さあ、共に生きていることを誇って乾杯しようじゃないか
ヴォルデモートを倒すために、ハリーが直接、彼と戦わなければいけないと知ったとき、は涙を流しながら駄々をこねた。しかし、それでハリーの決心は揺らぐことはなかった。
「僕、行くよ」
ハリーがの目を見て言った。その目に迷いはないように見えた。
「僕、行くよ、
ハリーはの濡れた頬を撫でながら、もう一度言った。
「・・・・・やだ」
は涙を拭きながら、ハリーをにらんだ。
「やだ、そんなの、やだ

ハリーが怒ったような声で彼女の名前を呼んだ。
「駄々をこねないで。いつかはこの日がくるって君も分かっていたはずだ」
「だから何よ」が食ってかかった。
「あなたが冷たくなって帰ってくるのを心待ちにでもしろと?」
「そんなことは言っていないだろう」
ハリーがため息をついた。
「私も一緒に行かせて」
「だめだ」
ハリーがに鋭く言った。
「危険すぎる。君をみすみす危険なところに行かせられない」
「あなたが良くて、私が駄目なんて納得いかないわ」
ハリーとはしばらく睨み合ったのち、ハリーが優しい笑みを浮かべ、を抱きしめた。
「僕は必ず君の元に帰ってくる。例え、地球の裏側に飛ばされようとも――僕は生きて帰る。絶対に」
の啜り泣きがハリーの耳に届くと、ハリーはますます強く抱きしめた。
「愛してる」
はしばらくハリーの胸で泣いたあと、涙に濡れた顔をハリーに見せた。
「さようならは言わないわ」
ハリーがにっこりと頷いた。
「いってらっしゃい」
は悲しみで張り裂けそうな胸の内だったが、いつもの温かい笑みを浮かべてハリーに一言告げた。
「行ってきます」
ハリーも、もう一度を抱き寄せて、耳元でそう囁いた。
決心が鈍らないうちに、とハリーがに背を向けて歩き出すと、が耐え切れなくなったように、ハリーに駆け寄ってきた。
「ハリー!」
は自らハリーに抱き着くと、そのままハリーの唇に自分自身のものを重ねた。
たった数秒の出来事でも、彼らにとっては永遠だった。

それから数カ月、はハリーがいない日常を生きた。そんな毎日にもしばらくすると慣れを感じるようになったが、時に感じる寂しさは言いようのないほど辛いものだった。
、そんなところじゃ風邪ひくよ」
出窓の縁に腰掛けて、外の景色を見るに、ジェームズが優しく声をかけた。
クリスマスの前日、の気持ちを痛いほどよく分かっているシリウスやジェームズ、リーマスは、彼女を気遣うように静かな一日を過ごしていた。しかし、やはりクリスマスというのは特別で、の悲しみは倍増するばかりだった。
「風邪なんてひかないわ」
は窓から目を離さず答えた。
、こっちにおいで」
リーマスは立ち上がってのところまでくると、その手をとって優しく引っ張った。は渋々、リーマスに連れられて暖炉前に座った。
「ほら、手が冷たくなってる」
の手を握りながらリーマスが言った。
「リーマスの気のせいよ」が弱々しく微笑んだ。
しばらくの沈黙があって、やっとシリウスが口を開いた。
「寂しいか?」
「・・・・・それは聞かない約束でしょう?」がつぶやいた。
「ハリーなら、必ず帰ってくるよ」
ジェームズが静かに語りかけた。
「あいつは、約束を破るような男じゃない」
「知ってるわ――でも寂しいの」
が目を伏せた。
そんなにシリウスは静かに近付くと、優しくその肩を引き寄せた。も抵抗することなく、彼に身を任せた。
「もうすぐ帰ってくるさ」
「――だと良いわ」
が疲れたように言った。毎日、帰ってくる日を心待ちにしている彼女にとって、待ち続けるのは大変だった。
「パパがハリーならよかったのにね・・・・・」
の声は悲しみで濡れていた。三人の大人たちは、彼女の呟きに返す言葉がなかった。彼女の辛さがひしひしと伝わってきて、辛くなる。
「もう寝てしまった方が楽なんじゃないか?」シリウスがの頭を撫でた。
「まだ早いわ」がクスリと笑った。
「それにまだやることが残ってるの」
「じゃあ、せめてもう少しここにいなよ」
リーマスが横から口を挟んだ。
「そうするつもりよ、リーマス」が答えた。
暖炉の火が赤々と燃えるのを見ながら、ジェームズやシリウスの楽しげな話を聞き、リーマスの容赦ないツッコミに苦笑していると、どこかで微かな声が発せられたのに気がついた。
「今、何か聞こえなかった?」
の緊迫した声に三人を取り巻く雰囲気も、一気に緊張した。
「いや」ジェームズが鋭く答えた。
「わたしも聞こえなかったが・・・・・」リーマスが耳を澄ました。「まだ聞こえる?」
「いいえ――」
は自分の声と重なるようにして、またその微かな声を聞いた。
「――今、した」
「何も聞こえなかったよ」リーマスが首を傾げた。
、きっと疲れてるんだよ」リーマスが心配そうにの顔を覗き込んだ。
「そんなことない。私、聞いたわ」
は立ち上がると部屋をぐるぐる回り、どこから聞こえるのか確かめようとした。そして、聞こえないとわかると、は部屋の外に出た。

本当に微かだが、は自分の名前が呼ばれたのに気付いた。
、待つんだ」
いつの間にか玄関ホールにまでたどり着いたをシリウスが引き止めた。
「どこに行くつもりだ?」
「外よ。誰かが私の名前を呼んでいるの」
「外は危険だ」
シリウスがの腕を掴んで、引き戻そうとした。しかし、すでにの気は外にあった。

さっきより声がはっきり聞こえた。確かに自分の名前だと確信した。
「パパ、行かせて!」
はドアの取っ手に手をかけた。
「駄目だ!」シリウスが頑なに言った。

はその声に聞き覚えがあるのに気がついた。優しく、懐かしく、そして暖かな――。
「ハリーなの!」
は無理矢理ドアを開けた。ドアの外は吹雪で、一面真っ白だった。見通しが効かず、シリウスが危険と言うのも頷ける。しかし、それでもは外に出たかった。が、シリウスの方が強く、それ以上前には進めない。
、やめるんだ」
ジェームズの声に少し怒ったような響きがあったが、は構わず外に向かって叫んだ。
「ハリー!」

すぐに返事が返ってきた。今度は三人にも聞こえたらしく、シリウスの力が緩んだ。
「ハリー!」

さっきよりも大きく、はっきりと声が聞こえた。どんどん近づいてきているようだが、姿は雪に消されて見えない。

「ハリー!」
まるでお互いを確認するかのように二人はお互いの名前を呼び続けた。
「本当に、ハリーなのか?」
ジェームズが目を凝らし、姿を確認しようとした。
「わからない」シリウスが言った。
「ハリーよ!」
が三人を振り返った。
「もうすぐ見えるわ」
はそんな気がして吹雪を見つめた。すると、確かに遠くの方に黒い影が揺れ動くのが見えた。
「ハリー!」
はシリウスの腕を振りほどき、吹雪の中を駆け出した。後ろから、我に返ったシリウスたちが自分を追ってくる気配があったが、は立ち止まらなかった。

「ハリー!」
黒い影の輪郭がはっきりしてきた。は息を切らしながら走り続けた。

数メートル先にはハリーの姿があった。長い間見なかった彼は、どこか強くなった気がした。
「ハリー・・・・・」

ハリーはゆっくりとに近づいた。そしてにっこりと笑ってを抱き寄せた。
「ただいま」
「・・・・・お帰りなさい」
の数歩後ろで、三人の大人たちがその様子を優しく見守っていた。
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いろいろな矛盾はスルーな方向で。
<update:2007.07.03>