君の笑顔が嬉しい。もしそれが僕のおかげだったらもっともっと嬉しい。
グリフィンドールの姫君は最近、不機嫌だった。どうしようもないほど、よく泣き、よく怒り、よく落ち込んだ。
、一体どうしたんだい?」
の大好きなルーピンがに問いかけても、はぶっきらぼうに「別になんでもありません」と答えた。
「そんなふうには見えないんだけどな」
ルーピンが少し黒いオーラを出しても、はそれ以上の黒いオーラで「別になんでもありません」と笑顔で答えるだけだった。
被害がなければ、誰もの笑顔が見れなくてもなんとも思わなかった。しかし、実際のところ、の笑顔は数多くの男子生徒の癒しでもあり、半数の女子生徒の憧れでもあった。学校中がの笑顔が見れないことにより、元気をなくしていた。
「別に私が不機嫌だって、関係ないじゃん」
はぶつぶつとそう言いながら歩いていると、運悪くスネイプの耳に入ってしまったらしく、呼び止められた。
「なんですか?」はスネイプに負けず劣らず不機嫌そうな顔で言った。
「学校中に不機嫌なオーラをまき散らされても困る」
「お言葉ですが、スネイプ先生。先生の方が不機嫌なオーラをまき散らされていますが」
はにっこりと笑った。スネイプはその笑みのせいか、寒気がした。はスネイプが気をとられているうちにスタスタと廊下を歩いていった。完全にスネイプの惨敗だった。
、最近つまらないのか?」
「僕たちが学校中を湧かせるようなことをしたら笑うかい?」
フレッドとジョージがの隣に並んで話しかけた。
「さあ?」
はそっけなく答え、歩くスピードを早めた。
、ねえ待ってよ」
しかし、フレッドもジョージもより背も高く、足も長いので振りきることは出来ない。はいきなり走り出した。
!」
いきなりのことで、フレッドもジョージも追い付けずに、後ろの方で名前を呼んでいるのが聞こえた。
は人っ子一人いない廊下に出ると、慣れた足取りで、中庭に向かった。最近、中庭で遊ぶ生徒はめっきり減っていた。みんな、室内で勉強するか、ボードゲームをして遊んでいた。
が中庭には誰もいないだろうと思っていると、どこからか、笑い声がした。が笑い声のする方へ近づいて見ると、どうやら湖の近くの木の陰の辺りからだった。はゆっくりと近づいたが、足音が聞こえたのか、木の陰から話していた人たちがこっちを見た。
!待ってたよ」
の目に写ったのは、今のジェームズがもう少し小さくなってグリフィンドールの制服を着ている姿だった。
「え?」
は話についていけず、戸惑った。ふざけているならたちが悪いが、よくよく考えればジェームズがグリフィンドールの制服を着て、ホグワーツにいられるわけがない。
「ジェームズ?」が小声で聞いた。
「どうしたの?
相変わらず、ジェームズはニコニコとを見ている。
「おい、、こっちに来いよ」
木の陰からもう一つ違う声が聞こえた。なんだか聞き覚えのある声だ。
「パパ?」
「は?何かの嫌がらせか?」
シリウスが眉をひそめて木の陰から現れた。シリウスもグリフィンドールの制服を着ている。
「あ、ううん。独り言・・・・・」
はだんだんと事態が飲み込めてきた。どうやら、自分は昔の父親たちに会っているらしかった。は面倒なので自分の名前を訂正せずに、そのまま「」で通すことにした。
「大丈夫?なんだかおかしいよ」
また新たな人物が現れた。満月が近いためか、顔色が優れないルーピンだった。
「大丈夫」は相変わらずそっけなく答えた。
「おい、そろそろ笑えよ」
シリウスがため息をつきながらを見た。
「え?」
はギクリとしてシリウスを見た。少し怒ってるように見える。
「シリウス、そんな怖かったらが泣いちゃうよ」ジェームズが笑った。
「あのね、僕たち君の笑顔が見たいな」
ルーピンが柔和に微笑むと、はどこか安心させられるものがあった。
「そりゃ、君にも何か事情があるのかもしれないけど、君の笑い声が聞けないのは嬉しくない」
まるで、今のにそっくりだった。どうやら、は最近、不機嫌なようだった。シリウスとルーピンにここまで思われているが羨ましかった。
「それにね。あの、スニベリーも君のこと心配してて、最近、かかってこないんだ」
ジェームズがつまらない、とふくれた。なんとなく、今のジェームズと変わっていない気がした。
「それに、君の愛しのシリウスがこの通り不機嫌だと、学校中の女の子が沈むでしょう?」
ジェームズがクスクス笑った。半分、冗談のようだったが、半分、本当のことだろうなと予想がついた。
「でも――」
が言いかけるとシリウスがそれを手で制した。
「でもとか、だけどとか、そんなのじゃなくて、笑えよ」
言葉は冷たいが、顔が、目が、優しく笑っていた。シリウスが時々見せる、の大好きな表情だった。何故だか、つられて頬の筋肉が柔らかくなり、口元が緩んだ。そして、心の中に暖かいものが広がった。
「笑えるじゃん」シリウスが言った。
「わざわざこんなところに呼び出させるなよ」
「あのね――」
が三人に感謝の言葉を伝えようとすると、突然、強風が吹いた。は目をつぶり、とっさに手で顔を守って、顔を背けた。
「パパ?ジェームズ?リーマス?」
風が止んで、が目を開けると、目の前に三人の姿はなかった。
「パパ?」
は木の陰に隠れたのかと、木の周りをグルリと一周回ったが、三人の姿は影も形もなかった。
、やっと見つけた」
そのとき、後ろから声をかけられた。ハリーだった。
「夕食だよ。一緒に行こう」
はそのために自分を探すなんて、と呆れたが、自分を探してくれたことに感謝した。
「行く!」
は自然と笑顔になった。ハリーはが笑うとは思ってなかったのか、驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になると、大広間に向かって歩き出した。二人は並びながら歩いた。
「学生時代のパパたちがさっきいたわ」
「まさか」
の突拍子もない言葉に、ハリーが笑った。
「本当だもん」
はハリーにむくれてみせたが、前までの不機嫌そうな影は一切なかった。
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シリウスたちに笑えと言われたら、いくらだって笑える気がします。笑
<update:2006.10.14>