チョコレートケーキ
「さあ、出かけるぞ、
シリウスはまだ産まれたばかりの赤ん坊を抱き上げると、微笑みかけた。
「シリウス、早く。二人とも待ってるわ」
を見て和んでいるシリウスにそう言って、ローブを彼に投げ付けた。
が怪我したらどうする!」
はもう魔法の能力を発揮したわ。たかがローブを投げ付けられたくらいで怪我しないわよ」
はシリウスの腕からを取り上げて、に小さなセーターを着せた。もう春だったが、にとってはきっと凍えるほど寒いのだろうから。
「シリウス、まだ?」もたもたとローブを着るシリウスに、は大声を出した。一刻も早く、としてはジェームズ――いや、リリー――に会いたいのだ。
「わかったって、。もう良いよ」シリウスはそれを知ってか、小さな笑いをもらすと、ちょっと不機嫌になったの背中を押しながら外へ出た。
「良い天気だな」
シリウスはに歩調を合わせながら、空を見上げた。青く澄んだ空は、今の時代に暗い影があることを忘れさせてくれる。
「マァマ」
の腕の中でもぞもぞと動いた。
「あら、どうしたの?が優しい笑顔を向けた。
「ダァダ」
は隣を歩くシリウスに手を伸ばし、そして一瞬にしてシリウスの腕の中に移動した。
、魔法は使用禁止なの!」が周りのマグルに聞かれないように小声でを咎めても、にはあまり効果はなかった。
「アリー」
「ハリーだろ?」
一方、シリウスはが自ら自分の許へ来てくれたことが嬉しいのか、ご機嫌な様子での相手をしていた。
「シリウス、を甘やかさないで!」
が怖い顔をしても、既にシリウスは慣れっこで、彼女に優しくキスの雨を降らせれば、既に自分の手の中だ。
「心配するな、大丈夫だ――」
「ちょっと、ちょっと、そこのお二人さん」
突然、声をかけられたかと思うと、シリウスとの間にジェームズが割り込んだ。
「昼間から、公共の場でいちゃつかないでくれないかな」
!」
リリーはハリーをだっこしていたため、に抱き着けなかったが、満面の笑みを浮かべての名前を呼んだ。
「どうしたの?リリー。待ち合わせ場所は漏れ鍋でしょう?」がきょとんとして聞いた。
「あなたたちが遅いから迎えに来たの!」
「ごめんね、リリー」
母親になったとしても、リリーとの関係は相変わらずだった。
「ァリー」
はシリウスの腕の中で、機嫌良くハリーの名前を呼んだ。
は僕よりハリーが好きなのかい?」
ジェームズはハリーの名前を呼んだことにショックなようで、悲しそうにそう言った。しかし、誰もそんなことを気にする気はなく、ハリーとをしっかりと抱きながら歩きだした。

「こんにちは!」
が少し年期の入った扉を開け、彼の家へ足を踏み入れた。
「リーマス、久しぶりね」
家の奥から出てきたリーマスにリリーがにこやかに話しかけた。すると、リーマスも柔らく微笑んで、調子を尋ねた。
「みんな元気さ」ジェームズが答えた。
「リーマス、また痩せたんじゃない?ちゃんと食べてる?」が上から下までリーマスを眺めてそう言った。
「食べてるよ、」リーマスが苦笑した。
「ハリーもも大きくなったね」
リーマスはリリーとシリウスの腕の中で幸せそうに笑う二人を見た。
「ケーキ買ってきたんだ――奥にどうぞ」
リーマスに続いて客間に入れば、ワンホールのチョコレートケーキが置いてあった。ちゃんと七人分、紅茶がたっぷりと入ったカップが用意してある。
「お前、まだチョコレートなんか好きなのかよ」シリウスが不満げに、半ば呆れたようにリーマスに言った。
「チョコレートをバカにするとバチが当たるよ、シリウス。対吸魂鬼用には最適だ」
リーマスはローブからチョコレートを取り出すと、シリウスの腕の中で自分を見上げるに、それを与えた。は嬉しそうにチョコレートを食わえた。
はチョコレート好きだって」
「俺は嫌いだ」
チョコレートケーキを睨みつけながら、シリウスは椅子に座った。
「相変わらず、チョコレート嫌いなんだね、君は」ジェームズが大人げない、とクスクス笑った。
「おまえらが異常なんだよ」シリウスは身震いして言った。
「ケーキ」
そのとき、シリウスの腕からは飛び出して、机の上に飛び乗った。
「あ、こら!」
を引き戻そうと手を伸ばしたが、はその手をサラリとくぐり抜け、チョコレートケーキへまっしぐら。
「良いよ、。ケーキ食べても」
チョコレートケーキに手をぺたぺたと貼り付けては、手に付いたチョコレートを食べるを見ながら、リーマスが笑いながら言った。ジェームズも、を羨ましげに見ているハリーに気付き、リリーの腕からハリーを取り出すと、机の上に優しく乗せた。すると、ハリーは一目散にチョコレートケーキに近寄ると、と同じように手をぺたぺたケーキにくっつけては、その手を自分の口へ運び、嬉しそうな顔をする。
「ちょっと、ジェームズ?」
一向に子供を叱る様子がないジェームズにリリーは詰め寄った。
「子供たちに、あんな真似させて――」
「大丈夫だよ、リリー」
リリーに詰め寄られて、少し苦笑いしているジェームズにリーマスが助け舟を出した。リーマスの言うことはリリーもも素直に受け入れる。
「ハリーもも、規則や行儀に縛り付けだと、あんまり良い子にならないよ。ジェームズもシリウスも学生時代のいたずらから学ぶことはたくさんあったんだから」リーマスがにっこり笑った。
「たとえば、人をだまくらかす方法とかね」
二人はリーマスの笑みに寒気を覚え、思わず、リーマスから視線をそらした。
「まあ、その分、この二人はきっと良い子になるよ」
その後、そのリーマスの言葉が実現するとは、知るよしもない。
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ほのぼの夢です。
<update:2007.05.06>