グリフィンドール生で美人といったら、多分、リリーだろう。
しかし、可愛いといったら、きっとだ。
「おはよう、シリウス」
朝からは元気だった。
大体、いつもは明るい女の子だ。
たとえ、怒られたとしても。
「おは――」
「おはよう!」
挨拶を返そうとしたシリウスの横から、ジェームズが顔を出した。
「おはよう、二人とも」
は朝から賑やかな二人に挨拶を返した。
今日はバレンタイン。
ちょうどホグズミート行きと重なっていて、三年生以上はみな、楽しみなようではしゃいでいた。
「、ごめんね。今日は他の人と・・・・・」
リリーは顔の前で手を合わせて、すまなそうに言った。
しかし、顔にはウキウキとした表情が隠されないまま表れている。
「うん、わかってる。ジェームズとでしょう?私のことは気にしないでいいから楽しんできて」
は少し寂しいな、と感じながらもリリーに笑顔を向けた。
リリーはもう一度、に謝ってから、ジェームズが待つ方へと走って行った。
はその姿に苦笑し、ふと後ろを見ると、いつの間にかシリウスとリーマスが立っていた。
「よ!」
シリウスはニヤリとに笑いかけた。
「あら、シリウス。どうしたの?」
が言った。
「俺たちと一緒に回らないか?」
シリウスがストレートにそう言うと、リーマスは少し控え目に、断りたいんだったら――、と聞き取りにくい小さな声で付け足した。
「二人がそれでいいなら、私は構わないわ」
は少しはにかんで笑っているリーマスと自信あり気な余裕の表情を浮かべているシリウスに笑いかけた。
ホグズミートはバレンタイン一色だった。
それに対抗するように、カップルの数も多く、は自分が異色だな、と感じた。
「、こっちだよ」
突然、の腕がひっぱられ、は誰だろう、とその顔を覗いた――リーマスだ。
「あんまりよそ見してたらはぐれちゃうよ、。シリウスが寄りたいところあるんだって」
リーマスはそのまま器用にをシリウスがいるところまで連れてきた。
すると、シリウスの腕の中には何か、買った物がすでに抱えられていた。
「もう用は済んだから、の好きなところに行けよ。ついてくからさ」
シリウスはそう言ってに注目した。
「ううん、いいよ。多分、シリウスたちが行ったら異色だし、女の子たちに捕まっちゃうよ。今日はバレンタインだし。出来れば私はみんなと一緒がいいな」
「それなら人混みをなるだけ避けて、がいつも寄ってる店行くか?」
シリウスはリーマスと顔を合わせた。
リーマスも異論はなく、頷いた。
「よし、決まりだな」
シリウスは一人、スタスタと歩き始めてしまった。
はその後ろ姿を見ながら、いつもより数倍は焦っているな、と感じた。
しかし、何を焦っているのかは全く予想がつかなかった。
の行き着けの店は女の子用の小さな小物店で、デートスポットではないらしく、少し空いていた。
はいつも通り店の中を一通り見ようと、ゆっくり右回りに店の中を歩き始めた。
そして、新しく入荷したのか、クロスのネックレスがあった。
少し可愛いな、とは手にとった。
「それが欲しいのか?」
は驚いた。
まさか、後ろにシリウスがいるとは思わなかった。
「別に欲しいってわけじゃないけど、可愛いなって」
は肩をすくめてみせた。
「買ってやるよ」
「は?」
は我ながらま抜けな声を上げた。
「バレンタインの贈り物だよ」
シリウスの顔は少し赤くなっていた。
「お坊ちゃまのくせして顔を赤くするのね」
は珍しいものを見たことで少し嬉しくなった。
「あんな家、つまらないだけだ」
シリウスはそう言って、の返事も聞かず、ネックレスを取ってレジヘと向かった。
そして、数分後、戻って来た彼の手の中には仄かに暖かい贈り物があった。
ホグズミートから帰ってくる途中、シリウスは案の定、女の子たちに捕まってしまった。
「先に戻ってるよ、シリウス」
リーマスは爽やかに、半ば黒く、シリウスに笑うとと連れだってグリフィンドール塔に向かった。
「シリウスは置いてきてよかったの?」
はリーマスに聞いた。
「うん、大丈夫だよ。シリウスが本当に彼女たちを振りきりたいんだったらとっくにそうしてるから」
そして、リーマスとは談話室のドアを開けた。
しかし、中にはほとんど人はいなかった。
「みんなチョコ渡しに行ったのかな」
はそう呟くと、暖炉の前に腰をおろした。
「は誰かに渡さないの?」
リーマスも隣に座った。
「うん。私、リリーみたいにまだ大人じゃないし、意識する人だっていないもの」
は寂しそうに笑った。
すると、スッと目の前に可愛くラッピングされた箱が出てきた。
「さっき、が買い物している間に買ったんだ。お菓子だったら、は喜んでくれるかな、って思って」
リーマスはそう早口で言うと、急いで談話室から出ていってしまった。
お礼を言う暇さえなかった。
は夕食の時に言おう、と決心すると包みを破かないよう、丁寧に開いた。
中身は明らかにリーマスの趣味のようだったが、幸い、もリーマスの趣味には賛同していたので、また包み直すと寝室に持って行った。
夕食も終わり、は送られてきたバレンタインの贈り物を運ぶのをシリウスとピーターに手伝って貰いながら寮へと向かった。
「ありがとう」
結局、寝室の前まで運んできてくれた二人には心から感謝した。
寝室のドアを閉めて、はベッドに倒れこんだ。
一日の疲れが一気に押し寄せてきた。
しかし、まだのバレンタインは終わっていなかった。
枕元にラッピング済みの小瓶と二つ折りの手紙があった。
「誰だろう」
は寝室に誰もいないことを確認すると、ゆっくり手紙を開いた。
中身はムスクラットの香水だ。
S.S
はその手紙を見て、思わず、ニヤリと笑った。
スネイプからの手紙だとすぐにわかった。
明日はこれをつけてお礼を言いに行こう――はそう思うと重たくなった瞼を下ろした。
夢さえ見ずに、眠りについた。
ムスクラットの香水=ジャコウネコの分泌物
<update:2006.02.14>