至福のとき
「パパー、遊ぼ!」
久しぶりの休日に、シリウスは暖炉前でうとうとしていた。
と遊んでこいよ」シリウスは寝起きなためか、ぶっきらぼうにそう言った。
「ママがパパと遊んでおいでって言ったの!ジェームズもハリーも一緒だよ」
はシリウスの腕を引っ張った。
「ねぇ、パパってば」
「ったく・・・・・」
シリウスは舌打ちしながらも、内心はに誘われて嬉しかった。ゆっくりと立ち上がると、に連れられて箒を持たされ、小高い丘に登った。
「おーい、シリウス」
先に来ていたジェームズが、とシリウスの姿を見つけると手を振った。
「遅いよ、!」隣にはハリーもいた。
シリウスは箒を持たされた時点で、薄々何をするかは気付いていたが、改めて言われると、少しため息をついた。
「僕と対シリウスとハリーのクイディッチだよ」機嫌良くジェームズが言った。
「ルールは簡単。このボールを僕が今から浮かべる輪に入れたら十点。制限時間は三十分。得点が多い方が勝ちだよ。それで、負けた方は勝った方の召し使いだ」ジェームズが罰ゲームを出したということは、それだけ勝つ自信があるのだろうか。は楽しげに笑うジェームズを見上げた。
「ジェームズ、言っておくけど、ハリーは本当にクイディッチ上手だよ。空を飛ぶのなんかおてのものだからね」
がジェームズにこっそりそう言っても、ジェームズはただ自信たっぷりな笑みを浮かべ、「知ってるよ」と言った。
「なら、さっさと始めようぜ」シリウスも勝ったチームの特権を聞いてやる気が出たようだ。いつも自分を良いように使っているジェームズを召し使いに出来る、と意気込んでいるようだ。
も召し使いに出来るんだよね?」ハリーが何かを含んだような笑顔でを見た。
「私が負けたらよ。でも、そんなこと万が一にもありえないわ」もハリーに負けじと言った。四人とも戦う気は万全だった。
しかし、どんなにやる気があったとしても技術がなければ勝つことは出来ない。ハリーやシリウスでさえ、ジェームズの本気には勝てなかった。はただゴール際に飛んでいればいい。後はすべてジェームズがやってくれる。下手に手出ししないのが正解だった。
「さあ、僕らの勝ちだよ」ジェームズが勝ち誇って言った。シリウスとハリーが悔しそうにジェームズを見る。
そのときちょうどよくとリリーが小高い丘に現れた。昼食が出来たらしい。バスケットを大事そうに抱えながらにこにこと箒に乗った四人を見上げていた。
「お昼はサンドイッチよ」リリーが言った。
「中身は?」が一番にリリーの隣に舞い降りた。
「いろいろ」
「お腹へったよ」ハリーがの隣に舞い降りてバスケットの中を覗いた。「おいしそうだね」
「早く食べよ!」を急かすと、は上空を見上げ、未だ戯れているシリウスとジェームズに声をかけた。
「降りてこないと昼食はないわよ!」
「それは一大事だね」
ジェームズははるか上空から急降下して、の脇に綺麗に着地するとギュッと後ろからを抱きしめた。はジェームズのスキンシップには慣れているのかクスクスと笑うだけで、リリーも気にすることなく淡々と食事の準備をしている。ハリーもも深いため息と共に、リリーの準備を手伝っていた。ただ一人、ジェームズの行為に不満なのはシリウスだ。
「ジェームズ、から離れろ!」
シリウスは急いで地面に着地すると、ジェームズの頭を叩いた。
「痛いなぁ、シリウス。暴力反対だよ」
ジェームズはそう言ってから離れた。シリウスの攻撃が意外に痛かったらしい。
「人の妻に抱き着くな!」シリウスは未だに怒っていた。
リリーはそんなジェームズを呆れながらハリーとにサンドイッチを渡した。
「あんなのに付き合ってないで、先に食べていいわよ」
「いただきます」
ハリーとはクスクス笑いながらサンドイッチを食べ始めた。すると、それに気付いたのか、ジェームズもシリウスもバスケットの中からサンドイッチを取り出した。
「さっきまで何してたの?」がニコニコと聞いた。
「クイディッチ。シリウスと僕のチーム対ジェームズとのチームだよ」とハリー。
「負けた方は勝った方の言うことを聞くのよ」とが言った。
「どっちが勝ったの?」リリーが興味津々に聞いた。
だよ」
「私だよ」
ハリーとの声がハモった。
「ハリーの方がクイディッチ上手じゃない」が不思議に聞いた。
「僕が頑張ったんだよ!」突然、ジェームズがハツラツとそう言いながら会話に割り込んでくると、リリーがなんだか軽蔑したような視線をジェームズに送った。
「ふうん。大人げなく、ハリーに手加減してあげなかったっていうわけね。ハリー、気にしなくて良いわよ。あなたがもう少し大人になったらこんなのよりずっと上手になってるから」リリーがハリーにそう宣言する横で、が苦笑していた。
「僕、別に気にしてないよ」ハリーがすかさず言った。
「ハリー!やっぱり君はなんて良い子なんだ――」
「僕、大人になったら父さんよりまともな大人になる自信あるから」
ジェームズはハリーを恨めしそうに見た。他の大人やは遠慮もなしに大笑いした。
「そりゃそうだ!ハリーはジェームズより絶対にカッコイイ大人になるさ」シリウスが言った。
「私もジェームズよりハリーの方が好きだわ」
一瞬の沈黙があった。みるみるうちにハリーの顔が赤くなった。にはその理由がわからず、キョトンとしてハリーを見つめるだけだ。
、今のは瞬殺ものだね」ジェームズがニヤニヤ笑いながら、やっとそう言った。
としてはジェームズを落ち込ませる作戦だったのに、何故か彼は喜んでいて、かなり不満だった。
「なんでジェームズが落ち込まないのよ!」はムッとしてジェームズを見た。ジェームズは未だにクスクス笑っている。
「あぁ、。これだから天然は恐ろしいよ」
やっとのことで、リリーがジェームズを止めてくれた。ジェームズはリリーに口をきけなくなる呪いをかけられた。それでも、彼はニヤニヤと、なんだか腹が立つ。
「ジェームズなんか嫌いよ」プイとそっぽを向いて、とリリーの間に挟まった。ハリーはいつの間にかシリウスと二人で何かを話している。
、君が僕を嫌いでも、僕は君が好きだよ!」
リリーのかけた呪いをジェームズは簡単に解いた。そして、そう言ってに勢いよく抱き着いた。
パパ!
こうなったらシリウスしか止められない、とは大声でシリウスを呼んだ。すると、すぐさまシリウスから強力な一撃がジェームズに与えられる。
「シリウス、暴力は反対だよ」
ジェームズはシリウスに殴られた頭を押さえた。
「魔法じゃお前は懲りないだろ?」フンとシリウスは鼻を鳴らした。
「元はと言えば、が原因なのわかってる、シリウス?」
「知ってるさ、ジェームズ」
二人はニヤリとお互いを見て笑った。

がシリウスを見ると、シリウスは至極真面目な顔でを見ていた。
「何か?」
「お前はブラック家の"天然"記念物だ」
「パパも嫌いよ!」
はそう言って、大笑いするシリウスとジェームズを睨んだ。
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至福=日常っていうことで、こんなお話です。
<update:2007.03.22>