うさぎ
「――わたし、大きくなったらハリーのお嫁さんになる!」
そこでハリーは目を覚ました。懐かしい夢だった。きっとこう言った本人は覚えていないだろうが、ハリーは何故かよく覚えていた。満面の笑みを浮かべ、小さい手で摘んだばかりの花を握っていた。白いワンピース姿の彼女は、花嫁のようだった。
「ハリー、起きたんだったらさっさと着替えろよ。朝食に行こうぜ」
突然、ロンの声が聞こえたかと思うと、ここがホグワーツだったことを思い出した。しかし、彼の頭はまだぼんやりしている。本当に懐かしい。ハリーが感傷に浸っていると、またもやロンが割り込んできた。
「ハリー、食いっぱぐれるよ!」
あたりを見ると、寝室は自分とロンだけだった。
「今日は、ホグズミード行きだ。急げよ」
そう急かされ、ハリーはやれやれと身体を起こし、ベッドから起き上がった――。
「――痛ッたー!
ドスンと家中に響き渡るような音を立てて、ハリーは夢から目覚めた。痛さに顔をしかめながら、さっきまでのは夢だったのか、と思いながら、立ち上がった。それと同時にニヤニヤと笑った顔がドアから覗いた。
「やあ、おはよう。ハリー。一体、どんな夢を見ていたんだい?」
ジェームズが興味津々といった様子で部屋に入ってきた。その後ろから出てきたのは、同じくハリーにとっては不快になる笑みを浮かべながら来たシリウスだった。
「良いところで目覚めたって顔だな」
「シリウス、どうしてそういうことを平気で――」
呆れたハリーがそう言いかけると、シリウスが平然と言い返してきた。
「おっと。わたしは別に君が言っている意味で使ったわけじゃないさ。そういう思考にすぐ飛ぶ君こそ、どうかな?」
してやられた、とハリーが閉口すると、おはようとドアから新たな声が聞こえた。可愛らしいクスクス笑いをして、がシリウスの隣から顔をひょいと覗かせた。
「すごい音がしたから起きちゃった。今度はもう少し、びっくりしない程度に起こしてね、ハリー」
はそれだけ言うと顔を引っ込めて、部屋を出て行った。軽快な足音が遠ざかっていく。
「ところで、ハリー。今更だけど、怪我はないね?」
ジェームズがの後ろ姿をチラッと見ながら問いかけた。ハリーは頷くと、着替えるから、と言って部屋から二人を追い出した。あの寝起きの悪いまでをも覚醒させたとなると、ベッドからの墜落音は家中に響き渡ったに違いない。ハリーは当分このことでシリウスとジェームズにからかわれると思うと、無意識にため息が出た。
着替えて厨房に下りていくと、案の定、ルーピンが笑いをこらえながらハリーに挨拶した。
「別に堪えなくていいよ、先生」
ハリーがふてくされてそういうと、ルーピンはごめんを繰り返しながら、容赦なく笑った。
「でも、どんな夢見てたの?」
ルーピンの隣でトーストを食べていたが顔を上げてハリーを見た。ふとハリーは夢の中の幼い彼女を思い出して、思わず顔を逸らした。
「おや、繋がりってことかな」ジェームズが楽しそうに言った。
「顔が赤いよ、我が息子よ」
そのとき、リリーが台所から助け舟を出した。
「ジェームズ。ハリーをからかうのもいい加減にしなさい。大体、ハリーがベッドから落ちるなんて、貴方に似たからじゃないの?」
「リリー!まるで、僕がベッドから落ちる癖があるように聞こえるんだけど!」
ジェームズはおどけてそう答えた。
「あら、そう聞こえるなら、まだ貴方の耳は正常に働いているわね」
シリウスとルーピンがニヤリと笑った。リリーはそんな様子を素知らぬ顔でハリーの分のトーストを運んできた。
「で、どんな夢だったの?」
が気になるようで、しつこくそう聞いた。今度は顔を背けなくても答えられると、ハリーが口を開こうとしたが、先にをたしなめていた。
。しつこく聞くんじゃありません」
「残念」
ペロッと舌を見せ、は再びトーストを食べ始めた。
、食べたら出かけるぞ」
いち早く食べ終わったシリウスが、食器を台所に運ぶとに声をかけた。
「パパとデート?」
がちょっと不満そうな声を上げた。
「もれなくうるさいアホとかがついてくるぞ」
シリウスがハリーの隣で食べているジェームズに向かって顎をしゃくると、の顔がちょっと嬉しそうになった。
「ダメよ、。ジェームズに強請っても今日は何も買ってもらえないんだから」
すべてお見通しとでも言う様に、リリーが先回りした。に甘いジェームズが、に好きなものを与えすぎて、最近、リリーとが怒っているのをハリーは知っていた。
「なんで」
が不服そうな顔でリリーを見た。
「リーマスがジェームズを止めてくれる約束なのよ」
だから複数形か、とハリーは納得した。ルーピンならジェームズの衝動買いを止められるだろう。それに、ルーピンを無条件に好きななら、たとえ、好きなものを買ってくれなくとも、ご機嫌は保つはずだ。案の定、が嬉しそうな顔をしてルーピンを見上げた。
「一緒に来てくれるの?」
「うん、今日はね」
ルーピンが優しい笑顔をに向けると、は残りのトーストを急いで食べて皿を片付けた。
「急いで準備してくる!」
そういい残し、は階段を駆け上がって行った。
「準備って、なんだ?」
シリウスが不思議そうにに問いかけた。
「オシャレ、じゃないかしら?」
クスッと笑うと、はシリウスに言った。
「あの子、リーマスのことが本当に好きみたいだから」
「妬けるねえ、色男」
ジェームズが笑いながらルーピンを見た。
「君ほどじゃないよ、ジェームズ」
照れる様子もなく、ルーピンはそう言い返すとシリウスを見た。
「大丈夫だよ、シリウス。の好きって、まだ恋愛対象じゃないから」
のオシャレに衝撃を受けてフリーズしてしまったシリウスを見て、ルーピンがクスクスと笑った。
「んなこと知ってる!」
シリウスがふてくされた様子でそう返事した。
「むしろ、大穴としてハリーを観察しておくべきだね」
ジェームズが口を挟んだ。すると、シリウスの目がハリーに向いた。
「僕、別に・・・・・」
シリウスの視線に耐え切れなくなって、ハリーがもぞもぞと動いた。
「シリウス、やめてよ。が本気で恋をするのはきっとまだ先よ。ハリーを睨むのはやめなさい」
がため息まじりで、シリウスをたしなめた。そんなシリウスを見ながら、彼の肩を持つようにジェームズが言った。
「でも、僕もをハリーに渡したくないなあ」
「あのね――」
が呆れたようにジェームズに言い返そうとすると、の彼女を呼ぶ声がそれをさえぎった。
「なに?」
白いワンピースを着て厨房に現れたの方を見て、が聞いた。
「髪結んで」
ワンピースとおそろいの白いリボンを手に、に甘えた。
「はいはい」
もそんなが可愛いのか、微笑みながら彼女の髪を梳きながら二つに分けて、器用に結んだ。
「出来たわよ」
が満足そうにを見た。すると、シリウスが考え深げに口を開いた。
「ラビットみたいだな」
「それ、褒めてるように聞こえないわよ。シリウス」
リリーが冷静に突っ込むと、ルーピンが取り直すように言った。
「可愛いよ、
ニコッという効果音が聞こえてきそうなほどの笑顔で可愛いと言われ、はそれだけで満足したようだった。
「さあ、なら出かけようか」
の準備が出来たようなので、ジェームズが立ち上がった。それに合わせ、シリウス、ルーピンも立ち上がり、ルーピンはの手を握って、彼女に微笑んでみせた。
、いってきますって」
ルーピンがそう促すと、は本当に嬉しそうに笑いながら、いってきますとハリーたちに言ってルーピンの後に続いた。
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んー、お題って難しい・・・・・
<update:2008.12.28>