ホグワーツに入学してまだ一ヶ月と半月。私は図書館で変身術の課題を書くために歩いていた。すると、目の前の曲がり角から爆発音がして、煙と共に黒髪の女の人が走ってきた。
「あなた、そこにいると巻き添えになるわ!こっちにいらっしゃい!」
その女の人は私の顔をみるなり、いきなりそう言うと私の手を引っ張り、近くの女子トイレへ連れ込んだ。
「ごめんなさい、いきなりでびっくりさせちゃったよね?」
そういってニコッと私に笑いかける顔には見覚えがあった。確か、四年生の・ブラックだ。間近で見ると、噂通り綺麗な顔をしている。おまけに成績もそれなりで、男子からの人気も高かったはずだ。同級生のウィルがそう言っていた気がする。
「いえ、大丈夫です」
私は緊張してそれしか言えなかった。
「あなた、グリフィンドールの一年生?」
向こうから話を広げてくれるとは思わなかったので、私は驚いて声が裏返った。
「は、はい!」
「そんなに緊張しなくて大丈夫よ」
が笑った。そのとき、女子トイレの外から男の人の声が聞こえた。
「、出てこいよ。もう大丈夫だぜ」
「今行く!」
がドアに向かってそう言うと、彼女は私を見て手招きした。
「いらっしゃい。もう安全みたい。巻き込んじゃってごめんなさいね」
いえ、と私は言うと、彼女のあとに続いてトイレを出た。
女子トイレの外で待っていたのは、悪戯好きで有名なウィーズリーの双子だった。
「、悪いな」
私から見たら双子は同じ顔に見えて、どっちがどっちだかわからないが、にはわかるようで、少し怒ったように彼に言った。
「そうね、フレッド。とっても大変だったんだから。スネイプの研究材料になりかねないわ」
どうやらウィーズリーの悪戯には巻き込まれたようだと、私は理解した。
そのとき、の影にいた私にウィーズリーが気づいたらしく、声をかけた。
「お。グリフィンドールの新入生?」
「はい」
上級生に囲まれ、ちょっと緊張しながら答えた。
「この子まで巻き込んじゃったんだからね、ジョージ」
「ごめんな。でも、が助けてやったんだから全てよしだ!」
ジョージと呼ばれた方がゲラゲラと笑うと、も仕方ないとばかりに苦笑し、そして私を見た。
「あなた、そういえば名前は?」
「ミシェルです。ミシェル・ウィルソン」
「ミシェルね。いい名前ね」が言った。
「どっかに行く途中だったのか?」
ウィーズリーにそう聞かれ、私は図書館に行く途中だったことを思い出した。すっかり忘れていた。
「図書館に行く途中でした。変身術の課題をやらなきゃ」
それを聞き、よし、とウィーズリーが手を叩いた。
「俺たちも一緒に行ってあげようではないか、兄弟」
「それは名案だ、兄弟」
ウィーズリーが互いに頷いているのを横目で、が言った。
「二人が一緒に行ったら、ミシェルが勉強できないと思うけど?」
失礼だな、とウィーズリーがに拗ねてみせた。
「ほんとのことでしょ。私がミシェルと図書館まで一緒に行くわ。二人は先に談話室に戻っててよ」
は二人を見てそう言った。
「ハリーがの帰りを首を長くして待ってるのに、君は呑気に図書館に行くのか!」
ウィーズリーの片割れは、にビシッとそう指摘した。
「誰のせいよ」が笑った。
「ハリーには私が図書館にいるって伝えて」
行きましょ、とに促され、私はと歩き始めた。
「学校には慣れた?」
「大分慣れました」
は私にいろいろ質問をしてくれるので、気まずい空気にもならず、あっという間に図書館についた。
「さんは――」
「でいいよ。丁寧に言わなくて大丈夫だし!」
がそう言ってくれるので、私はと呼ぶことにした。
「は図書館で何するの?」
「私?」
は何も考えていなかったようでしばらく悩むと、やっと思い付いたようでポンと手を叩いた。
「うるさいやつを黙らせる呪いでも探そうかしら」
私があまりにもギョッとした顔をしていたためか、は笑って冗談だと言った。
「でも、ハリーさんが待ってるんじゃないの?」
私はさっきウィーズリーの双子が言っていた言葉を思いだし、そう言った。
「ああ、あれ?大丈夫よ。別にハリーと何か約束してた訳じゃないから。何か用があれば向こうから来るわよ」
私はよくわからなくて首をかしげた。
「フレッドもジョージも私とハリーがいつも一緒にいるからそうやってからかうだけよ」が言った。
「そうなの?でも、とハリーさんは付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってるよ」
がちょっと照れながら言った。
「でも、別にいつも一緒にいなくても良いじゃない?」
私はやはりよくわからなくて、また首をかしげた。
「一緒にいなくても平気なの?」
「そりゃ、まったく一緒にいなかったら寂しいけど――ほら、とりあえず、課題をやらなきゃ!」
私はにうまく話をそらされたと思う。図書館では静かにしなければならないし、は何やら怪しげな本を読んでるし、私は仕方なく課題を始めた。
しばらくして、図書館にいる人も少なくなり、夕食の時間が近づいてきた。課題も一段落したし、あとはグリフィンドール塔でもできると思い、私は片付け始めた。それに気づいたが私を見て口パクで帰るか、と聞いてきた。私は頷くと、と一緒に図書館を出た。
「さあ、夕食ね!お腹減っちゃった」
が腕を伸ばして体をほぐしていると、向こうから、同じグリフィンドールのネクタイを締めた女の子達が歩いてきた。
「ミシェル!行こ、夕食だよ!」
私は同じ一年生だとわかると、大きく手をふった。
「今行く!も一緒に――」
を振り向きながらそう言いかけ、私は何だかちょっと羨ましく、癒されながら仲間の元に向かった。
「、顔がすっごく幸せそうだよ」
はミシェルが友達に迎えに来てもらったのを見て、そっとその場を去ろうとしたが、後ろから聞きなれた声がして、ポンと肩を叩かれた。
「、僕らも夕食に行こう」
「ハリー」
はにっこり笑うと、一歩、彼と距離を縮めた。
「いつからいたの?」
「途中から」ハリーが言った。
「何か用事でもあったの?」
「フレッドにが一年生と浮気してるって言われたから様子見にきただけさ」
ちょっといたずらっぽく笑うと、ハリーは冗談だと言った。
「浮気するほど男の子が言い寄ってくれるといいんだけどね」
がそう返すとハリーが楽しそうに言い返した。
「両手でさえ、数えきれないほどいるじゃないか。さあ、僕らも夕食に行こう」
ハリーが手を差し出すので、はその手を取り、大広間に向かった。
「何を彼女と話してたの?」
ハリーが少し前を友人たちと歩くミシェルを指差しながら聞いた。
「特に何も?学校はどうかとか、他愛ない話よ」
「一年生だろ?若いよね」
ハリーがそう言うので、はクスッと笑った。
「ハリー、おじさんみたいな発言ね」
「みたいにガキじゃないからさ」
ハリーはムッとしたようで言い返した。
「失礼ね!」
そう言って二人は笑った。
前を歩くミシェルは微かに聞こえるその声を聞きながら、ニコッと誰にもわからないようにこっそり笑った。なんだか久しぶりに心が温かくなった。今日は夕食をたくさん食べよう。そう決めて、ミシェルは友人たちと共に大広間の扉をくぐった。
第三者からみた彼らの関係。
<update:2012.11.15>