「あっつい!」
シリウスが首元を緩めながら、そう叫んだ。傍らではジェームズも手で自分の顔を扇いでいる。
「アイス食べたいね」
はルーピンを見上げた。ルーピンは暑がる二人を尻目に、に柔らかく微笑んでみせた。
「わたしはチョコレートが食べたいな」
「リーマスはいつでもチョコレートじゃない」はクスクスと笑った。
「何か、楽しいことないかな」
が窓の外を見上げてそう呟くと、ジェームズがポンッと手を叩き、何かを思い付いたようだ。
「ハイド・アンド・シークしよう!」
「却下」
ジェームズの言葉にシリウスが直ぐさま反対した。わざわざ自ら暑くなるなんて、彼にとっては馬鹿げているのだろう。
「楽しそうだけど?」ルーピンがにっこり笑った。
「なんでわざわざ――」
「我らの姫がお望みだ」
シリウスをさえぎってジェームズが言った。その表情には有無を言わせぬものがあった――どうやら、ジェームズはが望むからではなく、自分が楽しそうだからやりたいというだけのようだ。
「良いじゃないか、シリウス。楽しそうだよ」
ルーピンがシリウスを励ますように、彼の肩をポンッと叩いた。
「・・・・・ったく」シリウスもやっと諦めたのか、頭を掻きながら立ち上がった。
「やるならさっさとやろうぜ」
「そうこなくっちゃね、流石、僕の片割れ」ジェームズが楽しそうにそう言うと、ルールを説明し始めた。
「鬼は目をつぶって百秒数えた後、捜し始めること。隠れる方はブラック家の敷地内から出ないこと。一番初めに見つかった人が次の鬼だ」
は元気よく返事した。
「それじゃあ鬼を決めよう――」
「――九十九、百!」
はすでに誰もいなくなった玄関ホールを見渡した。運悪く、じゃんけんに負けたのはだった。この広い家の中、ホグワーツの悪戯仕掛け人を探すのは一筋縄でいくはずがない。は運の悪い自分を恨んだ。
「パパー、ジェームズ、リーマス、どこー?」
はまず上の階から探すことにした。彼らのそれぞれの寝室を覗いたが、案の定いなかった。やはり、そんな簡単なところにいるはずがない。
まさか、と思い、今度はハリーの寝室を覗いた。
「クリーチャー!」
はびっくりして大声をあげた。
「クリーチャーめは、部屋を掃除しております」
クリーチャーはに頭を下げると部屋を出て行こうとしたが、誰かに行く手を塞がれた――シリウスだ。
「嘘をつくな。またお前は何かを盗もうとしたんだな?」
「パパ、見っけ!」
は内心、ラッキーと思いながらそう言った。しかし、シリウスはそんなことよりクリーチャーを叱るので頭がいっぱいらしかった。かくれんぼをしていたことを思い出したのは、クリーチャーが自分のいるべき寝室に戻ってからだった。
「パパが一番見つからないと思ってたのに、こんな簡単に見つかっちゃうなんて」
はシリウスと並んで歩きながら、彼を見上げた。残りはジェームズとリーマスだ。
「わたしより、きっとジェームズの方が見つからない。あいつは学生時代、いつも悪戯の計画者だった――実行犯はわたしだったが」シリウスは懐かしむように目を細めた。
「リーマスは簡単に見つかる?」
「多分な」シリウスがクスクスと笑った。
はシリウスにいくらか手伝ってもらいながら、部屋のカーテンの裏側でリーマスを見つけた。
「リーマス、見っけ!」
が楽しそうにそう言うと、リーマスも「残念」と楽しそうに、ちょっと悔しそうに言った。
「後はジェームズだけだね」が嬉しそうに言った。
「、簡単に見つかる良い方法があるんだけど、試してみるかい?」
リーマスは少し声を潜めると、に耳打ちした。もちろん、だってジェームズを早く見つけたい。の返事を聞いたリーマスはにっこり笑うとをギュッと抱きしめた。
「ちょっ、リーマス!」
が真っ赤になってそう叫ぶと、どこからともなくジェームズが現れて、リーマスとを引き離した。
「リーマス、に手を出して良いのは僕だけだよ――」
「バカ」シリウスがボソッと呟くと、がクスクスと笑って「ジェームズ、見っけ!」と言った。傍らで、リーマスも微笑んでいる。
「ジェームズ、君も学習しないね。今、かくれんぼ中なんだよ?」
リーマスがそう言うと、ジェームズは今更ながら気付いたようで、ハメられたことに対してひねくれてしまった。
「ジェームズ、ごめんね?」
しかし、はジェームズのご機嫌を治す方法をしっていた。ジェームズの顔を覗きこんで、ちょっとすまなそうに微笑めば、彼などイチコロだった。
「の所為じゃないよ」ジェームズはコロリと機嫌を変え、第二回戦の開催を宣言した。
「じゃあ、今度はシリウスが鬼だね」リーマスが朗らかにそう言った。
「ちゃんと百まで数えてね」はクスクスと笑った。
「わかってるって。お前もさっさと隠れろ――一、二、三・・・・・」
シリウスがいきなり数を数え始めたのでは慌ててその場を離れた。しかし、どこに隠れるか、まったく良い案は浮かばない。
「ジェームズも、リーマスも隠れるの早いよ」
廊下を早足で歩きながらはそう呟いた。そのとき、ふと窓の外を見ると、青葉が目に入った。
「そっか、家の敷地の外に出なきゃいいんだもんね」
は内心、細く微笑むと急いで外に出た。
「うん、この木なら――」は太い枝に足を掛け、ゆっくりと上り始めた。木の上はとても眺めが良いし、日陰は涼しく、太陽の光が当たって透ける葉は、なんだか神秘的だった。多分、ここなら見つからない。まさかシリウスもが木の上に隠れるとは思わないだろう。
「!」
「もう出ておいで!」
二十分ほどした後、シリウスはジェームズとリーマスを引き連れて家の中を歩き回っていた。だけが見つからず、ついには諦めたのだ。しかし、肝心のは一向に出てくる様子がない。
「どこに隠れたんだろう?」
少し不安になったリーマスがそう言った。
「この家の敷地内にはいるはずだ。最初にそう言ったんだから」ジェームズもどこか焦りを感じさせている。
「ちょっと待てよ・・・・・?」シリウスがふと窓の外を見て、考え込んだ。そして急いで外に出た。後ろから当惑ぎみのジェームズとリーマスが追い掛ける。
「いたよ、あいつ」シリウスが一本の木の下で、苦笑しながら立ち止まった。
「やれやれ、こっちの気も知らずに・・・・・」ジェームズが苦笑して、杖を取り出しに向けた。は淡い黄色の光に包まれながら木の上からゆっくりと落ちてきた。
「木の陰は涼しいから、きっと寝ちゃったんだね」
リーマスは柔らかく微笑み、の寝顔を覗き込んだ。
「でも、よくわかったね、シリウス」ジェームズはを抱き上げながら、屋敷の中に入った。
「なんとなくだ」シリウスはいつになく、ちょっとだけ謙遜してみせた。
「それにしても」リーマスがの頬を優しく撫でた。
「幸せそうだね」
「こっちの気も知らずにな」
シリウスが軽くの鼻を摘んだが、はちょっと顔をしかめただけで、眠りから覚めることはなかった。
かくれんぼも好きですが、鬼ごっこも良いですよね。
<update:2007.05.06>