友達の誕生日パーティーならまだしも、自分の母親の誕生日にドレスを着させられた身としては、迷惑この上なかった。おまけに、かつてのテリーの友人たちやら、不死鳥の騎士団員やらも勢揃いだ。シェラーはこのときばかりは、人気者の母親を恨めしく思った。
「リリー、本当に普通の恰好じゃダメ?」
シェラーは椅子に座って、自分の髪を可愛くセッティングしているリリーに問い掛けた。
「ダメ。誕生日みたいなめでたい日はちゃんと祝わなくちゃ。そうでなくても、世の中にはあまり良いことなんてないのに」
出来た、とリリーはご機嫌な様子でシェラーを開放した。シェラーのサラサラな黒髪は、可愛く二つに縛られて、柔らかく巻かれていた。
「大丈夫よ。みんな正装だから。気にすることないわ」
リリーはシェラーの首に、シンプルなハートのアイテムが付いたネックレスを付けながら言った。
「そうじゃないわ。そうじゃなくて――このピンクのドレス」
シェラーはいきなり立ち上がるとクルリと一回転してみせた。
「とっても可愛いわよ」リリーがにこにこと言った。
「動きにくいの!」
シェラーが抗議しても、リリーは聞く耳を持たなかった。そして、シェラーの頭に小さなティアラを飾り付け、彼女を引き連れて客間に向かった。
「シェラー、すっごく可愛い!」
すでに部屋で二人の到着を待っていた男性軍はシェラーのドレス姿に感嘆の声を上げた。傍らでテリーが微笑んで、リリーに「ありがとう」と言った。
「シェラーをあなたと被らないようにメイクアップするのは大変だったわ」リリーがシェラーを横目でチラリと見た。
「でも、流石リリーだわ。シェラーがとっても可愛い」
テリーは嬉しさのあまりリリーに抱き着いた。
「シェラーは不満みたいよ」リリーはクスクスと笑ってシェラーを見た。
「なんで?とっても可愛いのに」
ジェームズがそれを聞き付けてシェラーに抱き着こうとしたが、シリウスに襟首を引っ張られ、それは出来なかった。
「ドレス着るのはママとリリーだけで充分じゃない」
「華は多いに超したことはないよ」
ジェームズがにっこりと笑ってそう言った。シェラーもやっと観念したのか、テリーの誕生日パーティーを楽しむ気になったようだった。
「テリー、おめでとう!これ、誕生日プレゼントよ」
トンクスはショッキングピンクの髪に、シェラーよりもう少し濃いピンクのドレスを来ていた。
「テリー、おめでとう」
マクゴナガル先生はシンプルな淡い青のドレス姿だ。
「本当に、ありがとう」
シェラーは心から嬉しそうに笑う自分の母親を見て、なんだか幸せな気分になった。
「嬉しそうだね」
後ろを振り向くと、ルーピンが微笑みながらシェラーを見つめていた。シェラーはテリーをチラリと見て、ルーピンに視線を戻した。
「ママはみんなと一緒にいるのが好きなのよ――」
「違うって」ルーピンは苦笑して、シェラーをさえぎった。
「テリーも嬉しそうだけど、君も嬉しそうだから――さっきまであんなにふて腐れた様子だったのに」
シェラーはルーピンの洞察力に、正直言って舌を巻いた。彼は誰よりも他人の変化に敏感なのかもしれない。
「ママを悲しませたりするのは、私のポリシーに反するの」
ルーピンは相変わらずの母親溺愛症状に苦笑いすると、シェラーに片手を差し出した。
「ダンスパーティーするって。シェラーもおいで」
シェラーは少し躊躇しながらもルーピンの手に自分の手を重ねた。ルーピンは優しく微笑んで、シェラーをエスコートした。
部屋には数少ない女性とペアになった男性と、残りものの男性がいた。その中にはジェームズがいて、リリーはハリーと一緒にいた。
「リリーはハリーとが良いって言うんだ」
ひどいだろう、とジェームズはルーピンに泣き付いた。
「相変わらずだね、二人とも。テリーはシリウスに取られたんだ」ルーピンは部屋の片隅で仲良く談笑している二人を見つけた。
「ムーニー、僕のことは慰めてくれないのかい?」
「生憎、わたしにはパートナーがいるから」
ルーピンはにっこり笑いながら、シェラーと繋いだ手をジェームズに見せ付けた。
「シェラー、僕よりリーマスを取るつもり?」ジェームズがシェラーに詰め寄ると、ジェームズとシェラーの隙間に黒い影が入ってきた。
「シェラーは僕のパートナー。母さんがルーピン先生と踊りたいって言ってる」
ハリーがジェームズに笑い返しながらそう言った。すると、リリーも近づいてきて、ハリーの言葉を裏付けた。
「シェラー、一緒に踊ろう?」
「えぇ、いいわ」
シェラーは微笑みながらハリーの手を取った。傍らではリリーがルーピンの申し込みを快く受け入れていた。
「シリウス!」
ジェームズが部屋の隅のシリウスに泣き付いた。テリーがクスクス笑っているが、シリウスはうっとうしそうな顔だ。
「ジェームズがちょっと可哀相ね」
シェラーがハリーを見上げた。
「まあね。でも、母さんも素直じゃないから」ハリーはルーピンと仲良く話しているリリーに目をやった。
そのとき、部屋にリズミカルな音楽が響き渡った。シェラーはハリーに「踊ろう」と誘われてステージに出た。すぐ近くでは、ビルとトンクスが踊っている。
「シェラー、太った?」
「なっ!」
ハリーがいきなりニヤッとした表情でシェラーを見た。シェラーはびっくりしたあと、すぐに怒った顔になった。すると、ハリーは今度はクスクスと笑って「冗談」と言った。
「冗談に聞こえない!」シェラーがハリーをキッと睨むと、ハリーは笑いながら謝り、ステップを踏みながらシェラーを引き寄せた。
「シェラーは太ってないって――」
ハリーはシェラーの腰を両手で掴むと、音楽に合わせて抱き上げた。
「――こんなに軽いしさ」
再び地面に足が付いたとき、シェラーの顔は真っ赤だった。観衆の中から「ずるい!」と叫ぶジェームズの声が聞こえる。
「ハリーのバカ!」
シェラーが赤い顔でハリーを睨むと、ハリーはニヤリと笑って、音楽に合わせて、またシェラーを持ち上げた。
「僕に勝つのはまだ早いよ」
ハリーはシェラーをリードしながらステップを踏み続ける。シェラーはまた赤い顔でハリーにリードされながら、優雅にターンする。
「ハリー、シェラーに手を出すのはまだ早いよ!」
群衆の中からジェームズが叫んだ。シェラーは目をハリーと合わせると、二人同時に吹き出した。
ため息をつきたくなるような、ジェームズ&ハリーの言動。
<update:2007.05.06>