水辺の素足
夜、一時頃。
もちろんこんな時間に外に出たら減点だとは分かっていても、はどうしても行きたかった。
何故か今夜は眠れなく、少し動きたかった。
隣で寝ているハーマイオニーを起こさないようにして、はゆっくりと起き上がった。
そして、寝巻の上にガウンをひっかけてこっそりと寝室を出た。
幸いなことに、ハリーとロンは終らない宿題をやっていたようでまだ起きていた。
「ねぇ、宿題見せてあげるから透明マント貸して」
がそう言って手を合わせるとすぐさまハリーはマントを持ってきてくれた。
ハリーとロンはが外へ出ると聞いて驚いたようだが、ハーマイオニーと違って止めるようなことはしなかった。
ただ、が自分から進んで外へ行くことに意外性を感じたのだろう。

は透明マントをひっかぶって談話室を出た。
途中、ピーブズに出会ったが、彼がこちらに気づく前には立ち去った。
そして、そのまま湖に向かってガランとした風景を奇妙な思いで眺めた。
星と半月の光に照らされながら、はマントを脱いだ。
、こんな時間に一体どうしたんだい?マントを脱いだら見付かってしまうよ」
ルーピンだった。
彼はいつものように微笑みながらに近付いた。
「あまりにも虚しいから、思わず・・・でも先生は減点なんてなさらないでしょう?」
ルーピンはご名答、とでも言うようににっこり笑った。
「学生のころはよく抜け出したよ」
ルーピンは芝生の上に座った。
「パパたちと一緒に?」
もルーピンの隣に腰かけた。
すると、二人の後ろから冷たい声がした。
「その通り」
スネイプが薄笑いを浮かべて立っていた。
「やぁ、セブルス」
ルーピンが愛想よく言った。
「ルーピン。普通はこんな時間に生徒が外出していたら減点するんじゃないかね?」
スネイプはネチネチとルーピンを責めた。
「普通ならそうだね、セブルス。だけど彼女は相談があってここにいるんだ。減点するわけにはいかないだろう?」
は思わずルーピンの頭がどうにかなってしまったのかと、まじまじと見つめた。
「フン。相談があるならば自分の寮監にでも相談すれば良い」
「でも、内容がジェームズとシリウスのことだから。マクゴナガル先生に相談したら、きっとジェームズたちは吠えメールでももらってしまうんじゃないかな」
その場面を想像したのかルーピンはクスクスと笑った。
も良くぞあんなろくでなしと結婚したものだ」
しかし、スネイプの方はジェームズとシリウスの名前を聞いて不快に思ったらしい。
はシリウスがろくでなしではない、と反論しようと思ったが下手に刺激しない方が良いと思い直して、口を閉じた。
はいい人だから」
ルーピンはそっと呟いた。
「あいつといるとどうも調子が狂うんだ」
スネイプの言葉は刺々しかったが、何故か目は優しい色をしていた。
すると、また乱入者が出てきた。
「大の大人が教員とこんな時間にこんなところで話していてはいけない、と何故注意しないのですか!」
マクゴナガル先生だった。
「まあ、良いじゃありませんか、ミネルバ。それに私はあなたの怒り狂う足音で起こされたのですよ?」
今度はマクゴナガル先生の後ろからスプラウト先生が出てきた。
「こんばんは、ミス・ブラック」
「こんばんは・・・・・」
スプラウト先生にいきなり挨拶をされては戸惑った。
「さぁ、ミネルバ。私たちは明日もまた授業があるわ。戻りましょう」
スプラウト先生は何気無くマクゴナガル先生を誘って、とルーピンとスネイプをその場に残した。
「我輩も戻る」
スネイプはしばらく二人の教員の姿を見ていたが、とルーピンと一緒などと考えられないのか、不機嫌そうに立ち去った。
はルーピンと二人きりになった。
は元気かい?」
突然、ルーピンはに言った。
「はい。でも、少し仕事が忙しいって言ってましたけど・・・・・」
が少し寂しそうにそう言うのを、健気に思ったのか、ルーピンは月明かりの中、優しくに笑顔を向けた。
「君は本当にに似ているね」
「でも、行動とか性格とかはパパに似ているって良く言われます。マクゴナガル先生とか、特に」
はクスクスと笑った。
「うん、そうだね。シリウスよりはちゃんと責任ある行動をしてるけどね」
ルーピンは肯定した。
「湖、黒いですね。昼間はあんなに綺麗な色をしていたのに」
は何故か話をそらせたくなってそう呟いた。
「私が学生の頃、リリーとは良く、湖の浅いところに足だけ入れて遊んでいたよ」
ルーピンは懐かしそうだ。
「先生、また家に来てください。パパもママも喜ぶと思います」
「うん、そうだね。また、いつか君の家に遊びに行こう」
ルーピンは何を考えているのか、湖のはるか先を見つめていた。
「先生は"友達"ってなんだと思いますか?」
はふと思った疑問を口にした。
ルーピンなら真面目に答えてくれるだろう、と思った。
案の定、ルーピンはいつもの笑顔でじっとを見ると、湖に視線を戻して静かに言った。
「昔、ある人がこう言った。"友達だから君の悲しいことも、君の嬉しいことも、君の辛いことも一緒に分かち合っていこう。君の近くには必ず僕がいる"――」
静けさの中にルーピンの声がジーンと響いた。
「さて、。質問が終りならもう、戻ろうか。まだ、グリフィンドールの談話室では誰かが起きてるみたいだけど」
スクッと静かに立って、ルーピンはグリフィンドール塔を見た。
もそれに習って、塔を見るとルーピンの言う通り、明かりがまだ付いていた。
きっと、ハリーとロンだろう。
「先生、ありがとうございました」
は丁寧にルーピンに頭をさげると、ここに来るまではモヤモやしていたが、今は波のない静かな水のような頭で、今日はあと何時間眠れるだろう、と考えながら、透明マントをかぶり出来るかぎりいそいで塔に向かった。
もうグッスリ眠れそうだ。
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<update:2006.01.27>