今あなたが死んだら、何人があなたのために泣いてくれますか
ヴォルデモートの全盛期。とリリーは先日の戦いでの負傷で入院していた。世の中が不安にかられるなか、不死鳥の騎士団の本部はどこかぴりぴりした緊張が漂っていた。きっかけはシリウスとスネイプの見慣れた睨み合いだった。
いつものように会議が終わり、ハリーとはリビングに降りてきた。まだちらほらと騎士団の団員が残っている。はリーマスがまだ残っているのを見て、駆け寄った。ハリーも一緒についてきた。
「ママたちは大丈夫だった?」
ヴォルデモートに狙われている身として二人は外出することが出来ない。渋々、家の中で団員に母親の容態を聞いている。隙があれば直ぐさま家の外へ行こうとするに、団員も手をやいていた。しかし、幸いなことに、には「ルーピン」という弱点があった。ルーピンのおかげでは素直に家に留まっている。
「大丈夫さ。幸い、傷は軽い。もリリーも無事だよ」ルーピンは微笑んだ。
「いつ退院出来そう?」ハリーが聞いた。
「まだ目通しはついていないが、今週中には出来ると思うよ――」
ルーピンがそう言った瞬間、バーンと大きな音がした。音のした方を見ると、シリウスとスネイプがお互いに杖を構え、にらみあっている。
「二人とも!」
騎士団のメンバーの何人かが二人の間に止めに入った。ダンブルドアが不在なので、シリウスもスネイプも歯止めが効かない。しかし、彼らも周りの団員の視線、ましてや子供の視線を感じながら睨み合い続けることは出来ないだろう――。
「貴様のおかげだ。妻を負傷させるとは見上げた根性だ!」
「お前なら守りきれたというのか!に守られているお前に」
残念ながら、睨み合いは終わらなかった。どうやらの負傷についてのようだった。
「ジェームズ、二人を止めなくていいのかい?」
ルーピンはシリウスの陰に悠々と立っているジェームズを見つけた。
「あぁ。この家はダンブルドアの魔法で吹っ飛ばないからね。リーマスも見ただろう?会議中の彼ら。一度とことんやらせた方が静かになると思わないかい?」ジェームズは静かに三人に近寄ってきた。彼にはさらさら止める気はないらしい。
「しかし・・・・・」ルーピンは心配そうにを見た。のことになると歯止めが効かなくなるのはシリウスやスネイプだけではないのだ。
は大人しくしてるよ。どうせあの二人の間には入れないことを知ってる。無駄なことはしないだろ?」ジェームズがに視線を落とすと、は肩をすくめてみせた。
「それとも、リーマスもあの二人の争いの中に入りたいのかい?」ジェームズが聞くと、ルーピンは顔を背けた。
「好きなら好きって素直に言えばは受け止めてくれるさ」
ハリーとには到底わからないような話を彼らは繰り広げた。
そんな間もシリウスとスネイプは争っている。騎士団のメンバーも、もう諦めたのか自分に被害がこないように遠巻きにしていた。
「結局のところ、ママはどうして怪我したの?私、何も聞いてないわ」
「シリウスを庇ったんだ。スネイプにはそれが許せないらしい。そして、シリウスも庇われたことに苛立っている」ジェームズが二人を見ながら答えた。
「リーマスは怒らないのね」がぽつんと言った。
「私に怒る権力は――」
「あるよ」ハリーが口を挟んだ。
「ルーピンだって悔しいんじゃないの?みすみすを怪我させたんでしょ?シリウスに嫉妬したって正当なはずじゃないか」
ジェームズが感心したようにハリーを見た。
「そろそろパパとスネイプを止めてよ、ジェームズ。うるさいのは嫌いよ」の頼みに、ジェームズは少し笑って二人の睨み合いに終止符をうった。
そして、スネイプはさっさと黒いマントをなびかせて家から出て行った。他のメンバーも続々と姿くらましをしていった。家に残ったのはシリウス、ジェームズ、ルーピン、ハリー、そして紅一点の
「パパ、スネイプと争わないで」はハリーとジェームズのチェスの試合を見ながら言った。
「争ってない。あいつが突っ掛かってくるだけだ」シリウスはまだ不機嫌だった。
「なんでもいいけど、スネイプに怪我させられないでね。それで、彼に怪我させないでね」は横目でチラリとシリウスを見た。
「シリウス、は君だけのものかもしれないけど、セブルスだって心配くらいさせてやってもいいんじゃないかな」ルーピンがシリウスの隣に腰を下ろした。はハリーたちの試合に集中しているフリをして、二人の話に耳を傾けた。
「昔からあいつはに当たってばかりいたのにか?」シリウスが噛み付いた。ジェームズの口元は緩んでいたが、彼は口を出さなかった。
はそう思ってなかった」ルーピンが静かに言った。
は騙されていたんだ」
「シリウス、大人になって。はみんなから愛されているんだよ」
ルーピンのその言葉にはピクリと反応した。
「確かには君を愛している。そして、君もを愛している。だけど、他の人もを愛している。愛するのは自由だ」
「知っている」シリウスが落ち着き払って言った。
「だったらどうして――」
「さあな」不思議そうなルーピンの顔を見て、シリウスは笑った。
「リーマス、お前もいずれ分かる。、夕食にしよう」
シリウスはそう言って、を台所に連れていった。
「今日は珍しく静かだな」
二人きりなのを確認して、シリウスはに言った。
「それじゃあ、私がいつもうるさいみたいじゃない」がふくれた。
「事実だろうが」シリウスがクックッと笑った。
「それで、どうしたんだ?」
シリウスはいつも好奇心旺盛なが会話に入ってこないことを、ちゃんとわかっていた。
「別に」はそっぽを向いた。
「ママがみんなから愛されてるのはすでに知ってるし」
シリウスは優雅に壁に寄り掛かるとを見下ろした。
「確かに、今が死んだら少なくとも、五人は泣くだろう」
は静かにシリウスの言葉を待った。シリウスもそれを知ってか、を見つめた。
「だが、今お前が死んだら、私は取り乱して泣くだろうな」
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シリウスの言う五人とは、自分、リーマス、セブルス、リリー。あと一人はご想像にお任せ^^
<update:2007.01.31>