月のない夜に
「リーマス、大丈夫かい?」
玄関の方ではジェームズがたった今、帰ってきたリーマスに声をかけていた。
にはそれが丸聞えだった。
「おかえりなさい、リーマス。何か食べられそう?」
リビングに入ってきた彼に、が声をかけた。
「多分、少しなら・・・・・」
リーマスはいつになく、顔色が悪そうだった。
は「おかえりなさい」と声をかけるタイミングを逃してしまった。
「わかった。座って待ってて」
リリーはテキパキとそう言い、ジェームズとシリウスはリーマスを挟んで両側に座った。
、手伝って」
ハリーと並んで宿題をやっていたの呼び掛けに短く返事をすると、キッチンへ向かった。
「これをリーマスに運んでちょうだい」
から受け渡されたのは、良い匂いのするスープだった。
はスープがこぼれないように気を付けながら、リーマスの目の前に置いた。
「パパ、宿題分かんない」
はリーマスの体に無数の傷があるのに気が付いたが、見て見ぬフリをしてシリウスに言った。
「どこだ?」
シリウスが席に座るの背中を見ながら問いかけた。
「魔法史。『国際魔法会議』が何故行われたのか」
が面倒くさそうに言った。
シリウスもが魔法史が嫌いなのを知ってるので、苦笑しながら答えた。
「魔法界の規約を作るためだろう?」
「そんなの知らないし」
はシリウスに反発しながらも魔法史の宿題をやり始めた。
、縮み薬に入れる、ネズミの脾臓ってどれくらい?」
「一つだけ」
サラサラと魔法史の宿題を仕上げながらは答えた。
ジェームズが感心したような声をあげたが、の興味は違うところにあった。
「ハリー、私、魔法史の宿題終わった」
は一度伸びをすると、羊皮紙を丸めた。
「じゃあ、もう寝たら?」
キッチンから戻ってきたが口を挟んだ。
「まだ眠くない」
は羊皮紙をひろげた。
ハーマイオニーに手紙を書くためだ。
「十二時までにはハリーもも寝なさい」
リリーはそう宣言し、食べ終わったリーマスのお皿をキッチンへと運んだ。
「リーマス、もう寝ろよ。疲れただろ?ハリーもも静かにさせておくし」
シリウスがリーマスを促すと、リーマスは素直にそれにしたがって立ち上がった。
「おやすみなさい」
はリーマスが自分の横を通り過ぎるとき、ボソリと言った。
すると、リーマスはちゃんと聞こえたようで、「おやすみ」とに返した。

翌日の朝、は少し早目に起きて、ハリーより一足先に朝食を食べ始めた。
、今日、ハリーと一緒に出かけるけど、一緒に来るかい?」
ジェームズがに話しかけたとき、ちょうどハリーが起きてきた。
「ううん、行かない。家で留守番してる」
「でも、今日はシリウスももリリーも仕事だよ?」
ジェームズが再確認した。
しかし、それでもの意思は変わらなかった。
「なら、リーマスがお昼ごろ起きてくるから、一緒にご飯を食べてね。何か作っておくから」
リリーが自分のお皿を片付けながら言った。
リリーがお昼ご飯を作ってくれるらしい。
「魔法史の宿題が分からなければリーマスに聞くと良い。あいつは授業をちゃんと聞いていたからな」
シリウスは茶化すようにそう言うと、寝室に向かった。
もう出かけるらしい。
「もう魔法史の宿題は終わってるもん」
はその後ろ姿に叫んだ。
シリウスは肩を震わせながら階段を上って行った。
「さて、ハリー。僕たちもそろそろ出かけないと」
ジェームズはハリーを急かし、二人分のお皿を片付けた。
「そうね、私も行かなきゃ。遅刻しちゃうわ」
も慌ただしくお皿を片付けると、上の階に行ってしまった。

約二十分後、家にはリーマスとの二人だけになってしまった。
は自分の部屋から宿題を持ってくると、机にひろげた。
一時間もしただろうか、リビングにリーマスが降りてきた。
いくぶんか、昨日より顔色が良かった。
「どうやら寝過ごしてしまったようだね」
「ううん、そんなことない」
は羊皮紙から顔を上げた。
そして、無意識のうちにずっとリーマスを見つめていた。
「何だい、
リーマスが聞いた。
は驚いた顔をしたが、素直に自分が思っていることを口にした。
「リーマスはまだ私とハリーに隠している事があるんじゃないの?どうして満月の夜には家にいないのか、とか」
今度はリーマスが驚く番だった。
「もしかしたら、もう君はその答えがわかっているんじゃないのかい?」
「えぇ、私なりの答えはもうあるし、多分、正解だと思う」
リーマスはジッとを見つめたのち、苦笑した。
「君は思っていたより、シリウスとジェームズからいろいろ教わっているみたいだね」
はリーマスに言った。
「狼に噛まれたんでしょう?」
「そうだよ」
リーマスはアッサリと認めた。
「小さい頃ね。――そう、ホグワーツに入ってから、シリウスとジェームズに見破られた。君はそのときのシリウスの表情によく似ている」
パパに?
は少し傷ついたような声を出した。
「誉めてるんだよ、。彼らは新月の夜に私を中庭に連れだして聞いたんだ。『狼人間だろう?』って。でも、それは軽蔑とか、そういうのじゃなくて。多分、友達として言ったような口調だった」
はジッとリーマスの話に耳を傾けていた。
「そのときのシリウスの表情や雰囲気を君が今、そっくりに再現している」
リーマスはに微笑んだ。
「私は、リーマスが大好きだし、狼人間だからってリーマスを怖いとも思ってないわ。そういう差別をする魔法使いの方が私は怪物だと思う」
はリーマスの目を見てはっきりと言った。
リーマスは「ありがとう」と言っただけだった。
「でも、。私が狼になっている時はむやみに近づかないようにね。私が君を噛んだ、なんてことになったら私は死んでも死にきれない」
「じゃあ死なないで、私に狼人間の生き方を教えてよ」
とリーマスはお互いに顔を見合わせて笑った。
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狼人間に感づいたときの表情はやっぱりシリウス似ではないと。
<update:2006.07.08>