背中に真っ白な羽が欲しいと言ったら、あなたはどんな顔をするのでしょうか。きっと、また優しい笑顔で私を見つめ返してくれるのでしょう。
「、やっと見つけた」
芝生に座って湖を眺めるを後ろから包み込んだのは、ジェームズだった。クリスマスも終わって、新年を迎える準備を始めた彼らは、気晴らしにルーピンとスネイプを交ぜて、ピクニックに来ていた。お昼も食べて、それぞれ自由な時間を過ごしていた中、は一人で少し遠くに来た。
「リリーと一緒にいなくていいの?」が問い掛けた。
「うん、大丈夫だよ」ジェームズがクスリと笑った。
「そう」
はそう呟いて湖に視線を戻した。ジェームズは無言で彼女の隣に座る。
「――君らしくないね」ジェームズも湖を見つめた。
「そう?」
「うん・・・・・」
ジェームズは微かに笑う。彼がに理由を問うことはなかった。ただ、じっと座って何かを待っている。
「、ジェームズ」
ジェームズの期待通りかはわからないが、タイミング良く、シリウスが現れた。
「やあ、シリウス。君も来たんだね」ジェームズが振り返った。
「まぁな」シリウスがはぐらかす。の隣に腰を下ろすと、シリウスはの横顔を見つめた。
「――・・・・・」
すべてを見透かしたようなシリウスには寄り掛かる。
「好き・・・・・パパが、好き」
シリウスは無言での頭を撫でた。
「ジェームズも、リーマスも、みんな好き」
「それは、嬉しいな」
いつの間にかルーピンはの後ろにいて、同じく湖を眺めていた。
小さな吐息と共にの口から出た言葉は、確かに彼女らしくない言葉だった。
「――真っ白で汚れることのない羽が欲しい」
は両手を伸ばした。その手は、いつもより小さく見える。
「汚れを知らなければ、純白でいることは難しい」
その手を握ったのはほかでもないスネイプだった。
「白くなければ空は飛べません」はスネイプの手を握り返した。
「先生のことも、好きですよ」
黒いマントに包まれたその人物は表情を動かさない。
「羽が白いままでいたいなら、僕らが汚れを取り除ける。空は君を歓迎するだろう」
ジェームズがやんわりとスネイプの手をはがして、の頬を撫でた。
「一度、汚れたら元には戻れない」がそっと呟いた言葉は、悲しい響きを奏でる。
「それが君の色なんだよ、。自分の色が一番綺麗だ」ルーピンが言った。
「私の色はたくさんの人と混じり合って輝きを失った」
「いや、失ってはいない。お前に見えないのは、不安が盲目にしているからだ」シリウスが髪を撫でる。
「盲目な私は翼を白くすることさえ不可能になった。無力な私には何も出来ない」
「そんなこと、ないよ」
五人を包むように風が吹いたと思えば、はルーピンの腕の中。
「君は十分過ぎるほど頑張ってる。ヴォルデモートはいずれ失脚する。すべての人を守りきるなんて不可能だ」
「――私には重荷すぎて、空は遠い」の頬に涙が伝う。
「目の前の人さえ救えない」
「感情に流されて、本当に大切な人を失ったら、君はもっと痛め付けられる」ジェームズがの涙を指ですくった。
「見殺しにするのが良いとは言わない。だけど、犠牲も必要なときだってある」
「白い羽の持ち主はいつも私に笑いかけてくれる。でも、永遠なんかじゃない」
「この世に永遠など、存在せぬ」スネイプが言った。
「彼女もいずれは死ぬ時がくる」
「白い羽は気高くて、私には手が届かない。湖と空は同じ色なのに混じり合わないのは、お互いを尊重し合うから。間を舞う白い羽は許された者の証」
の言葉に導かれるように、空に光が満ちた。湖に光が増した。
「すべてを許される者など、この世にはいない」スネイプは憂いに満ちた目で湖を見た。
「ずっと白い羽を持っていることは出来ないよ、」ジェームズがそっと呟いた。
「僕らはいつも死と向かい合わせだ」ルーピンは強くを抱きしめる。まるで、が消えてしまうかのようだった。
「空から降り注ぐ光は、いつか汚れた羽を光り輝かす力となる」シリウスが言った。
「光の中に闇があるのではなく、闇の中に光があるんだ」ジェームズはそう言って、一筋の光を空に向かって放つ。
「闇も光も私を歓迎してはくれない」
「なら、僕たちが君を歓迎しよう――」ジェームズがズバっと言い切った。
「――それで、十分じゃないか、。羽がなくても君は空を飛べる。すでに、白い翼が君にはあるんだから」
「白い羽は永遠に輝き続け、誰にも触れることは出来ない。翼は私の背中にあるの?」
「あるさ」ルーピンが言った。「君の背中に」
「白い翼でも空は飛べる?」
「飛べるよ」ジェームズが言った。「君が望むなら」
「私の望みはただ一つ。ずっとみんなと一緒にいることよ」
「ならば、それに向かい、たゆまぬ努力をするべきだろう」
スネイプはそう言って、クルリと背を向けると、歩きだした。
「僕らは君から離れないし、君を手放すつもりもない。君次第だよ、」
ジェームズもスネイプにつられるように立つと、やはりその場から立ち去った。
「君の望みは、私たちの望みでもある」
ルーピンは優しくを解放すると、そっと立ち上がり、ジェームズの後を追った。残ったのはとシリウスだけだった。
「来年もずっと一緒にいたい」
はギュッとシリウスに抱き着いた。シリウスは一瞬驚いたようだったが、抱き着いてきたの背中に手を回し、抱きしめ返してやった。
「白くなくても、羽がなくても、お前は何も失いはしない」
「それでも――」はシリウスから離れて目を見た。
「――背中に真っ白な羽が欲しい」
すると、シリウスは優しい微笑みで、を見つめ返した。心地良い沈黙が辺りに流れ、突然はシリウスに抱きしめられた。本当に温かい。
「大丈夫だ・・・・・きっと、大丈夫だ」
来年と言わず、この先ずっと一緒にいたい、と願うのは傲慢すぎるでしょうか。きっとあたなは優しい微笑みを浮かべて、首を振るのでしょう。
新年前なのに暗くてすみません・・・・・。
<update:2006.12.30>