男は皆、オオカミなんだ
「今日は絶対ダメなの!」
グリモールド・プレイス12番地、つまりブラック家は今日も朝から賑やかだった。
「ダメったらダメ!
「えー。、僕も行きたいな」
ジェームズが少しばかりの上目遣いで、ソファーからを見た。
「君がそんな格好でねだっても、可愛くないと思うよ」
の背後から笑顔のルーピンが現れた。そんなルーピンに不服そうにジェームズが返した。
「リーマスはと一緒に出かけたくないのか?」
「もちろん、行きたいよ。私はいいよね?」
ニコッと効果音付きの笑顔で、ルーピンはを見つめた。一瞬、その笑顔に引き込まれて、は頷きそうになったが、寸でのところで堪えた。
「残念ながら、今回ばかりは君の笑みも通用しないらしいね」
ジェームズがさもおかしそうに笑った。
「それは心外だね。だって、危うく頷きそうだったよ」
ね?と迫まれて、は首を縦に振った。
「リーマス、君、を笑顔で脅しているようにしか見えないよ」
「随分と失礼だね、ジェームズ」
ルーピンが笑顔でジェームズを見下ろした。
「わたしは、まだだけは脅したことはないよ」
あまり自慢にならないが、とは心の中で思った。口に出す勇気はない。
「とにかく、ジェームズもリーマスも今日は着いてきちゃダメ」
はそう言い残して、クルッと背を向け、足を一歩前に出したが体は前に進まない。お腹回りに腕が絡み付いていた。
「ジェームズ!」
がびっくりして大きな声を出すと、ドタドタと足音がして、シリウスが現れた。まずいと思ったのも束の間で、ジェームズはすでに頭を押さえていた。
「お前は人の娘になにやってんだ!」
シリウスがジェームズに言った。
「ほんとに君って冗談が通じないんだから」
に拒否され続けた為か、ジェームズは幾らか不機嫌そうだった。
「少しくらいいいだろ。どうせもうすぐ僕の娘になるんだから」
「どさくさに紛れて何言ってんだ!まだ俺の娘だ!」
シリウスは再びジェームズの頭を叩いた。
「ジェームズも懲りないね。嫁入り前の娘の父親は怖いんだよ」
ルーピンはシリウスとジェームズの様子を見ながら苦笑すると、そう呟いた。
「リーマス、嫁入り前って・・・・・私、まだ結婚する予定ないわよ」
が律義にルーピンの言葉に反応した。
「それで良いんだよ、。君はまだ結婚なんてしなくて」
ルーピンが優しく言い聞かせた。
「でもいつまでも結婚先伸ばしにしてたら婚期逃しちゃうわ」
はルーピンの言葉に苦笑いして言った。
「それなら、僕が貰うよ!」
突然横からジェームズが割り込んできた。ジェームズの目は少し本気だった。
「お前はリリーがいるだろうが!」
シリウスが言い返すと、ジェームズがニヤリと笑って答えた。
「一夫多妻ってやつさ」
「――聞き捨てならないわね、ジェームズ」
いつの間にかジェームズの後ろにはリリーが立っていた。
「もちろん冗談だよ、リリー」
ジェームズはリリーの方を振り返って笑ってみせた。
「あなたの場合、冗談に聞こえないのよね」
「妬いてくれてるのかい、リリー」
ジェームズが嬉しそうにそう言って、リリーを抱き締めようとすると、リリーはサッとそれを避けた。
「まさか」
スパッと切り捨てたリリーに、ジェームズは落ち込んでみせたものの、目は笑っていた。
「そんなことより、。あなたまだ出掛けないの?」
「やだ!ジェームズたちの所為よ」
は時計にチラッと目をやると急いで支度にかかった。
「リーマスまで、の邪魔するなよな」
シリウスが慌てて出かける準備をしているを横目に、そう言った。
「いいじゃない。ハリーだけに独り占めさせたくはないだろう?こんな可愛らしい子を、さ」
ニコッと笑って、ルーピンはシリウスを見た。
「だからってな・・・・・」
呆れた顔をして、シリウスはルーピンを見返した。
「どうせ君だって本心は一緒だろう?」
ルーピンはそう言ってジェームズの方に顔を向けた。
「それで、ハリーの方は準備できているのかい?」
「さあ?出来てるんじゃないのか」
ジェームズがドアの方に顎をしゃくり、もつられてそちらを見ると、仏頂面のハリーが壁に寄りかかりながらこちらを見ていた。
「ハリー!」
は慌てて彼に駆け寄った。
「残念」
ジェームズの笑いが混じった呟きに、はすでに答える気はなく、むしろハリーの機嫌をどうやって直すか考えていた。
「ごめんなさい。行きましょ」
しかしハリーの方はその場から動かず、ジェームズを見据え、そして何かを含んだように笑うと言った。
「本当に残念だね、父さん」
「その発言は宣戦布告として受け取っていいのかな?」
ニコッと笑顔になって、ジェームズが問いかけた。
「父さんの自由で――、行こうか」
三人の父親もどき―― 一部、本物だが――に見せ付けるようにハリーはの手を握ると、彼女を部屋から連れ出した。背中に注がれる視線を感じながら、ジェームズがシリウスに愚痴っているのが聞こえた――僕のが!
「チョコレート」
「え?」
ハリーの突然の言葉に、は驚いて聞き返した。
「だから、チョコレート。もうすぐバレンタインだからね」
玄関ホールを抜け、ハリーは「姿くらまし」の準備をしながら言った。
「もちろん、今日のお詫びだからそれなりに心がこもってないと受け取れないな」
反論する間も与えず、ハリーはを引き寄せ、「姿くらまし」した。ついた先はダイアゴン横丁だった。
「バレンタイン一色って感じね」
ついさっきの話も忘れ、は目の前に広がるピンクの町並みに圧倒された。
「カップルばっかりだ」
ちらほらと一目も憚らず、抱き合ったり、キスしたりする恋人たちが見受けられ、ハリーはちょっと顔をしかめた。
「バレンタインだし、仕方ないわ」
額の皺を伸ばすように人差し指で撫でるとハリーがその手を掴んで引き寄せた。
「僕たちもする?」
はクスッと笑ってハリーと目線を合わせるように背伸びした。もう、ハリーのそんな発言で恥ずかしがったりするような初な時期は通り過ぎている。ちょっと余裕じみた表情で言った。
「じゃあ、チョコレートはナシね?」
「仕方ない」
はハリーの残念そうな声を聞きながら目を閉じた。ハリーの吐息を近くで感じながら、与えられる優しく心地よいものに身をゆだねた。
数秒後、二人は何事もなかったかのようにピンク一色の街路を多くの恋人たちと同じように歩いていた。
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バレンタイン風味で。
<update:2009.02.11>