ジェームズは本日、何度目になるかわからないくらいのため息を再びついた。
「ため息つくなよ、こっちまで気分が落ち込むだろ」
傍らで本を読んでいたシリウスはそう言いながらジェームズをチラリと見た。ジェームズは捨て犬のような惨めな目をシリウスに向けている。
「んだよ」
シリウスは本をバタンと閉じた。きっとこのあと、ジェームズから散々ため息の理由を聞かされるのだろう。
「シリウス、僕は気付いたんだよ」
ジェームズがため息まじりに言った。
「何にだよ」シリウスが問い掛けた。
「僕は依存性なんだ!」
シリウスはジェームズの言葉に呆れてものが言えなかった。
「いまさらのことじゃないだろ」
やっと我に返り、シリウスはジェームズをやれやれと見た。
「君にもハリー依存性があるのは気付いているのかな?」
すると、ジェームズは仕返しのようにシリウスにそう言って黙らせた。
「とにかく、僕は今、欲求不満なんだ!」
シリウスはジェームズの頭がとうとうイカれたのかと、まじまじとジェームズを上から下まで見た。
「それをリリーに言ったら殺されるな」
「僕はリリーにも依存してるよ」ジェームズがにこやかに言った。
「阿保くさ」
シリウスはまた本を開くと、ジェームズから目を移した。
「シリウス、君は友人が悩んでいるというのに、無視するのかい?」
ジェームズがシリウスから本を取り上げて、自分に注目させた。
「話なら十分聞いただろ」シリウスは読書の邪魔をされて不機嫌になった。
「たかだかあと数時間か数分で、もハリーもホグワーツから帰ってくんだろうが」
シリウスはジェームズの依存性に深くため息をついた。今、リリーとが二人の出迎えに行っているというのに。
「僕はいますぐに――」
「だだいま」
ジェームズの言葉をさえぎるように、玄関からとハリーの声が聞こえた。
「!」
「ハリー!」
ジェームズとシリウスは駆け足で玄関ホールに向かうと、それぞれとハリーを抱きしめた。なんだかんだ言ってシリウスだってハリーやがいないと淋しいのだ。
「やだ、パパたち一体どうしたの?」
はシリウスたちの驚くような出迎えに、目を丸くした。
「に会いたかったんだ!」ジェームズはギュッとそのままを抱きしめていたかったが、リリーの視線が痛かったので、渋々から手を引いた。
「変なジェームズ」
はクスクスと笑って、ハリーと連れ立って自室に向かった。
「フラれたな」
シリウスが面白おかしそうにジェームズに言った。
「ハリーもも疲れてるんだから、あの子たちにちょっかい出さないでくれる?」リリーがシリウスとジェームズをにらみつけた。
「すみません・・・・・」
母親には頭が上がらないシリウスとジェームズだった。
「ねぇ、ジェームズ」
夕食後、は、シリウスの隣に腰掛けてシリウスとハリーのチェスを眺めているジェームズに声をかけた。
「どうしたんだい?」
ジェームズは腕を広げてを抱きしめようとしたが、サラリとにかわされてしまった。
「ジェームズは学生のとき、首席だったのよね?」
はジェームズに襲われないように、とハリーの隣に座った。
「あ、あぁ」
ジェームズはがそんなことを聞くとは思っていなかったようで、呆気にとられた顔で答えた。
「じゃあモテモテだった?」
の質問に、シリウスが吹き出した。あまりにもが真面目な顔で聞いたからだろう。
「なんで笑うのよ!」がすぐさまシリウスに言った。
「さあな」
しかし、シリウスはさらさら相手にすく気がなくて、再びチェスの試合に戻った。
「うーん、、その質問に何て答えたらいいのか、わからないよ」ジェームズが悩ましく答えた。
「そのままその通りって答えればいいだろ」シリウスが口を挟んだ。
「え?父さん、本当にモテてたの?」
ハリーが素っ頓狂な声を上げて、まじまじとジェームズを見た。
「ハリー、それはいくらか失礼だろう?」ジェームズが苦笑した。
「それにハリー、よそ見してるとパパに負けるよ」
しかし、の忠告は既に遅く、シリウスはチェックメイトと、駒を進めた。ハリーのキングは負けました、と王冠を脱いだ。
「あーあ、また負けちゃった」ハリーがため息をついた。
「それで、僕のはどうしていきなりそんなことを聞いたのかな?」
ジェームズが話を元に戻すとまた茶化したような雰囲気が辺りに広がった。
「ジェームズがカンペキだからかな」はクスクスと笑った。
「、真面目に答えないと――」
「何をするの?」
がにっこり笑った。この家である意味最強なのはだった。
「やれやれ。一体、誰からそんな微笑みを覚えたのかな?」
「ジェームズとリーマスからよ」
ジェームズの問いにはサラリと答えた。
「そんなことを学ばせるなよ」シリウスがジェームズをにらんだが、ジェームズは素知らぬ顔だ。
「ムーニーも共犯さ」
「父さんと一緒なんて、ルーピン先生、可哀相だよ」ハリーが言い返した。
「まったく、酷いなあ。リーマスはああ見えて、結構怖いんだぞ」ジェームズが言った。
「でもリーマスはとっても良い人よ。ね?」
はシリウスに同意を求めたが、シリウスは頷かなかった。
「もう!いいわ、今度リーマスが来たときに、パパとジェームズがそう言ってたって言っちゃうから」
はぷいとそっぽを向いて、怒ったようにそう言ったが、あまり効果はなかった。
「うーん、が怒っても、ね」
ジェームズはそう言いながらゆっくり立ち上がった。
「可愛いだけだよ!」
まさしく猛獣が獲物に襲い掛かるように――といったら大袈裟だが――ジェームズはに抱き着いた。
「もう、ジェームズってば!」
はジェームズの腕の中で楽しそうに笑った。なんだかんだ言っても、だってジェームズと戯れるのは好きなのだ。
「――さっき、なんであんなこと聞いたのか教えてあげる」
「なんだい?」
ジェームズは腕の力をゆるめ、と視線の高さを合わせた。
「素敵なジェームズを独り占めできて、モテモテなジェームズに愛されて幸せだな、って思ったの」
のちょっと悪戯っぽい笑みに、ジェームズはドキッとした。にとって、いつもからかうジェームズをドキッっとさせることは、ささやかな復讐だったのかもしれない。
娘の逆襲。
<update:2007.06.06>