「メリークリスマス、」
25日の朝、はにたたき起こされた。
「メリークリスマス、ママ」
寝惚け眼でそう返事をすると、はおかしそうに笑う。
「下にリーマスが遊びに来てるわ。早く着替えて降りてきて。ハリーも今ごろ、ジェームズに起こされているわね」
は「リーマス」という単語を聞くと、素早くベッドから降りた。
「プレゼント開ける前に下に降りてきてよ」
はそう言っての部屋を後にした。きっと、ルーピンがいると知って急いで降りてくるだろう。
案の定、はものの十分で身支度を整えて降りてきた。はクスリと笑った。
「メリークリスマス!リーマス」は満面の笑みを浮かべた。
「メリークリスマス、」ルーピンも優しくに微笑みかえす。
「プレゼントは気に入ったかい?」
「ごめんなさい、リーマス。まだ見てないの。ママに急かされたから」
「に急かされなくとも降りてきただろ?」
とルーピンの会話に割り込んだのはほかでもなく、シリウスだった。
「意地悪」がシリウスをにらみつけると、さもおかしそうにルーピンがクスクス笑う。
「シリウス、をいじめたら駄目だよ」
ニコニコと笑いながら現れたのはジェームズだった。ハリーも一緒にいる。
「メリークリスマス、ジェームズ、ハリー」が言った。
「メリークリスマス、」二人が笑いかける。
「リーマス、体の方は大丈夫か?」ジェームズが突然、真剣な表情になって聞いた。
「大丈夫だよ、ジェームズ。無理はしていない」リーマスが頷いてみせた。
「そう、なら良かった。楽しんでいけよ」
「それは俺のセリフだ!」
かっこよく決めてみせたジェームズにシリウスが鋭く突っ込んだ。五人は笑った。
「、手伝って」
朝食を片付けて、リリーがを台所に呼んだ。
「ケーキ、あなたも作ってみたいでしょう?」
台所は大奥と化した。
魔法が使えない未成年のは簡単なものしかやらせてもらえなかったが、それでも楽しそうにケーキ作りに参加する。
「ママ、終わったよ」
「じゃあ次はこっちね」
はそつなくこなし、後はオーブンで焼くだけだ。
「お手伝いありがとう、」リリーが言った。
「どういたしまして、リリー」がにっこり微笑んだ。
「ハリーたちのところに行ってきていいわよ」がそう言うと、は素直に従った。
ハリーは暖炉の前で、ジェームズとチェスの対決をしている。ルーピンはその傍らに座って見学していた。シリウスの姿が見えない。
「やあ、。ケーキ作りは終わったのかい?」真剣勝負の二人を横目に、ルーピンがに話しかけた。はルーピンの横に座ると、二人のチェスを見ながら、答えた。
「えぇ、終わったと思う。ママたちが今、ケーキを焼いてるから」
そう、とルーピンも二人のチェスに視線を戻した。
「パパは?」
がルーピンに何気なく聞いた。
「シリウスは上にいるよ。なんだか、さっき慌ててたけど・・・・・どうしたんだろうね?」ルーピンもさっぱりわからない、とを見た。
「、気になるなら上に行っておいでよ」ジェームズが口を挟んだ。
「別に、気にはしてないけど」が呟くと、ジェームズは強がり、と笑った。
「あんまりがルーピンばっかりと話してるから、シリウスはすねたんじゃないの?――父さんの番だよ」ハリーもすかさず口を挟み、をからかった。
「ハリー、誰がすねてるって?」
突然、声が聞こえたかと思うと、シリウスが立っていた。
「冗談に決まってるじゃん、シリウス」ハリーが微笑むと、シリウスはハリーに甘いのですんなりと許してしまう。
「ハリー、チェックメイトだ!」その隙に、ジェームズがチェスの駒を動かして、ハリーを追い詰めていた。ハリーの持ち駒はハリーに文句を言っていた。
「相変わらず手加減ねぇな」シリウスが呆れたように、大人気ないジェームズを見た。
「野心家と言ってくれ、シリウス」ジェームズがポンッとシリウスの肩をたたく。
「どこが野心家なんだい、ジェームズ」ルーピンが鋭く突っ込む。ジェームズは返答出来ずに黙ってしまった。
「――ところでシリウス。マントなんか着て、出かけるのか?」
クリスマスなのに、とジェームズが話をさし変える。
「あぁ、さっき呼び出されてな。には伝えてきた。多分、今夜は戻れない――」
「なんで!」ハリーが怒った。
「シリウス、いないの?」
「仕方がないんだ、ハリー。仕事でね・・・・・」シリウスが困ったように言った。
「いってらっしゃい。早く行かないと遅刻じゃないの?」
は素早くハリーとシリウスの会話に割り込んだ。シリウスはその言葉が意外だったのか、目を丸くしてを見た。
「、悪かった――」
「早く行きなよ、パパ。別に気にしてないから」
は努めて平静に言った。シリウスも本当にこのまま止まっていると遅刻なので、後ろ髪を引かれる思いで家を出ていった。
「、良いのかい?シリウスと一緒が良かったんじゃ――」
「私がわがまま言って困らせたらパパが可哀想よ。仕事なら仕方ないじゃない」そう言ってプイッとどこかに行ってしまった。
一方、シリウスはのその態度が気になって仕事が上の空になりがちだった。わがままを言われるのも困るが、あまり聞き分けが良すぎるのも、余計に心配になってしまった。
「もプライドが高いからね」ルーピンがジェームズと二人座りながら呟いた。ハリーとはリリーとに連れられて外出していた。
「プライドが高い、と言うより、素直じゃないんだよ、は」
そこが可愛いんだけど、とジェームズが言った。
「あまりをからかうと、嫌われるよ?」
「そこのとこ、ちゃんと心得てるから」少し呆れたような、心配そうなルーピンにジェームズがズバリと言い切った。
「それよりシリウスだよ。あの顔は絶対にのことが気になってるな」ジェームズは出かけ間際のシリウスの顔を思い出した。
「シリウスだってなんだかんだ言いながらのことが一番好きだからね」ルーピンが頷いた。
「はもう少しわがままを言ってもバチは当たらないかな」
「よくあの子をわかってるね、リーマス。――夕方にはシリウスがきっと帰ってくる。の機嫌も直るだろうね」
ジェームズの予想通り、シリウスは夕方に帰ってきた。そのときのの笑顔は今日一番輝いていた。勢いよく抱きついたをシリウスは優しく抱き締める。クリスマスは大切な人たちと一緒に過ごすものだから。
「メリークリスマス、パパ」
「メリークリスマス、」
幸せなクリスマス、羨ましい。
<update:2006.12.17>