ホグワーツから帰って来て、何日かが経った。
ハリーもも母親達から怒られてしまった。
しかし、それ以上に、はから成績のことで怒られていた。
「なんで、魔法史がこんなにも悪いの?真面目にやってないでしょう?」
はっきりいって図星だったが、は何も言わずに、そのまま説教を聞き流してしまった。
ある晩、たまたま四人の大人たちの仕事が重なってしまい、ハリーとは二人だけで留守番することになった。
「本当に大丈夫なの?」
リリーが心配そうに聞いた。
「大丈夫だよ、母さん」
ハリーが言った。
「でもねえ、そうは言ったって・・・・・」
珍しくジェームズもシリウスも心配そうだった。
「本当に大丈夫だってば!」
があまりの信用のなさにふくれた。
「怒るなよ、心配なんだって」
ジェームズがをなだめた。
「早く行かないと遅刻しちゃうよ」
すると、ハリーが四人をせかした。
どちらが大人だかわからない。
「まあ、さっさと終らせて帰ってくるけど・・・・・」
がハリーとを見た。
「絶対に外に出たらダメよ。それに夜更かしも。ちゃんと寝ていること。いいわね?」
リリーは腹をくくったようにそういって二人と目を合わせた。
「はーい」
二人は声をそろえて返事した。
「それじゃあ、行って来るわね」
「すぐ帰るからな」
「ドアは閉めてくから心配しなくていいよ」
「ちゃんといい子にしてるのよ」
親たちは心配そうにわが子たちを抱きしめた。
そして、名残惜しそうにドアを開いて外に出ると、姿くらましをした。
「なんか、ママたちいないと寂しいね、この家も」
が呟いた。
「うん、そうだね。――あのさ、、魔法薬学でわからないところがあるんだけど、いいかな?」
「ええ、いいわよ。じゃあ、ハリーの部屋に行こう。あ、でも、一回私の部屋に行ってからね」
二人は親がいなくても大丈夫だと思っていた。
しかし、そんな考えは甘かったと思い知らされるとは思いもしなかっただろう。
「な、な、・・・・・」
は悲鳴を上げようとしたが、声が出なかった。
の部屋から彼女の勉強道具をとってきて、ハリーの部屋に入るまではよかった。
しかし、そこには先客がいたのだ。
ハリーのベッドの上にコウモリのような長い耳をして、テニスボールくらいの緑色の目がギョロリと飛び出した小さな生き物がいた。
「えっと・・・・・あ――こんばんは」
が自分のシャツを握り締めるのを感じながら、ハリーは不安げに言った。
「ハリー・ポッター!・ブラック!」
生き物が甲高い声を出した。
がビクッと震えた。
「ドビーめはずっとあなた様方にお目にかかりたかった・・・・・とっても光栄です・・・・・」
ハリーももこの得体の知れないものに警戒心を解くことができなかった。
「あ、ありがとう。で、君はだーれ?」
ハリーが言った。
「ドビーめにございます。ドビーと呼び捨ててください。『屋敷しもべ妖精』のドビーです」
生き物が答えた。
この家にいる屋敷しもべ妖精とは大違いで、二人は眉をひそめた。
「あ、あの・・・・・どうしてここへ?何か用事でもあったの・・・・・?」
が恐る恐る声をかけた。
「はい、そうでございますとも」
ドビーが熱っぽく言った。
「ドビーめは申し上げたいことがあって参りました・・・・・複雑でございまして・・・・・ドビーめはいったい何から話してよいやら・・・・・」
「じゃあ、せめて、座って話しましょう?」
がそう言うと、ハリーも賛成だ、とその生き物に言った。
「そうだね、座っていいよ」
ハリーとはドビーから目を話さないようにして、机の方ににじり寄って椅子に腰掛けた。
すると、突然、しもべ妖精がわっと泣き出した。
「す――座ってなんて!」
妖精はオンオン泣いた。
「これまで一度も・・・・・一度だって・・・・・」
がまた驚いたようで、ハリーの後ろに椅子ごと隠れた。
「ごめんね」
ハリーがささやいた。
「気に障ることを言うつもりはなかったんだけど」
ハリーももクリーチャーより性格は良さそうなこの妖精に大分、警戒を解いていた。
「このドビーめの気に障るですって!」
妖精は喉を詰まらせた。
「ドビーめはこれまでたったの一度も、魔法使いから座ってなんて言われたことがございません――まるで対等みたいに――」
泣き出したドビーをなだめるようにして、ハリーとはベッドに座らせた。
ベッドの上でしゃくりあげている姿は、とても醜い大きな人形のようだった。
しばらくするとドビーはやっと収まってきて、大きなギョロ目を尊敬で潤ませ、二人をひしひしと見ていた。
「君は礼儀正しい魔法使いに、あんまり会わなかったんだね」
ハリーがそう言うと、はハリーにニヤリと笑って見せた。
ドビーは頷いた。
そして、突然立ち上がると、なんの前触れもなしに窓ガラスに激しく頭を打ちつけ始めた。
「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!」
「ちょっと、いったいどうしたのよ?」
は大慌てで、ドビーの行為を止めさせた。
「ドビーめは自分でお仕置きをしなければならないのです」
妖精は目をクラクラさせながら言った。
「うちのクリーチャーとは大違いだわ。見習わせたいくらいよ」
がそう呟くとハリーはクスリと笑いをもらした。
「ハリー・ポッターも・ブラックもお優しく、謙虚で威張らなく、勇猛果敢な方です!もう何度も危機を切り抜けていらっしゃった!」
「勇猛果敢なのはハリーだけよ。私は違うわ」
が妖精に突っ込んだが、気付かなかったようで、そのまましゃべり続けた。
「でも、ドビーめは二人をお守りするために参りました。警告しに参りました。あとで屋敷を抜けた罰としてオーブンの蓋で耳をバッチンとしなくてはなりませんが、それでも・・・・・。ハリー・ポッターと・ブラックはホグワーツに戻ってはなりません」
妖精のその言葉にハリーももポカンと口が開いた。
秘密の部屋の連載が始まりました。まずはドビーさんの忠告からです。笑