「なんなのよ、もう!」
はズンズンと廊下を大股で歩いていた。のその様子に、廊下にいる生徒たちはのために道を空けた。
そしてはお目当ての部屋の前までいくと、力強くノックし、返事を待たずに中へ入った。
「リーマス!」
が大きめの声で彼を呼ぶと、奥の事務所からリーマスが顔をひょっこり覗かせた。
「どうしたんだい?。そんなに髪を振り乱して」
リーマスは、おいでとを手招きした。そして事務所に入れてやると、椅子に勧めた。
「だって――」
そうが言うのをさえぎり、教室の外でバタバタとした足音が聞こえ、何かを大声で話しているのが聞こえた。
「で?」
足音が教室の前から消え去ると、リーマスはにお茶を勧めた。
「酷いのよ!」
リーマスは少しをなだめると、順序だてて説明するように促した。
「どっからか知らないけど、私が、今日初めてバレンタインカードを受け取った相手と、一日デートしなきゃいけないっていう噂が流れてるの!」
リーマスは眉をひそめ、本当かい、と確かめた。
「本当よ!さっきハーマイオニーが警告してくれたの。それで逃げなさいって言われたから逃げてきた」
そしたらさ、とリーマスが不思議そうな顔をして言った。
「さっさとハリーからバレンタインカードを受け取ったらいいんじゃ――」
「それが出来たら学校中を全力疾走なんてしないわ!」
がふてくされた。
「今朝からどこにもいないのよ」
「今朝って朝食にもかい?」
そうよ、とは頷いた。
「ロンが言うには朝早く、出掛けてくるって言ってどっかに行ったみたい」
「それは大変だね・・・・・」
リーマスはそう言いながら笑っていた。
「もう!ホント、大変なんだから。でね、私考えたんだけど」
なんだい、とリーマスがを見た。
「この際、義娘という名目でさ、カードちょうだい?」
はね、とちょっと上目遣いでリーマスに可愛くおねだりというものをしてみた。
「ダメだよ、」
リーマスがやれやれとため息をついた。
「そんなことだろうと思ったよ――でも、わたしもまだシリウスに呪われたくはないからね」
「私が変な輩と一日デートしちゃうかもしれないんだよ!心配じゃないの?」
がむすっとしてそう言った。
「そりゃとっても心配だよ、。君が大切だしね」
にっこりと笑顔を浮かべてリーマスが答えた。
「でもシリウスの呪いは強力だから。わたしも仕事が出来なくなったら困るよ」
「――じゃあさ、パパには私が説明するから」
がぐずると、リーマスがのおでこをピンッと指で弾いた。
「第一、としてもハリーからもらったカードが一番嬉しいだろう?」
そうなんだけど、とはおでこを撫でながら続けた。
「だって本人不在でどうやってカードをもらうの?」
がそうごねるとリーマスが訳ありげに大丈夫だから、と諭すように言った。
「ハリーだってバレンタインの日に、彼女にカードを渡さないほど薄情な男じゃないだろう?それにあのジェームズの息子だよ、」
だから何、とがリーマスを見た。
「バレンタインにはサプライズが必要だろう?」
「そんなサプライズ、別にいらない」
不機嫌そうな顔のの頭を優しく撫でると、リーマスは椅子から立ち上がりもう行きなさい、と言った。
「えー!私、もう逃げ回るの疲れたんだけど!」
、とリーマスがたしなめるように見た。
「君は魔女だろう?それに成績優秀の。そこらへんの魔法使いたちから逃げるのなんてお手の物だろう?――シリウスやジェームズたちから逃げているわけではないんだから」
「だって」
はすがり付くようにリーマスを見たが、リーマスは首を振るだけだった。
「頭を使って逃げるのも良い運動になるよ」
「だから頭を使ってここに逃げてきたのに」
がリーマスをにらんだが、リーマスは素知らぬ顔だ。
「もっと頭を使いなさい、。それにハリーももうすぐ帰ってくるんじゃないかい?夕食の時間だしね」
そんな、と不満タラタラなをリーマスは事務所から追い出した。仕方がないので、はそっと教室のドアを開き、慎重に廊下を進んだ。
「見つけたらただじゃおかないんだから、ハリーめ」
「そんなこと言って良いの?」
聞こえるはずのない声が聞こえ、は恐る恐る後ろを振り向いた。
「やあ」
げ、との顔がひきつった。
「僕の耳に入ってきた言葉が本当なら、別にもうこれは要らないかな?」
ハリーは手に持っていた封筒をひらひらと見せびらかした。
「いるいる!」
はハリーの手の中の封筒を取ろうと飛び付こうとした。しかし流石シーカーをやっているだけのことはある。ハリーはひらりとを交わし、体勢を整えた。
「残念だね、」
「何がよ」
は不機嫌そうな声を隠す様子もなく、ハリーに食ってかかった。
「わかってんの?私、今日、大変な目に合ってんだから!」
知ってるよ、とハリーはに手を差し出した。
「その噂はバレンタイン前から男子生徒の間で流れてたからね」
「それ本当?」
はハリーの手を取り、どこに向かうのか知らないが、一緒に歩き出した。
「じゃあなんでさっさと私にカードくれなかったの?私、一日中逃げ回ったんだよ!」
するとハリーが不思議そうな顔をしてを見た。
「僕はてっきり君のことだからカードを受け取っても、一日デートの話はただの噂だと相手にしないと思ったんだけど」
だって、とは少し赤くなり、うつ向いた。
「だって、もしハリーのカードを一番初めに受け取ったら、ハリーと一日デートできるじゃん」
ハリーは思わず足を止めて、を驚いた顔で見下ろした。も足を止めたハリーを不審に思い、顔をあげると、二人の視線がかち合った。
「――なによ」
が耐えきれずそう言った。
「いや」
ハリーは少し嬉しそうにまた歩き出した。
「じゃあ実行に移してもらおうかな、」
ハリーはと繋ぐ手に少し力が入った。
「当たり前でしょ」
はそっぽを向いて返事をした。
「次の週末は私と一日中デートだからね!」
喜んで、とハリーはを引き寄せ、その頬にキスをした。
「でもなんで今日、朝からいなかったの?」
の機嫌も大分直り、二人はいつものように談話室のソファでくつろいでいた。
「君を喜ばせようと思ってね」
ハリーはにっこり笑い、どこに隠し持っていたのか、綺麗に包装された箱を差し出した。
「開けていいの?」
「いいよ」
はハリーから受けとると包み紙を丁寧にはがし、ゆっくりと箱を開けた。
「高級チョコレート!おまけにバレンタイン限定版!」
は嬉しさのあまりハリーに抱きついた。日中、彼がいなかった所為で学校中を逃げ回ったことなんぞ、綺麗さっぱり忘れていた。
「ありがとう!大好きよ、ハリー」
「どういたしまして、。僕も大好きだよ」
ハリーは内心単純だなあ、と呆れながらも、の喜ぶ姿に自分の頬も緩むのを感じた。
「食べていい?」
はじっとハリーを見ながらそう言った。
「もちろんだよ。君の好きにしていいんだよ」
ハリーの了解を取ると、は一粒のチョコレートを恐る恐る口に運んだ。
「どう?」
「おいしい!」
これぞまさしく幸せだとばかりには顔を綻ばせた。
「それはよかった」
「はい、ハリー」
ハリーも苦労して買った甲斐があったと、満足していると、突然隣から手が伸びてきてチョコレートを差し出された。
「ハリーにも一粒あげるよ」
無邪気に自分に笑いかけるに、ハリーは少し意地悪を思いつき、以上ににっこりと笑いかけた。
「食べさせてよ、」
一瞬、人目を気にした様子を見せただったが、今更のことだと思い直したようで、その手をそのままハリーの口元に運んだ。
「うん、おいしい」
に食べさせてもらったハリーもご満悦らしい。
「また来年も期待してるからね、ハリー」
がそう笑いかけると、ハリーはじゃあ、との耳元でささやいた。
「じゃあ、僕は次の週末に期待してるよ、。夜は寝ないつもりで頑張ってね」
な、とが真っ赤になるとハリーはにっこり笑った。
「何考えてんの!」
「の方こそ何を期待してるの?」
最っ低、とがハリーをにらみつけたが、ハリーは何とも思わないようで、ただ笑うだけだった。
遅かれながらバレンタインドリ^^
<update:2010.02.17>