old tale 昔噺
ある日のお昼過ぎ、は両親の部屋にいた。普段から両親の部屋には出入りしているし、家族であるため、別に咎められることはない。ただ、今のようにキョロキョロと何かを探している様子は、普段なら見つかったら確実に理由を吐かせるまで解放しないだろう、とは思った。
「ママとパパが隠しそうなとこっていったら――」
は本棚の右下の微妙な空間を見つけた。そこはまさしく薄いアルバムが入りそうな隙間が空いている。
「まあ、ものは試しに・・・・・」
は杖を取り出し、その一画を叩いた。すると案の定、古そうな色褪せた表紙のアルバムが現れた。
「見つけた」
はニヤリと笑うと、アルバムを手に見つからないうちに両親の部屋を出た。そして、厨房に降りていき、シリウス、ジェームス、リーマス、ハリーに見せびらかすようにアルバムを高々と上げて、宣言した。
「良いもの見つけちゃった」
「お前!どっからそれを」
シリウスが焦った表情でそう言った。
「パパとママのお部屋」
はちょっと可愛い子ぶって甘えてみたが、シリウスには効かないらしく、の手の中にあるアルバムを取り上げようとした。しかし、それより早く、はさっとアルバムを机の上に広げると、最初のページを開いた。
「パパが若ーい!てか、若いときはかっこよかったのにね」
が正直な感想をもらすと、頭に拳が降ってきた。どうやら取り上げるのは無理だと判断したらしい。
「今も若いしかっこいい、の間違いだ」
「・・・・・何も殴らなくったって」
が恨めしそうに父親を見ると、彼はフンと鼻を鳴らしそっぽを向いた。
「でも父さんは全然変わらないね」
一方でハリーもアルバムを覗き込みながらそう言った。
「まあね。いつでも完璧だからかな」
ジェームスが得意気にそう言うと、リーマスがすかさずにっこりとして言った。
「つまり、いつも完璧にただの馬鹿だったってことでしょう?」
は部屋の温度が二、三度下がったような気がした。
「――リーマスも昔も今も変わらないだろ?」
ジェームスがささやかな仕返しをすると、ますますリーマスの笑みが深くなった。
はどう思う?」
リーマスは普段の顔に戻るとに問いかけた。
「そうね・・・・・なんか想像してた感じとぴったりかな」
リーマスっぽい、が写真を見ながらそう言った。しかし、リーマスはそれには答えず、アルバムから顔を上げてを見た。
「ところで、アルバムを引っ張り出してきて、一体どうしたんだい?」
「パパの若い頃ってどんなだったのかなーって思って。パパもママも学生時代の写真、絶対に見せてくれないんだもん」
へえ、とその言葉にジェームスが素早く反応した。
「何かまずい写真でもあるのかい?シリウス」
「・・・・・ない」
シリウスの正直な感想にみんな吹き出した。リーマスなどはツボに入ったのか、腹を抱えて笑っている。
「なら、早く次のページにいこう」
ハリーがを急かし、はページをめくった。
「これはなんの写真?」
とリリーがリーマスを挟み、髪の毛をいじってリボンを結んだり、可愛らしいピンで前髪を留めたりしている。
「これはたしか、リリーが家から送られてきた可愛いものでリーマスを可愛くしていたところだね、うん。確か一年生のクリスマスくらいのときかな?」
ジェームスが言った。
「確かこのとき、君はリリーに構ってほしくて、わたしの頭に付けてあったピンを自分の前髪を留めるのに使ってリリーに怒られたんだよね」
リーマスは笑いから復活したようで、懐かしそうにジェームスに言った。
「それにしたってあんときのリーマスは笑えたな!女と間違えられてさ」
シリウスが下に貼ってあった写真を指差した。
「こっちがそんときのリーマスだ」
はこちらにはにかみながら手を振る女の子をじっとみて、つい思ったことを口にした。
「なんか私、自信なくすかも・・・・・」
「確かにお前よりリーマスの方がかわい――ッ!」
ゴンッと音がして、シリウスが頭から湯気を出しながらテーブルに潰れている。
「ジェームス、ちゃんと手加減しないと。これ以上バカになったらどうするつもりだい?」
リーマスがジェームスを咎めると、ジェームスは大丈夫、と請けもった。
「これ以上バカになりようがないさ!」
「シリウスってたまに一言余計だね」
ハリーがため息をつきながらそう言うと、アルバムをまた一ページめくった。
「これ、クイディッチの写真?」
ハリーは写真に目が釘付けだ。
「あぁ、それはジェームスがスニッチをホグワーツ始まって以来の最短時間で見つけたときの写真だね」
リーマスが言った。もハリーの横から写真を覗き込むとスニッチを片手にジェームスが得意気に笑っているのが見えた。その周りにシリウスとリーマスとピーターが並んでいた。
「でもなんでパパたちのアルバムなのにジェームス達ばっかり載ってるの?私、ママとパパがデートしてる写真とか見たかったのに」
が不満げにそう言うと、いつの間にか復活したのかシリウスが笑って答えた。
「残念だな!このアルバムは学生時代からのわたしたちの記録だからそういう写真は別のアルバムに貼ってある」
「それに、シリウスとが付き合い出したのは七年生からだから、この写真よりあと五年先だよ」
リーマスにそう言われ、は膨れた。
「でもいいじゃないか。父さんたちの学生時代の思い出を聞いてるのも楽しいよ、
「んー、そうだね。――ねえ。この写真、パパとママの写真?」
はアルバムをパラパラとめくり、ふと一枚の写真に惹かれた。他の写真とは違い、きらびやかな写真だ。はシリウスにきいた。
「これか」
するとシリウスはどこか愛しそうにその写真を撫でた。
「六年生のクリスマスパーティのときの写真だよ、
ジェームスも愛しげにその写真を眺めながら言った。
、可愛いだろう?」
「うん、とっても!」
が大きく頷いた。
「この写真はね、。シリウスとがパートナーとしてダンスしたときの写真なんだよ。がシリウスからパートナーを申し込まれて一週間も悩んだ末、一緒に踊った記念の写真さ」
一週間も?
がびっくりして聞き返した。
「ああ。一週間もさ!その間はシリウスに会うたびに真っ赤で、リリーとリーマスに相談していて。シリウスはシリウスで一週間もダンスの誘いを断り続けてずっとの返事を待ってたんだ。このシリウスがさ」
はまじまじとその写真を見た。二人とも幸せそうにに笑いかけている。
「ちなみに噂ではこの日からお互いに意識し始めたらしいよ」
ジェームスがニヤリ笑って言うと、シリウスが珍しく、反論なしに赤くなった。
「じゃあそれから一年して、パパとママは付き合い始めたのね。一年間もパパ、何してたの?」
がそんなシリウスを弄ることもなく、そう聞くとリーマスが苦笑した。
はリリーと仲が良いし、シリウスはジェームスと仲が良い。でもリリーとジェームスは仲が悪い。あんまり近づくタイミングがなかったんだ。リリーのガードが固くてね」
ハリーがへえ、とシリウスを見た。
「僕はシリウスが学生時代、結構遊んでいたって聞いていたんだけど」
「ああ!取っ替え引っ替えだったさ!ぜんぜん長続きなんかしなかった」
ジェームスが楽しそうにそう言った。
「最長で3ヶ月さ」
はちょっと顔をしかめた。
「ママはそれでよかったの?」
もシリウスの飽きやすい性格は知ってたし、他の女の子と違ってシリウスの方から告白したからね」リーマスが答えた。
「それ、どういう意味?じゃあシリウスはいつも女の子から告白されてたってこと?」
ハリーが目を丸くし、シリウスを見た。確かに娘の目からみてもシリウスはハンサムだし、育ちも一応良い。その上頭の回転も早く、言うことなし、だ。
「シリウスは学生時代モテモテだったからね」
「なんか腹立つ」
ジェームスの言葉に、は吐き捨てた。
「なんとでも」
しかし、シリウスは特になんとも思っていないようで、しらっとしている。
「まあ、シリウスもと付き合うにあたってリリーやリーマスからの圧力があったからね。そんな生半可な気持ちじゃと付き合わなかったと思うよ」
ジェームスが一応フォローを入れると、リーマスがにっこり笑った。
「当たり前だろう?ねえ、シリウス」
シリウスはこくこくと頷いた。
「さてと、そろそろリリーもも帰ってくるころだ。、アルバムは上に片付けておいで」
はジェームスに言われ、素直にアルバムを閉じると立ち上がった。
「あーあ。もっとすごい話が聞けると思ったのに」
が残念そうに言うと、ハリーが仕方ないさ、との肩を叩き、アルバムを取り上げた。
「早く行かないと母さんたち帰ってくるからね、
ハリーはスタスタと先を歩いた。
「待ってよ、ハリー。ハリーは戻す場所知らないでしょ!」
は慌ててハリーを追いかけた。そして、シリウスたちに声が聞こえないところまでくると、はハリーの隣に並び、言った。
「私たちも将来のために、アルバム作りたいね」
「でも。君の場合はすぐに飽きるだろう?」
ハリーがやれやれとため息をついた。
「でも思い出は取っておきたいじゃない?」
が食い下がると、ハリーはの頭を一撫でして、にっこり笑った。
「思い出はアルバムにしなくったって、ちゃんと君の心の中には残っているだろう?」
は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔になり、大きく頷いた。
「これからも一緒に思い出つくろうね!」
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オチはハリー。
<update:2011.07.24>