世界に飛び立つ
ドアの隙間からは母親たちの声が聞こえていた。
も、もう十七歳。成人よ。どっかのろくでなしの男に引っ掛からないといいけど」
「そうね。彼女ならちゃんと就職出来るだろうし。問題は結婚ね」
はそっとドアを閉めた。
あまり、自分が聞いていたことを知られたくはなかった。

「ひゃ!」
いきなり首筋に冷たいものを押し当てられ、は悲鳴をあげた。
「ごめん、ごめん。ただの水だよ」
が振り向くと、ジェームズがコップを持って立っていた。
「こんなところで一体何をしているんだい?中に入らないの?」
ジェームズはドアを開けようと手を伸ばした。
「リ、リーマスとパパは何してるの?」
は気をそらそうと、慌ててジェームズの手を押さえて言った。
「チェスでもしてるんじゃないかな?久しぶりの休日だし、もしかしたらシリウスは寝てるかも。あ、そしたらリーマスはきっと本でも読んでるね」
「ジェームズは暇なの?」
は意地でもジェームズの手を離すまいと、強く握った。
「いや、突然の手紙が来てね。明日、仕事が入ったんだ。だからリリーにそれを告げて明日の準備さ――、手が痛いんだけどな」
はいつの間にかジェームズの手を強く握っていたらしい。
「ごめん、じゃあ私、パパのところに行く」
は大股でその場を去った。
後ろからジェームズの不思議そうな目線が痛かった。
「リーマス」
ジェームズの予想通り、シリウスは寝室で寝ていた。
そのとなりにリーマスが本を読んでいたので、は小声でリーマスを呼んだ。
「中に入ってもいい?」
「いいよ、おいで」
リーマスはを招き入れた。
「パパ、疲れてるみたい?」
がリーマスの隣に座った。
「何とも言えないね。シリウスは昔から自分を隠すのが上手かったから」
「自分を隠すのが上手かったのはリーマスの方だろう?」
突然、ベッドからシリウスの声がした。
「パパ、寝ていたんじゃないの?」
「うつらうつらしてただけだ」
シリウスは体を起こした。
「シリウス、私は向こうに行くよ」
リーマスが苦笑して言った。
「いや、いい。どうせならリーマスもいた方が――何の用だ?」
シリウスはまだ眠いのか欠伸をした。
「疲れてるなら後にする」
はそう言って立ち上がろうとしたが、リーマスに手首を捕まれた。
やリリーに聞かれたくないのなら、今が一番良い。ジェームズが長話をしているだろうから」
リーマスがすべてお見通しのようにに言い切った。
「で、なんだったんだい?」
「闇祓いって大変?」
シリウスはリーマスと顔を見合わせた。
「苦労ならすでに知っていると思ったが?」
シリウスが不思議そうに聞き返した。
「今、指導されているんじゃないのか?」
「うん、されてる。でも教官が言うには実際はもっと厳しいって」
それにしたって、とリーマスが言った。
「教官からは君には素質があると誉められたよ」
「疲れたのか?」
シリウスが聞いた。
「じゃなくて・・・・・あのね、怒らないでほしいんだけど、ママとリリーが話しているのを聞いちゃったの」
「それで?」とシリウスが先を促す。
「ろくでなしの人と付き合いそうって言ってた」
「誰が?」とリーマスが聞いた。
「私が」
はうなだれて言った。
シリウスもリーマスも納得顔だ。
「でも、には言う権利ないと思うよ」
ふと思い出したようにリーマスが言った。
「彼女だってシリウスとくっつかなきゃ今頃変な男に騙されてると思うな」
リーマスがクスクス笑った。
「なんで?ママは一年生のときからパパが好きだったんじゃないの?」
「いや、それは違うよ、
リーマスが言った。
「彼女は男とあんまり一緒にいなかったよ。ずっとリリーと一緒にいた。でも、もう少し大人になってリリーがジェームズと付き合うようになったから、は僕らと一緒にいるようになったんだ」
「で、パパと付き合うようになったの?」
が興味津々で口を挟んだ。
「ま、そういうことだな」
「なに、さらりと言ってるの?君はあのとき、に振り回されてたじゃないか。君の世界はだったよ」
が思わず吹き出した。
「気持ち悪い」
はシリウスに睨まれてもまだ笑っていた。
「でもね、。シリウスはちゃんとのことを愛していたんだよ。彼女ね、さっき言った通り、変な輩から目をつけられていたみたいでね、シリウスが危機を察して助けに行ったんだ。――僕らは気のせいだと言ったんだけど、シリウスにはちゃんと分かってたみたい」
「いいな、ママ。愛されてて」
が思わずそう呟いた。
「ハリーとは付き合ってないのか?」
シリウスがふとハリーの存在を思い出した。
「ハリーとはただの友達。そんな仲じゃないわ」
「でも、向こうはそう思ってないかも」
リーマスが茶化すように言った。
「ないない」
それでもは鼻で笑うだけだった。
「それにしたって、はモテるだろう?その中に良い人はいないのかい?」
リーマスが聞いた。
「まあ、いることにはいるんだけど、あんまり・・・・・って感じかな。それならハリーと付き合うわ」
「案外、きっかけがないだけかもな」
シリウスがボソリと言った。
「どういうこと?」
が首をかしげた。
「学生時代にジェームズとリリーもシリウスともくっついただろう?だから出会いとか、雰囲気とか、きっかけも、学生時代が一番多いって言いたいんだろう?」
「正解だろ?」とリーマスは笑った。
「そんなこと言われたって私は学生しゃないわ。もう社会人よ」
がむくれた。
「知ってるさ。だから、それなら一生独身でいろよ」
シリウスが興味をなくしたのか、ダルそうな声で言った。
「いやよ!子供、ほしいもん。――それならリーマスと結婚する!」
シリウスはポカンと口を開けた。
「リーマスはおじさんだぞ?もう年だぞ?」
「だから?ママだってリリーだって文句ないはずよ。リーマスはちゃんとした人だもん」
シリウスはははっと乾いた笑い声をあげた。
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リーマス寄り。シリウスパパ、これでいいのかっ!?笑
<update:2006.07.21>