ずるいひと
「ねえ、ジェームズ。私、そろそろ良い季節になったと思うのだけれど」
は優雅に紅茶を飲みながら、目の前に座るジェームズを見た。一方、の隣に座りながら、何の話だろうと注意深くジェームズを見た。
「そうだねえ。ハロウィン気分も大分抜けたからねえ」
どうやらジェームズはが何を言いたいか理解しているらしく、はそれがまた面白くなかった。しかし、何の話かと素直に訊くような性格は生憎持ち合わせていなかった。それを見越してか、ジェームズがに問いかけた。
はどう思う?」
ジェームズの口元がヒクヒク動きたそうにしているのを見て、はからかわれていると気付いた。
「私に訊くより先にパパに訊くべきだと思うわ」
上手く逃げたね、とジェームズが残念そうに笑うと、が笑って言った。
「それはそうよ。私の娘なんだから」
「忘れてたよ、
ジェームズはそう言い残し、に言われた通り、シリウスを探しに行った。
「ツリーを飾るのよ」
はジェームズがいなくなると唐突にそう言った。
「そっか、もうすぐクリスマスだもんね」が頷いた。
「そうよ。プレゼントも何か考えないと」
が楽しそうに言った。
そして、その直後、階下からジェームズの嬉しそうな声が響いてきた。シリウスがツリーを飾る許可を出したらしい。

翌日、はハリーと一緒にクリスマスプレゼントを買い物に出かけた。まだ魔法学校に通っていない未成年のハリーとは、クリスマスツリーや家を飾る手伝いが出来なかったのだ。しかし、それを差し引いても、クリスマスツリーを出し舞い上がる自分たちの両親やリーマスのテンションについていけなかった部分が大きい。
早々に家から引き上げると、マグルのモールに向かった。知り合いがいるかもしれない魔法界では買い物をしたくない、という二人の意見が一致したためだった。
「うー、寒いね」
は肩をすぼめて、身震いした。
「そう?」
一方、ハリーはなんでもない様子でそう言った。
「ハリーは鈍感なんだから」
が呆れたようにそう言うと、ハリーはやれやれと彼女の機嫌を損ねないうちに自分のマフラーを差し出した。
「コートしか着ないからだよ。今日は結構冷えるって母さんたちが言ってただろう?」
「ありがとう――でも、ちゃんと中は三枚くらい着てるよ」
は遠慮なくハリーのマフラーを首に巻き、彼を見た。
、それ、着すぎだよ。代謝悪いんじゃない?」
ハリーが笑った。
「なにそれー!」
そして、が食って掛かると再びハリーは楽しげに笑った。
「冗談だよ――もう寒くないだろ?」
今度こそブスッとふくれてしまったを宥め、ハリーはに問いかけた。
「寒くなくなったけどさ」
もマフラーを借りているのであまりへそを曲げているわけにもいかない。マフラーを返せと言われてしまってはたまらない。ハリーにしてみれば、そんなことはあり得ないのだが。
「じゃあ機嫌直して」
ね、とハリーに微笑まれ、は少し腑に落ちない部分もあったが、つられて微笑んでいた。
「ところでさ」
はかすかにハリーの香りがするマフラーに安心しながら彼を見た。
「ハリーはもうクリスマスプレゼント決めてる?」
のどこか頼りたそうな視線を見つめ返しながら、ハリーは慎重に言葉を選びながら答えた。
「ロンのはもう決めたけど、ハーマイオニーのは君が決める予定だろ?それで両方二人で割り勘って――」
「そうじゃなくて、パパたちの分よ」
がじれったそうに言った。
「父さんたち?特に決めてないけど・・・・・」
じゃあ、との目が輝き、ハリーはとっさにマズイと感じた。
「あのね――」
「ダメ」
視界の端でがむくれるのがわかった。
「まだ何も言ってない」
「聞いたら僕まで巻き込まれそうだから」
ハリーはそう言い返した。
「君の場合、突拍子もないしさ」
ちゃんと聞いてよ、とがハリーの腕を引っ張り、やや上目遣いで懇願するように彼を見れば、ハリーは否応なし耳を傾けるのだった。
「庭にね、花を咲かせるの」
ハリーはそれを聞き、いくらか拍子抜けした。思ったよりも現実味がある。
「でも今、冬だよ。
「だから貴重なんじゃない」
嬉しそうには続けた。
「庭一面に百合を咲かすの。隙間ないほどびっしりね。パパたち、みんなが好きな百合の花を庭に咲かすの」
ハリーは悪戯っぽい笑顔のと同じく、悪戯っぽい笑顔を浮かべて彼女を見返した。
「――いいね」
そうと決まれば、と二人は来た道を戻り、魔法界へと向かった。
久しぶりにダイアゴン横丁に来てみれば、ハロウィンの飾りが一掃され、あたりはクリスマスを楽しむ人々で賑わっていた。
「多分、あれよね。悪戯専門店で何倍にも複製できる液体と、急成長させる塗り薬を買えばいいかしら」
「その他のは?」
ハリーが訊いた。
「百合の種は家に帰ればあるし、冬場だから庭に雑草もそんなに生えていないんじゃないと思うし」
はこれでよし、と専門店へ足を早めた。
、待ってよ!でもそれだけで庭一面に百合を咲かすなんて出来ないんじゃ――」
はにっこり笑顔を浮かべ、ハリーを見つめた。
「私を誰だと思ってるのよ。それだけ揃えばあとは私の力でなんとかなるわ」
ハリーは不覚にもに見惚れ、しばらくその場から動けなかった。
「ハリー、おいてっちゃうよ!」
数メートル先でが振り向き、ハリーは走ってに追いついた。
「ホント、君って良い度胸と根性と、それと豊かな才能持ってるよね」
ハリーはため息まじりにそう言った。
「それ誉められてるのか、わかんないよ」が苦笑いした。
「でもね、ハリー。私の良い度胸と根性と、それと豊かな才能って、いっつもハリーが隣にいるときにしか使えないんだよ」
不意打ちでがそんなことを言うものだから、ハリーは顔を真っ赤に染めた。
「早く買って家に帰ろ。私、また寒くなってきた」
「・・・・・僕は暑いよ」
ハリーはそう言っての手を握った。
「ホントだ。暖かい」
がクスクス笑うと、ハリーがふてくされた声を出した。
「誰のせい?」
「ハリーの日々の行いが悪いからよ」
は楽しげに笑った。
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なんか、微妙に尻切れトンボ。
<update:2009.11.18>