グリフィンドールの女子生徒たちは談話室の片隅に固まっておしゃべりしていた。試験結果も発表され、あとは帰るだけとなった今学期にはそれくらいしかやることがない。
そんなとき、ふとラベンダーが思い出したように言った。
「ってお父さんと仲良しだよね」
「・・・・・そうでもないよ」
はしばらく自分の父親を思い浮かべてそう返事した。
「でも、あんなに素敵なお父さんってそうはいないよね」一人の女の子がのお父さんに反応して、そう言った。
「あら、私はの名付け親のルーピン先生の方が良いわ」別の子がそう口だしすると、また別の子も口だしした。
「それより、のお父さんと親友のジェームズさん。かっこいいよね」
それはどんどん伝染していって、の周りでは女の子たちが騒ぎ始めた。そして、そんなとき、自分が誰派なのか、どういうところが好きなのか、存分に述べた後、必ず行き着く先はいつも一緒だった。
「いいよね、は。三人とも独り占めできて!」
口を揃えて皆、そう言うが、じゃあ変わってやろうか、とは内心思った。周りが思っているほど、あの三人と一緒にいるのは楽ではないのだ。
「ホント、がうらやましいな」
ある女の子がそう言ったので、はちょっと不思議に思って、口を挟んだ。
「ハリーはうらやましくないの?」
「ハリーがうらやましいわけ、ないじゃない!」
すると、女の子たちは一斉に笑い始めて、周りの注目を一気に浴びた。
「は可愛いし、一人娘だし、ちょっと抜けてておてんばだけど、頭が良いし――男にとってはこれが良いのよ!」
ビシッと決めポーズをとられ、は呆気にとられた。褒められているのか、けなされているのか、よくわからない。
「意味がわからないわ」が肩をすくめると、ある女の子がハリーを呼んだ。ハリーはロンとクィディッチの話をしていたが、呼ばれたので、女の子の団体に近づいてきた。
「ハリーってと同じ家に住んでるわよね?」
「そうだけど」ハリーが答えた。
「ってお父さんとか、ハリーのお父さんとか、ルーピン先生に可愛いがられてるの?」
女の子がそう聞くと、ハリーはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。何か嫌な予感がする、とは急いでハリーの口を塞いだが、軽々と退かされて、両手ともハリーに捕まってしまった。ハリーはに「あまいね」と一言言うと、満面の笑みで女の子に答えた。
「そうだね、はとっても愛されてるよ、もちろんスネイプ先生にもね」
一斉に女の子の楽しげな悲鳴が上がった。自分たちが好きなシリウス、ジェームズ、ルーピンに愛されている上、スネイプにまで愛されていると知った興奮は凄まじいものだった。
はまずいと思って、ハリーの手を振り切って談話室から逃げ出した。ハリーには後で仕返しをしてやろうと心に誓いながら、向かうはルーピンの部屋。彼ならこの興奮状態の彼女らをどうにかしてくれるだろう。後ろから追い掛けてくる足音が聞こえる。しかし、調度良いところに、向こうからニコニコとルーピンが歩いて来るのが見えた。
「ルーピン先生!」がそう叫ぶと、ルーピンはクスクスと笑って、走ってくる一行を眺めた。
「君たち、一体どうしたんだい?」
ルーピンがそう問いかけると、女の子たちが一斉にを押し退けて前に出ようとした。はその勢いで転びそうになったところを、ルーピンに抱き留められた。女の子たちから「いいな」とか「うらやましい」とか「ずるい」という声が上がった。
「大丈夫かい、?」ルーピンはを自らの腕の中に押し込んで、囁いた。
「あ、はい。ありがとうございます」
一方、もそんなのには慣れっこになっていて、動じる様子もなく、普通に答えた。それがいけなかった。鋭い眼力の持ち主の女の子たちは普段からこういうことをしているのだと、すぐに察しがついてしまった。ますます騒ぎ立てる。
「ルーピン先生!」
集団の女の子の一人が手を上げた。ルーピンが「なにかな」と丁寧に聞いた。
「のこと、好きなんですか?」
女の子たちは真剣な眼差しでルーピンを見つめた。意外にも結構本気らしい。一方、ルーピンは苦笑いしてその様子を見ていた。こんなことを聞かれたのは学生時代以来だ。もっとも、その時は対象がではなく別の子の名前だったが――さて、なんて答えるべきかな。
「も好きだし、君たちも好きだよ」
ルーピンが華麗にそう言うと、黄色い声が上がった。自分たちも好いてくれているのを知って嬉しくなったのだろう。しかし、流石ルーピン先生、とは感心した。女の子たちはとっても嬉しそうだ。女の子たちは今だにベチャクチャとしゃべっている。ルーピンはそれを見てに言った。
「帰ったらどうしてこうなったか、じっくり聞かせてもらうよ、」
ルーピンはドス黒い笑みでそう言うと、を無理矢理頷かせた。は一刻も早くここから逃げ出したかったが、そう上手くはいかない。
「スネイプ先生だわ!」
一人の女の子が叫ぶと、一斉に他の女の子もそちらに注目した。スネイプは女の子の集団を挟んでルーピンと向き合っていた。はもぞもぞと動いてルーピンの腕の外へ出て逃げ出そうとしたが、ルーピンにきっちりと腕を掴まれて出来なかった。
「スネイプ先生!」スネイプは不愉快そうに女の子たちを見た。
「のことを可愛がっているって本当ですか?」
ピキッとスネイプの顔に明らかな怒りの表情が顕れて、がっしりルーピンに腕を掴まれているに視線が移った。
「セブルスものことが好きだったのかい?でもそればかりは譲れないね」ルーピンがにこやかに言ったが、には到底にこやかに聞こえなかった。女の子たちはを取り合う二人を興味深そうに見つめている。
そして、そのときまたややこしいのが現れた。
「!」
キャーと女の子たちの黄色い悲鳴が上がった。ジェームズとシリウスがルーピンの背後から走ってくる。
「どうしてパパたちが学校にいるのよ!」が怒ってそう叫ぶと、ジェームズはそれでも嬉しそうにに抱き着いた。
「ハリーに呼ばれたのさ!僕たちに会えなくてが悲しんでるって!」
ジェームズの熱い抱擁を受けながら、は後でハリーをどうやってとっちめようか考えていた。
「で、それてなんでスニベリーまでいるんだい?」ジェームズが今気付いたようにそう言った。
「セブルスもが好きなんだって」ルーピンが何気なくそう言うと、スネイプが「違う!」と叫んだ。
「勝手なことを言うな、ルーピン!」
「そうよ!スネイプ先生が好きなのはママなんだから!」
言っちゃった、と後悔したのもつかの間、とジェームズの頭の上を青白い光線が走った。
「おまえも馬鹿だな」が急いでジェームズの腕の中から逃げ出して、彼の背後に隠れると、シリウスが笑った。
「自分の娘に馬鹿とか言わないでくれない?」
「馬鹿なもんは馬鹿なんだから、馬鹿って言ってなにが悪い」
シリウスがを見て、ニヤリと笑った。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿って、さっきから!」がキッとシリウスをにらんだ。
「パパだって、ジェームズだって、ルーピン先生だって、スネイプ先生だって、馬鹿じゃない!――ハリー馬鹿に、リリー馬鹿に、チョコレート馬鹿に、魔法薬馬鹿でしょう!」
にっこりとジェームズとルーピンが笑い、シリウスが不敵な笑みを浮かべ、スネイプはギロリとを睨んだ。は再び、しまった、と思ったがもう遅かった。
「、もう言い残すことはないね?」
この様子を見ても、彼女たちは自分をうらやましいと思うあたり、どうかしているのでは、とは思いながら、猛ダッシュで廊下を走った。彼らが追い掛けてこないのは、きっと「忍びの地図」をハリーから貸してもらうからだろう。そして、獲物を――を――ゆっくり追い詰めて楽しむ。は自分をこんな親の元に運んだ鸛を恨んだ。だけど、とはちょっと立ち止まって窓の外にある空を見上げた。
「たくさん愛されてるんだよね」
は幸せそうに微笑むと、今度はゆっくりとグリフィンドール塔に向かった。
二周年記念のフリドリです。
一番の人気はやはりシリウスパパなのですが、今回は他のメンバーにも登場してもらいました。
愛される子を書いていたつもりだったのですが、いつの間にかいじられる子になってしまいました;;笑
言い訳したいことはたくさんありますが、書き始めたらきりがないのでここらで終わりにします。
いつもお世話になっている皆様に、感謝を込めて
今は配布しておりません。2007年4月23日配布開始。4月30日配布終了。