「シリウス、ね、お願い。一日だけ」
ある朝、まだ3歳であるがベッドから起きて、リビングに行くと、が必死に何かをシリウスに頼み込んでいた。
「わかったよ!」
シリウスはの熱の入れように諦めたのか、半ば、投げやりにそう言った。
「ママー」
が声をかけた。
「あら、。おはよう。そうだ、は猫好き?」
「好きー」
はニコニコと笑ってそう答えた。
するとどこからともなく、猫の鳴き声が聞こえた。
「猫さん、猫さん」
は猫の姿を見つけようと走り出そうとした。
しかし、シリウスに首ねっこを捕まれて、そのまま抱きかかえられた。
「猫と遊ぶのは朝食を食べてからな」
はニコニコと、シリウスは複雑な心境の面持ちで、ジェームズとリリーを呼んだ。
「可愛い」
リリーは機嫌良く、猫を抱き上げた。
「僕も猫になりたいな」
「ジェームズの猫の姿なんて可愛いくないわよ」
リリーが猫を可愛がる横でぼやくジェームズをは笑った。
「ハリーならともかくね」
クスクスとリリーとが笑った。
「パパも可愛いよ」
笑うリリーとには口を出した。
「そういう"可愛い"じゃないのよ、」
リリーはまたヒクヒクと動きだしそうになる口元を抑えながら言った。
「父さんは可愛くないよ」
すると、ハリーも控え目に、きっぱりと言い切った。
途端に家の中はリリーとの笑い声でいっぱいになった。
「ハリー、酷いよ。僕たちは親子だろう?」
ジェームズは不満そうにそう言って、ハリーの頬をつついた。
「ハリーをいじめちゃだめ!」
はジェームズの腕を掴んだ。
「じゃあ代わりにが構ってくれる?僕に」
ジェームズはを撫でようとした。
そのとき、良い音が家に響きわたった。
シリウスがジェームズの頭を叩いたのだ。
「調子にのるな。は俺の子だ」
ジェームズは痛さに顔をしかめ、シリウスを見て言った。
「わかってるよ、シリウス。でも、暴力反対」
「あら、ジェームズだけは別だわ」
リリーがおどけたように言った。
すると、ついに大人の会話に付いていけなくなって暇だったがリリーから猫を受け取った。
「猫さん、猫さん、一緒に遊びましょー」
「、猫の爪には気を付けろよ」
が部屋を出ていく後ろ姿にシリウスは忠告した。
「はーい」
は元気良くそう言うと庭に出た。
数時間、猫とじゃれあいをした後、はに昼食だ、と呼ばれた。
そこで、は猫を抱えてリビングに向かった。
「まぁ、。猫と一緒になんて食事できないわよ。外に放していらっしゃい」
が呆れたように言った。
「猫さんはお昼ご飯食べないの?」
は寂しそうにそう言った。
「猫さんは外で自分の友達と一緒に食事するんだよ」
台所から人数分のお皿を持ってきたジェームズが言った。
「じゃあ猫さんと一緒に食べなきゃ。もお友達だもん」
上手いように理解したを半ば、尊敬で満ちた目で見たジェームズだが、後ろからの非難の視線も感じていた。
「猫は外で同じ猫同士で食べるんだ。だから、。お前は一緒は行けない。それに猫は賢いから食事が済んだらすぐここに戻ってくる。さぁ、猫を外に放してきなさい」
はシリウスの言うことに渋々頷いて庭に向かった。
「ちゃんと戻って来てね」
はそう言って放してやった。
猫は軽やかに塀を越えて行ってしまった。
は急いで昼食を食べると庭に向かい、イスに座った。
しかし、そのイスはには大きくて、は横になって寝転んだ。
「猫さん、まだー?」
はジタバタと暴れてみるが、何も起こりはしない。
「猫さーん」
はあくびまじりにそう言った。
すると、そのを見かねたシリウスが声をかけた。
「」
「パパ!」
はずいぶん驚いたようで目を丸くした。
「あまり外にいると風邪をひくぞ」
そう言ってシリウスはを抱き上げた。
「バカは風邪ひかないよ。ジェームズ、ひいたことないって言ってたもん」
がさらりとそう言うのをシリウスは笑って聞きながした。
「でも、はバカじゃないだろう?」
シリウスはクックッと笑い、の頭を撫でた。
「ママもそう言ってたよ」
もシリウスにつられて笑った。
庭に二人の笑い声が響いた。
シリウスは疲れたのか、ついさっきまでが座っていたイスに座り、を自分の膝に置いた。
すると、どこからともなく猫が現れた。
「猫さん!」
は嬉しそうに猫を呼んだ。
「おいで、おいで」
猫は軽やかにシリウスの足元で踏み切ると、の膝に乗っかった。
「おかえり」
は猫を抱き締めた。
猫は嫌がる様子もなく、が猫を離すと、猫はその場で丸くなり、日なたぼっこを始めた。
「パパ、猫さん寝ちゃったよ」
は嬉しそうにシリウスを見た。
シリウスも嬉しそうに微笑みかえした。
その姿勢で数十分、シリウスがそろそろ室内に入ろうと思い、に猫を退かさせようとしたが、それは出来なかった。
「寝てるのか」
心地よさそうにシリウスの腕に寄りかかっていた。
猫も日なたぼっこをしての膝でリラックスしていた。
「風邪ひくだろうが」
シリウスはそう呟いて、猫をの膝から追い払い、を抱きかかえた。
すると、不思議なことに猫がシリウスとシリウスの後を付いてくる。
シリウスは不思議と笑みを漏らしながら、猫を室内に入れてやった。
そのままの室内に向かうと、猫もちゃんと付いてくる。
「そんなにが好きなのか?」
猫は返事のつもりなのかニャーと一声鳴いた。
シリウスはそっとベッドにを寝かせると、猫を観察した。
猫は軽やかにベッドの上に飛び移るとの頭元で丸くなった。
へぇ、とシリウスは奇妙な声を出し、猫にの子守りを任せて部屋を後にした。
幼き頃の物語です。
<update:2006.02.13>