるでロックハートのバレンタインの花のように、明るいピンク色に染まった。口も閉じた。
「しかし、一人だけ、この危険な冒険の自分の役割について、恐ろしく物静かな人がいるようじゃ」ダンブルドアが続けた。
「ギルデロイ、ずいぶんと控え目じゃな。どうした?」
が振り返ると、ロックハートは、まだ曖昧な微笑みを浮かべて、部屋の隅に立っていた。ダンブルドアに呼び掛けられると、ロックハートは肩越しに自分の後ろを見て、誰が呼び掛けられたのかを見ようとした。
「ダンブルドア先生」ロンが急いで言った。
「『秘密の部屋』で事故があって、ロックハート先生は――」
「わたしが、先生?」ロックハートがちょっと驚いたように言った。
「おやまあ、わたしは役立たずのダメ先生だったでしょうね?」
「ロックハート先生が『忘却術』をかけようとしたら、杖が逆噴射したんです」
ロンは静かにダンブルドアに説明した。
「なんと」ダンブルドアは首を振り、長い銀色の口髭が小刻みに震えた。
「自らの剣に貫かれたか、ギルデロイ!」
「剣?」ロックハートがぼんやりと言った。「剣なんか持っていませんよ。でも、その子が持っています」ギルデロイはハリーを指差した。「その子が剣を貸してくれますよ」
「ロックハート先生も医務室に連れていってくれんかね?」ダンブルドアがロンに頼んだ。
「わしはハリーととちょっと話したいことがある・・・・・」
ロックハートはのんびりと出て行った。ロンはドアを閉めながら、ダンブルドアとハリーとを好奇心の目でチラッと見た。
ダンブルドアはの前にしゃがみこんで、目線を合わせた。
「足をどうしたのかね?」
「バジリスクに噛まれました。そのあと、よく分からないのですが、体が熱くなっていつの間にか光っていました。傷口は治ったみたいなのですが、何故か少しだけ――痛いんです」
ダンブルドアは思慮深い目をに向けた。
「わしが思うに、それは完璧に治っているとは思えん。多分、君の力がバジリスクの毒の回りを何億倍も遅くしているのだと、わしは考える」
ダンブルドアは少し考えたのち、暖炉に向かって、何かの粉を投げて、「セブルス」と言った。すると、暖炉の中から見たくもないスネイプが這い出てきた。
「お呼びでしょうか、校長」
「いかにも。のためにバジリスクの毒牙の解毒剤を頼めるかね?どうやら、毒は浄化出来なかったようでな」
スネイプはジロリとを見た。 ダンブルドアは当惑ぎみのに向き直って言った。
「足の手当てと解毒剤はスネイプ先生に任せるのでな、一緒についていくがよい」
は不安げにハリーを見、ハリーも不安げにを見た。
「立て」スネイプがの前に手を差し出した。 は躊躇しながらもその手を掴んだ。スネイプの手は、シリウスと同じような温かみがあった。 が立つと、スネイプは少し考え深げにを見たあと、の脇の下と太股に手を回し、持ち上げた。はびっくりして、どうして良いのか分からなく、スネイプの顔をマジマジと見た。スネイプはそれでも表情を崩さず、スタスタと部屋のドアを開いて、地下室に向かった。
「あまり動くな。毒の回りが早くなる」
スネイプは自分の私室に入り、を椅子の上に下ろし、言い放った。 は自分でも驚いたことに、素直にスネイプの言うことに従った。そして、スネイプの動きを見つめた。スネイプは大鍋に火を焚くと、いろいろな物を入れ、かき回し始めた。
一時間、いや、もっとしただろうか、が鍋を見ていると、とうとう出来たのか、スネイプはゴブレットに魔法薬をすくった。そして、の前に差し出した。
「飲むんだ」
は今年、何度か聞いた台詞に飽きを感じながらも素直にゴブレットに口をつけた。何の味もしない。
すると、突然睡魔に襲われた。は慌てて目を覚まそうと必死になった。その様子を見て、スネイプが言った。
「寝るんだ。寝ている間に毒が浄化される」
スネイプにそう言われながらも、は意地でも眠るか、と頑張ったが、魔法薬に敵うはずもなく、数秒後には眠りの中だった。
目覚めると、は医務室にいた。体の痛みもいつの間にかなくなっていて、はいきおいよく起き上がった。
「起きたのなら、宴会に行きなさい。パジャマに着替えてからね」隣での様子を見ていたらしきマダム・ポンフリーが言った。
「今、何時ですか?」
はマダム・ポンフリーから渡されたパジャマを持ってカーテンを閉めた。
「夜の十一時です」
は急いでパジャマに着替えて、カーテンをいきおいよく開けた。そして、マダム・ポンフリーに見送られながら走って大広間に向かった。
は少し息を整えて大広間のドアを開けた。すると、今まで聞こえていたおしゃべりの声がやんで、は全員の目が自分に集中していると感じた。はグリフィンドール寮の机に向かって歩き出した。すると、突然ハーマイオニーが抱きついてきた。
「!あぁ、よかった!」
そして、次々とグリフィンドール寮の生徒が立ち上がり、とハーマイオニーの回りに集まってきた。そんな中、ハリーもを抱き締めた。すると、誰からともなく拍手の波が溢れた。拍手の波は他の寮にも広がり、ついにはマルフォイなど、何人かを除いて、全員が拍手していた。
そして宴会は良いことずくめだった。寮対抗優勝杯を二年連続獲得し、期末試験がキャンセルされ、ロックハートはいなくなった。
夏学期の残りの日々に、ハリーとはダンブルドアにもう一度呼び出された。今年、夏休みは家に帰れないということだった。ハリーはリリーの親戚のマグルの家に、は少しホグワーツに残って引き取り手が来るのを待つらしい。 それにしたって、とは思った。シリウスたちに何があったのだろうか。
ホグワーツ特急に乗って帰る日、はホグワーツの玄関でハリー、ロン、ハーマイオニーやジニー、フレッドとジョージに別れを告げた。
「元気でね」
「あなたもね、」
ハーマイオニーがに抱きついた。
「助けてくれてありがとう、」
ジニーもに抱きついた。
「、手紙を書くよ」
ハリーがを見た。もハリーを見た。
初めて二人がバラバラになり、が心細いのを見通したのだろうか。
「早く行かないと。汽車に乗り遅れるわ」
は六人を急かした。そうでないと、不安で泣いてしまいそうたまった。
「バイバイ」
六人は道の途中で振り返り、に手を振ってくれた。
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あとがき
スネイプ先生とご対面。