Happy End ハッピーエンド
「どうしてマグルはおとぎ話っていうハッピーエンドの話を作るのかしら」
はふとそんなことを口にした。
「ハーマイオニーに聞けばいいじゃないか。彼女はマグルに詳しいだろ?マグル学も取ってるんだから」
ロンが顔を上げずに言った。明日提出の宿題がまだ終わってないらしい。
「でも、どうして急にそんなこと・・・・・僕らにはあまり関係ないだろう?」
ハリーもロンと同じく、宿題が終わっていないようで、顔を上げずに聞いた。
「私、昔ハーマイオニーにマグルの童話を借りたのよ。そのときたくさんの王女様や女の子たちが必ず幸せになってるから良いなって思って。急に思い出しただけ」はしれっとして言った。
ハリーもロンもそんなことより、に宿題を教えて欲しかった。
、頼むからそんなことを気にするより僕らを気にしてよ」ロンが悲痛な声を出した。
「なんで?」
「明日提出の宿題が終らない」ハリーが後を引き継いだ。
「やだよ」
はプイッとそっぽを向いた。
「僕たちが処罰を受けてもいいの?」ロンがすがるように言った。
「たかが一回の宿題をやらなかっただけで処罰にはならないと思うわ。減点されるだけよ」は冷静にそう言い放った。
「頼むよ。僕らもなんでハッピーエンドになるのか調べるからさ」
ハリーは手を合わせ、を拝んだ。なんとなく、の堅い表情が揺らいだ。
、一生のお願い」
「一生のお願いなら前にも聞いた気がするわ」はロンの言葉に突っ込んだ。「いいわ、手伝ってあげる」
は半分騙されたような気がしながらもハリーとロンの宿題を手直しした。
「助かるよ」ハリーがホッとしたように言った。
「いつか、リリーに言ってやるから」
は脅すような視線をハリーに向けると、ハリーはギョッとして慌てた。そんなハリーにはしれっとして「冗談よ」と言った。
三十分後、ハリーもロンもの手助けのお陰で宿題が無事に終わった。
「さあ、約束は守ってもらうわよ」
「わかってるよ」ロンが宿題も終わり、うかれた表情で返事した。
「ねえ、。ハーマイオニーにまず聞こうよ」ハリーが立ち上がった。
「良い案ね」
は手をポンと叩くと立ち上がって図書館に向かった。ハーマイオニーがいそうな場所はそこしかない。
案の定、ハーマイオニーは図書館の隅っこにいた。難しそうな本を広げている。
「ハーマイオニー」
は小さな声でハーマイオニーを呼んだ。
「あら、。どうしたの?」
ハーマイオニーは本をパタンと閉じての方を見た。
「あのね、突然なんだけど、なんでマグルはおとぎ話っていうハッピーエンドの話をするの?」
ハーマイオニーはわけが分からないという顔をした。
「そんなのマグルだけじゃないわよ、。魔法界にだってハッピーエンドの話はたくさんあるわ」
「本、読まないもの」とはボソボソ言った。
「まあ、ハッピーエンドを何故書くのかって言われたら、その答えはせめて本の中だけでも幸せになりたいからじゃないの?」
ハーマイオニーは忙しいようで、それだけ言うとまた読書に戻ってしまった。
「うん、わかった。ハーマイオニー。参考にしてみる。ありがとう」
はあまり参考にならなかったな、と思いながら図書館を出ていった。
いつの間にかハリーとロンはいなくなっていた。は後でシメてやろうと決心し、長い廊下を行くあてもなく歩いた。
じゃないか。浮かない顔して歩くなんて珍しいな」
すると、前からマルフォイが珍しくお供のクラッブとゴイルを従えず、ニヤニヤ笑いながら近付いてきた。ハリーもロンもハーマイオニーもいないので、いつにも増して笑顔が輝いていた。
「ハッピーエンドはどうして存在するんだと思う?」
は相手がマルフォイだということを気にかける様子もなく聞いた。
「は?そんなことどうでもいいだろう。それより――」
何かを言いかけるマルフォイの横をは無言で通り抜けた。
「私、暇じゃないから」
は早歩きでその場を離れた。はマルフォイに聞いたことを激しく後悔した。
、そんな難しい顔をしてどうしたんだい?」
今度は前からセドリックがやってきた。
「そんな顔してた?」は頬に手を添えて顔をマッサージした。
「してた、してた。一体どうしたんだい?僕でよかったら相談に乗るよ」
はセドリックに笑われないか心配したが、いつの間にかすべて話していた。
「――そうだな。ハッピーエンド・・・・・別にハッピーエンドは現実にも存在しないわけじゃないから、多くの人々に希望を持たせるために書かれたのかな」
「でも、現実にはすべてがうまくいくハッピーエンドなんて有り得ないわ」はびっくりして言い返した。
「それはそうだよ」セドリックは笑った。
「楽しいことばかりじゃ何が楽しいのか、幸せなことばかりじゃ何が幸せなのか、分からないじゃないか。途中に壁があるからこそ、余計に楽しいことや幸せなことが引き立つんじゃないかな」
は少し考え込んだ。
「それに――」セドリックは後を続けた。
「ハッピーエンドだって本当にすべてが幸せなわけじゃないかもしれない。もしかしたら何か悩みが残っている場合もあると思う。だけど、それ以上の幸せがあるから嬉しくなるんだと思うよ」
はふと笑顔になった。
「ありがとう、セドリック。お陰で疑問がなくなったわ」
「どういたしまして」
はセドリックにお礼を言うと、スッキリした気分で図書館に向かった。もハッピーエンドの本を読んでみたくなった。
!」
その途中、は後ろから声をかけられた。ハリーだった。
「なに?」
はハリーがいつの間にかいなくなっていたのを思い出した。
「いや、母さんにハッピーエンドの話を聞いたんだ。そしたら――」
「ううん、もうハッピーエンドの話は解決したの」
はハリーの話をさえぎった。
「そうなの?」ハリーが驚いたように聞いた。
「うん、セドリックが話してくれたわ」
ハリーの表情が曇った。
「へえ」
「今、ハッピーエンドの本を読んでみたくて図書館に向かってるとこ」
はハリーの表情には気づかずにニコニコと話し続けた。
「自分ではハッピーエンドの話を作ろうとは思わないの?」ハリーは満面の笑みでそう聞いた。
「え?」
「本で読むより体験した方が分かりやすいと思うよ」
ハリーはの長い髪にそっと触れた。の頬が赤くなった。
「君は人の気持ちを知っててそうするの?」
ハリーの手がそのまま腰に回されたが、どういうわけか、は嫌とは思わなかった。
「あなたがそんな嫉妬深いとは思わなかったの」
は頬を染めながらハリーの肩に手を回した。
「誰が何と言おうと、これがハッピーエンドの話だと、僕は思うよ」
ハリーはを引き寄せてそう言った。は一般のハッピーエンドがこんなことだとは思わなかったが、これはこれでハッピーエンドだと思った。
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5万Hitのフリドリです。今は配布していません。
<update:2006.08.29>