きらきら
「せっかくのクリスマスなのに・・・・・」
は自分の額に手を載せて、心配そうな顔をする母親を見上げた。
「クリスマスだろうが、誕生日だろうが、ダメ。熱あるのに外出なんか出来るわけないでしょ」
「つまんない」
が頬を膨らませると、母親は呆れた顔をして、を見つめ返していた。
「家でだってクリスマスは楽しめるでしょう?」
「だめなの!」
は足をバタバタさせて、母親に抗議した。
「パパとリーマスとジェームズと一緒にロンドンに行く約束だもん」
駄々をこねる娘に、とうとう母親は怒りを露にした。
「いけません!あなたは家で大人しくしていなさい!」

一方、厨房には、たった今到着したばかりのリーマスが、暖炉前で暖まっているところだった。
「――そう。、熱出しちゃったんだ」
リーマスが残念そうな顔をして、隣に座るハリーを見た。
「うん。、すっごく悲しそうだったから、慰めてあげて。は先生のことが、大好きなんだ。一ヶ月も前から、先生たちと出かけるの、楽しみにしてたんだよ」
リーマスは顔には出さないが、暖炉では暖めきれない部分が暖かくなるのを感じた。
「ハリーは行かないって言い張ってたけどね」
そのとき、厨房にジェームズとシリウスが入ってきた。シリウスの手には空のゴブレットが握られていた。
「父さんと一緒に出かけたくはないよ。――それに、どっちにしろ、今日は行けないでしょ?が行けないんだから」
なんだかんだ言いながら、ハリーだってのことが好きなのだ。
「ま、それもそうだけどさ」
ジェームズが納得して頷いた。
の熱は高いのかい?」
リーマスはシリウスが手に持つゴブレットが気になって、そう尋ねた。
「いや、まだ微熱程度だけど、あいつは微熱でも油断するとすぐ酷くなるから念のためだ――駄々をこねて、今日一日、家に居させるのが大変そうだ」
シリウスは苦笑すると、台所に引っ込んで、リリーからお盆を受け取った。
にあげに行くの?」
ハリーが少し興味ありげにシリウスを見た。
「ハリーはの部屋には出入り禁止だ。ウィルスが充満してるからと、リリーにきつく言われただろう?」
シリウスが先を越してハリーにそう言うと、ハリーは図星だったようで、少し膨れた。
「ただの風邪じゃないか。そんな簡単にの風邪は移らないよ――母さんは心配性なんだ。ねぇ、シリウス、良いでしょう?」
ハリーが上目使いでシリウスを見ると、シリウスは揺れ動いているようだった。あともう一押し、とハリーがそう思い、追い撃ちをかけようとしたそのとき、リリーが台所から出てきて、ハリーをはたとにらみつけた。どうやら話を聞いていたらしい。
「だめよ、ハリー。あなたはまだ子供じゃない」
「都合の良いときだけ、大人扱いするくせに」
ハリーがそう言って、リリーをにらみかえすと、ジェームズがやれやれと肩をすくめた。
「――わたしはさっさとに食事を届けにいかないと」
シリウスが思い出したようにそう言った。
「シリウス、わたしも一緒に行っていいかな?」
すると、リーマスが一緒に立ち上がった。
「ああ、リーマスが行ってくれたら助かるわ――をなだめてきてくれないかしら。もう手に負えないの」
シリウスの代わりにリリーがそう返事をすると、ハリーがまたリリーに歯向かった。
「先生はの部屋に行けるのに」
「あなたは駄目」
リリーが即座にそう言い返した。
そんな二人の会話をニコニコと聞きながら、リーマスはこの家がいつまでたっても中心で回っているな、としみじみ思った。
「おい、リーマス、行くぞ」
ぼんやりとしているリーマスを、シリウスは現実に呼び戻した。
「あ、うん」
リーマスはシリウスの後を追いかけて厨房を出て言った。

、入るぞ」
シリウスが部屋のドアをノックし、中に入ると、もぞもぞと毛布が動いた。
「ねー、もう起きていい?」
少し鼻声のがぱっちり目を開け、シリウスを見た。
「まだダメだ。お昼までは寝てなさい」
シリウスはきつくそう言い聞かせ、の勉強椅子をベッドの脇まで移動させ、お盆を彼女に差し出した。
「ベッドで食べられるなんて、お姫様みたい」
は楽しげにそう言うと、シリウスからお盆を受け取った。そして、シリウスは枕やクッションを引き寄せて、が上半身を起こしても辛くないようにした。
はいつでもお姫様だよ」
美味しそうにご飯を食べるを見ながら、リーマスが小さくつぶやいた。
「本人には言うなよ、図に乗るから」
そのつぶやきが聞こえたらしく、シリウスがリーマスに返事した。
「あれだけ過保護なら、もう気付いていそうだけど?」リーマスが笑った。
「そこらへんは大丈夫さ。あいつは頭が弱いから」
シリウスがを見ながら言ったためか、それとも二人で頬を緩ませていたためか、は敏感にも自分の話だと感づいたらしい。鋭い語調でシリウスに問い掛けた。
「ちょっと、パパ?何、話してるの?」
「さあな」
娘をからかうのが相当楽しいのか、シリウスはに一言、そう言っただけだった。
「なんで教えてくれないの?」
が頬を膨らませ、シリウスを見た。しかし、シリウスはただニヤリと笑っただけで、には答えようとしなかった。
「リーマスは私のこと好きだよね」
突然、がリーマスにそう言った。どこからその自信がくるのかは分からないが、の目は輝いていた。
そんなに、シリウスは一言突っ込もうとしたが、リーマスの方が早かった。
「うん、好きだよ」
照れる様子もなく、リーマスはさらりとそう言った。リーマスの隣で、シリウスが唖然とリーマスを見ていたが、二人ともそんなことは気にしなかった。
「じゃあ、教えてくれるよね?」
がぱっと顔を輝かせ、リーマスを見た。
が可愛いって話だよ」
「ママとリリーの方が可愛いよ」
間髪を入れず、が言い返した。
「あの二人は『可愛い』じゃなくて『美人』って言うんだよ、
リーマスが優しくに言い聞かせた。
「それ、ジェームズにも言われた!」
何が楽しいのか、はクスクスと笑い出した。
「――っていうか、お前はさっさと食べろ」
シリウスがやっとがまだ食べ始めていない事実に気付き、そう言った。
「シリウス、良いじゃない、今日くらい。クリスマスなんだよ?」
リーマスがシリウスをなだめると、シリウスは苦笑しながら、のベッドに腰を下ろした。
「なら、クリスマスなんだから早く風邪治せ。熱が下がったら、遊びに行くんだろ?」
を引き寄せて、シリウスは彼女の頭を撫でた。その心地良さには安心した。
「うん。みんなと遊びに行く」
にっこりと満面の笑みを浮かべ、はシリウスを見上げた。
「良い子だ」

「メリークリスマス、
「メリークリスマス――」
その日の夕方、ロンドンのとある郊外で、一人の女の子と、その周りに優しく微笑みながらその様子を見る三人の大人と一人の男の子がいたのは言うまでもない。
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クリスマスドリ。スランプ気味かも;;
<update:2007.12.15>